王様のいいなり!

まぁ

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「はぁ、なんか疲れた!」
「そうか。なら今日は外で食べるか?」
「その気力すらないから却下」
 何をするのも億劫だ。このまま風呂に入って寝たいとも思ったが、目の前の彼氏(仮)は腹を空かせているようなので、冷蔵庫に入った適当な食材で夕食を作る事にした。
「そういえばお前の事を好きとか言っていたあの男はどうしたのだ?」
 川田の事を聞かれた直後、持っていた包丁がドスンと鈍い音を立てて床に落ちた。動揺するなどベタだし、これで明人は何かを感じ取っただろう。
「何か隠してるな……」
「隠してない!しいていうなら説明するのに大変だった」
「俺はそんな事聞いてない。結局やつはお前を諦めたんだろうな?」
「う、うん。たぶん……?」
「たぶんだと?」
 真実は言えないので、なんとか濁すが、明人は加奈を疑ったままだ。床に落ちた包丁を拾い、水道で水洗いした。
「加奈、正直に言った方が身のためだぞ」
「あのねぇ!今包丁持ってるの!危ないでしょ?」
 ギュッと加奈を後ろから抱きしめた明人だが、明人は加奈から包丁を素早く取り上げ、それをシンクに置いた。
「それで?あいつは本当に諦めたか?」
「う、うん……わかってくれたよ」
「嘘をつくなよ」
 指でクイッと加奈の顎を上げると、そのまま口を塞がれる。突然の事なのに加奈は自然と明人に応えた。深く貪るような舌に加奈も必死に食らいつく。初めは嫌だったそれも、次第に慣れ、むしろさらに深みを求めるようになった。
「で?答える気になったか?」
 唇が放れ呆けた表情の加奈。明人の眼差しが鋭く加奈を見つめる。
「ホント何もないから。きっと時間経つと諦めてくれるよ」
「そうかならお前の言葉、信じてやろう。どちらにしても明日からは一緒に出勤だしな。嫌でも現実を思い知らせてやる」
「一緒に……出勤?」
 一瞬何の事かと思ったが、よく見ると昨日まであったはずの明人の包帯が外されている。
「ちょっと!また無理して!」
「違う。今日医者に行ったらもういいと言ったんだ。明日からはちょっとづつ鳴らす為リハビリだ」
 まだ少し震える指先。どうやら順調に治っているのだとわかった。
「ん?てことはもう介護必要ないよね?」
「そうだな。だが、まだ期限内だ。それでなくても俺とお前は付き合ってるんだ。そのまま同棲でもいいんじゃないか?」
「はぁ?治ったならもういいでしょ?てか何が同棲よ!」
「正確にはまだ治ってないぞ。いいからお前はこのまま家に移住。元住んでたアパートは早々に引き払え」
「わけわからない事言わないでよ!」
 勝手なことを言うなと加奈は言うが、明人もこればかりは譲らない。あれこれと理由を突き付けては加奈を困惑させる。やれまだ指先がおぼつかないだとか、腕がたまに痛むからあまり無理できないとか。だがその前に……
「ぜーったいに同伴出勤しないからね!」
「馬鹿かお前?同じビルなんだし一緒でもいいだろう。それに俺たちは付き合ってるんだぞ」
「まだ付き合ってない!まだお試し期間だから!」
 しかし結局明人に根負けした加奈は、翌日一緒に出勤する羽目になった。二人を見る目が痛い。特にこのビルに所属する各会社の女子社員の目が……
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