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七月の終わりになり、加奈の会社では数年ぶりの社員旅行が開催される事になった。
飛行機をチャーターし南の島へ移動してからはバスでの移動。バスはそれぞれの課ごとに乗り込む事となり、下っ端の川田や加奈はせっせと仕事をこなす。
「おーい!ビールなくなったぞ!」
ドラマや漫画などで見る上司と部下の光景がまさに繰り広げられている真っ最中だ。
「はーい!」
いそいそと飲み物を運ぶ加奈と川田は、飛行機に乗った辺りから会話一つない。むしろ上司のご機嫌伺いでそれどころではないのだが、上司達が「そういえば」と酒を飲んでいる最中に話の話題を切り替えたので、加奈はその内容に聞き耳をたてた。
「上の連中も今日から社員旅行なんだとさ」
上の連中……つまり明人の会社の事だろうか?その時「まさか……」と疑問が浮かんでしまった。
「そうなのか?って事はもしかしたらうちと顔合わせなんて事も」
「ないだろぉ?向こう様は本場南の島にでも言ってるんじゃないか?」
「それもそうだな!」
いや、上司達のまさかは的中する事となる。この数日妙にご機嫌だった明人の事を加奈は思い出した。いつものセクハラは健在だが、加奈が軽口をたたいても笑って素通りだった。
サーッと顔が青ざめていく加奈は、ポケットからケータイを取り出し明人本人ではなく詩織に状況を聞く事にした。
「あっ、詩織ちゃん?」
『どうしたんですか?霧島さん。てか私の方もかなり忙しいので手短にお願いします』
同じく下っ端である詩織も詩織で忙しいのだろう。電話越しからおじさんの笑い声や「詩織ちゃーん!」などと言う声が聞こえてくる。
「小峰さん達も今日から旅行って知ってた?」
『あ、あぁ……』
なにやらバツの悪そうな詩織。まさか本当に…そう思った時、詩織は『すみません!』と謝って来た。
『ダーリン経由できつく言うなって言われてて』
「そっか……で?もしかして場所って……」
『はい……うちと同じです。どうやら幹事が南条さんらしく』
やっぱり!疑念が核心に変わった瞬間、加奈はがっくりと肩を落とした。明人も明人で寝室でこそこそしていた。だがそこに立ち入る事はあまりない事と、何を聞いても「社内事情」としか言わなかったので、怪しいと思っていたのだが……まさかこんな事になっているとは。
『そう言う事で、言えなかったんです!すみません!』
「いや、もういいよ……」
忙しいからと詩織は電話を切った。加奈はまだ始まったばかりの社員旅行なのに、もう疲れ果ててしまった。
南の島で明人に会わない事を切に願った加奈だった。
飛行機をチャーターし南の島へ移動してからはバスでの移動。バスはそれぞれの課ごとに乗り込む事となり、下っ端の川田や加奈はせっせと仕事をこなす。
「おーい!ビールなくなったぞ!」
ドラマや漫画などで見る上司と部下の光景がまさに繰り広げられている真っ最中だ。
「はーい!」
いそいそと飲み物を運ぶ加奈と川田は、飛行機に乗った辺りから会話一つない。むしろ上司のご機嫌伺いでそれどころではないのだが、上司達が「そういえば」と酒を飲んでいる最中に話の話題を切り替えたので、加奈はその内容に聞き耳をたてた。
「上の連中も今日から社員旅行なんだとさ」
上の連中……つまり明人の会社の事だろうか?その時「まさか……」と疑問が浮かんでしまった。
「そうなのか?って事はもしかしたらうちと顔合わせなんて事も」
「ないだろぉ?向こう様は本場南の島にでも言ってるんじゃないか?」
「それもそうだな!」
いや、上司達のまさかは的中する事となる。この数日妙にご機嫌だった明人の事を加奈は思い出した。いつものセクハラは健在だが、加奈が軽口をたたいても笑って素通りだった。
サーッと顔が青ざめていく加奈は、ポケットからケータイを取り出し明人本人ではなく詩織に状況を聞く事にした。
「あっ、詩織ちゃん?」
『どうしたんですか?霧島さん。てか私の方もかなり忙しいので手短にお願いします』
同じく下っ端である詩織も詩織で忙しいのだろう。電話越しからおじさんの笑い声や「詩織ちゃーん!」などと言う声が聞こえてくる。
「小峰さん達も今日から旅行って知ってた?」
『あ、あぁ……』
なにやらバツの悪そうな詩織。まさか本当に…そう思った時、詩織は『すみません!』と謝って来た。
『ダーリン経由できつく言うなって言われてて』
「そっか……で?もしかして場所って……」
『はい……うちと同じです。どうやら幹事が南条さんらしく』
やっぱり!疑念が核心に変わった瞬間、加奈はがっくりと肩を落とした。明人も明人で寝室でこそこそしていた。だがそこに立ち入る事はあまりない事と、何を聞いても「社内事情」としか言わなかったので、怪しいと思っていたのだが……まさかこんな事になっているとは。
『そう言う事で、言えなかったんです!すみません!』
「いや、もういいよ……」
忙しいからと詩織は電話を切った。加奈はまだ始まったばかりの社員旅行なのに、もう疲れ果ててしまった。
南の島で明人に会わない事を切に願った加奈だった。
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