王様のいいなり!

まぁ

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「うぅ……」
 部屋に戻る途中で加奈は廊下の隅で丸くなった川田と遭遇した。
「ちょっと川田君!大丈夫?」
「あぁ、霧島さん。ちょっと小早川常務に飲まされて……」
 よく見るサラリーマンの光景だが、川田の言った小早川常務とは、大の酒豪で、つき合わされる部下達はここぞと揃って酒に潰されるのがお決まりなのだ。
「そりゃ相手悪かったね。とりあえずそこに座ってなよ私何か買ってくるから」
 近くにあった長椅子に川田を座らせ、加奈は近くの自販機でお茶を買って川田に差し出した。
「大丈夫じゃないだろうけど大丈夫?」
「ありがとうございます。これ、絶対に二日酔いですよ明日……」
「だろうね。ご愁傷様……」
 その場を去ってもよかったのだが、気分が本当に悪そうな川田を放置も出来ず、しばらく川田の面倒を見る事にした。ここに明人がいない事が何よりのだ。いたら必ず悶着が起きていたはずだ。
「あの、少し我まま言っていいですか?」
「何?」
「肩、貸して下さい」
「それくらいだったら全然いいよ」
 ストンと加奈の肩に頭を乗せた川田は「かっこ悪いですよねぇ」と言って目を閉じていた。
「仕方ないよ。それにしてもよく小早川常務と今までいれたね」
「逃げ出すタイミングがなかったんです。俺、壁際にいて、その反対に小早川常務いたんで……」
「それは本当に災難だね」
「えぇ、まったくです」
 いつになく弱々しい川田。こうしてみると子犬のようにかわいいものだ。さっきまで明人といたのに、川田といるとつい世話をしたくなるほど和む。
「あの、霧島さんって、今まで南条さんといましたか?」
「えっ?何で?」
「たばこの匂いがします……」
 ゲッとなった加奈は、つい声に出しそうになったのを押しとどめた。
「もしかして今まで二人でいたんですか?」
「えっと……う、うん。呼び出されて」
 正直に答えると、川田は加奈の肩から身を起こし、じっと加奈の顔を見つめた。
「川田君?どうしたの?てか大丈夫?」
「霧島さんは本当に南条さんでいいんですか?」
「どういう意味?」
「俺じゃ、ダメなんですか?」
 川田の潤んだ瞳は酒のせいなのかどうなのかわからないが、今にも泣きそうだ。いつもは子犬のように見える瞳も、今は色気が籠っている。その瞬間、これは危ないというセンサーが働いたが、もう遅かった。
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