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「なんのまねだ?」
「見てわかるでしょ?出ていくんです!もうあんたなんかと一緒に暮らせません!」
限界だ。これ以上この男に振り回されるのは嫌だ。
加奈は荷物をまとめながら泣きそうになるのを必死で堪えた。すると背後から腕が伸びてきて加奈を抱きしめた。
「何するのよ!」
「本当に出ていくのか?」
「あ、当たり前じゃない!」
寂しそうな声音で言う明人。だがほだたされるな!これはこの男の常套手段。そうは思っても抱きしめる腕は強く、そして背中からは切なさを感じ取れた。
「放して……」
「嫌だ」
「放してよ!」
「何故俺から逃げる」
これまでの事を考えたら当たり前だろう。だがそれをこの男に言ったところでわかってはくれまい。必死に戒めを解こうとした加奈ふぁが、その力は強くなる一方だった。
「ちょ、痛い……放してよ!」
「お前がここに残ると言うまで絶対に放さない」
一体何なのだ!この男は元々おかしいが、昨日から輪をかけておかしい。自分に対して彼女になれと言ったり、それ以外にも様々な嫌がらせを受けた。なのにたまに見せる悲しそうの表情や艶かかった言葉。何故こんなにも翻弄されているのに、今まで逃げ出さなかったのだろう。
今もそうだ。逃げたいと思う反面、身体は逃げるという行動に移らない。
「ホント……放してよ」
「俺から逃げたいなら本気で抗えよ」
「っ!」
加奈の事など明人にはお見通しなのだろう。だからこうして挑発的なことを言う。
「今まで嫌だ嫌だと言いながらも、お前は俺の元から逃げ出さなかった。今もそうだ。本当は俺の事が好きなだろ?」
「す、好きじゃない!」
「嘘を言うな」
「嘘じゃない!」
ダメだ!泣くな!
目尻に溜まる涙が今にも溢れそうだった。自分はこの男の事が本当に嫌いだ。傲慢で高飛車、いつだって加奈を振り回す。優しさの欠片など何一つない。なのにどうして逃げられないのだろうか……
「お前はもう俺に捕われてるんだよ。俺の虜なんだよ。認めろよ」
そう耳元で低くかすれた色のこもった言葉で綴られ、加奈の心臓がドキッとした。
「わ、私は、あんたの事……」
「もうそれは聞き飽きた。聞きたいのはそんな否定的な言葉じゃない。ただ一言、俺を好きだって言葉だけだ」
騙されるなと加奈は自分に言い聞かせる。だがこの男は本当に加奈が真実を言うまでこのままでいるようだ。
「あ、あんたは……あんたは私の事どう思ってるのよ」
「そんなの何度も言っているだろ」
「言ってない!ちゃんと言葉で言いなさいよ」
この男に対し自分は何を言っているのだろうか?言ってはいけない。そしてこの男の言葉を聞いてはいけない。聞いたら後戻りできなくなる。すると明人の長い指が加奈の顎を上向かせ、口づけを唇に一つ落とした。
「お前の事が好きだ……加奈」
溜まった涙が頬を伝い落ちた。
いつものようにお前は下僕などと言ってくれた方がどれほどマシだっただろうか。これを聞いたが最後。もう自分は逃れられない迷路に迷い込んだのだと思った。
「見てわかるでしょ?出ていくんです!もうあんたなんかと一緒に暮らせません!」
限界だ。これ以上この男に振り回されるのは嫌だ。
加奈は荷物をまとめながら泣きそうになるのを必死で堪えた。すると背後から腕が伸びてきて加奈を抱きしめた。
「何するのよ!」
「本当に出ていくのか?」
「あ、当たり前じゃない!」
寂しそうな声音で言う明人。だがほだたされるな!これはこの男の常套手段。そうは思っても抱きしめる腕は強く、そして背中からは切なさを感じ取れた。
「放して……」
「嫌だ」
「放してよ!」
「何故俺から逃げる」
これまでの事を考えたら当たり前だろう。だがそれをこの男に言ったところでわかってはくれまい。必死に戒めを解こうとした加奈ふぁが、その力は強くなる一方だった。
「ちょ、痛い……放してよ!」
「お前がここに残ると言うまで絶対に放さない」
一体何なのだ!この男は元々おかしいが、昨日から輪をかけておかしい。自分に対して彼女になれと言ったり、それ以外にも様々な嫌がらせを受けた。なのにたまに見せる悲しそうの表情や艶かかった言葉。何故こんなにも翻弄されているのに、今まで逃げ出さなかったのだろう。
今もそうだ。逃げたいと思う反面、身体は逃げるという行動に移らない。
「ホント……放してよ」
「俺から逃げたいなら本気で抗えよ」
「っ!」
加奈の事など明人にはお見通しなのだろう。だからこうして挑発的なことを言う。
「今まで嫌だ嫌だと言いながらも、お前は俺の元から逃げ出さなかった。今もそうだ。本当は俺の事が好きなだろ?」
「す、好きじゃない!」
「嘘を言うな」
「嘘じゃない!」
ダメだ!泣くな!
目尻に溜まる涙が今にも溢れそうだった。自分はこの男の事が本当に嫌いだ。傲慢で高飛車、いつだって加奈を振り回す。優しさの欠片など何一つない。なのにどうして逃げられないのだろうか……
「お前はもう俺に捕われてるんだよ。俺の虜なんだよ。認めろよ」
そう耳元で低くかすれた色のこもった言葉で綴られ、加奈の心臓がドキッとした。
「わ、私は、あんたの事……」
「もうそれは聞き飽きた。聞きたいのはそんな否定的な言葉じゃない。ただ一言、俺を好きだって言葉だけだ」
騙されるなと加奈は自分に言い聞かせる。だがこの男は本当に加奈が真実を言うまでこのままでいるようだ。
「あ、あんたは……あんたは私の事どう思ってるのよ」
「そんなの何度も言っているだろ」
「言ってない!ちゃんと言葉で言いなさいよ」
この男に対し自分は何を言っているのだろうか?言ってはいけない。そしてこの男の言葉を聞いてはいけない。聞いたら後戻りできなくなる。すると明人の長い指が加奈の顎を上向かせ、口づけを唇に一つ落とした。
「お前の事が好きだ……加奈」
溜まった涙が頬を伝い落ちた。
いつものようにお前は下僕などと言ってくれた方がどれほどマシだっただろうか。これを聞いたが最後。もう自分は逃れられない迷路に迷い込んだのだと思った。
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