王様のいいなり!

まぁ

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「それじゃお疲れ様です!」
 本日の業務を終え着替えて帰ろうとした。エレベータを降りビルを出ようとした時、エントランスに見慣れた長身の男がいる事に気が付いた。男は加奈を見つけるとスタスタと歩いてやって来る。
「加奈」
「ちょっと!あんた何してんのよ!」
「お前の事、わざわざ迎えに来たんだろ?」
 一体何を言いだす。
 その男……明人はニヤリといつもの笑みを浮かべる。この時間は他の会社も退社時間で、通りすがる女子達は明人を見て喜色こもった声を上げている。もちろん中には加奈の会社の女子もいる。
「ちょっとちょっと!ここ人通り多いんだから、あっち行ってよね!」
「何だ?照れてるのか?相変わらず可愛いやつだ」
「かっ、可愛い?」
 普段言われ慣れない言葉を言われた加奈は、身体中がカーッと熱くなった。
「それにこのビルには俺のいる会社もあるんだ。特段変でもないだろう?」
 それもそうだ。
「ほら、帰るぞ」
「あっ、ちょっと!」
 グイッと加奈の手を握ると、女子達の声が更に甲高くなる。恥ずかしくなった加奈が俯くと、背後から聞きなれた声が聞こえた。
「霧島さん?」
「あっ、川田君」
 振り返ると、絶望にも似た表情を浮かべる川田がエレベータの前で立ちすくんでいた。そんな川田を見た明人はニヤッと笑った。
「こいつ、俺の彼女だから諦めな」
「なっ!」
 明人の発言に周りの女子はキャー!と叫ぶが、川田は硬直したままだ。
 そして何も言えないまま加奈は明人に連れられビルを後にした。

「あ、あんたは……」
 プルプルと震える拳が今にも明人を殴りそうだ。
 ビルで起きた事件の直後、明人のマンションに連れて帰られた加奈は、抑えきれない怒りが込み上げ、戻った瞬間にはじけ飛んだ。
「なんだ?真実を述べたまでだろう」
 怒りの矛先である明人はいつも通りの態度だ。それが加奈の怒りに拍車をかけた。
 今までで一番の怒りだ。 
「何が真実よ!勝手にあることないことしゃべって!今日という今日はもう許せない!」
「お前が俺の心を弄んだから制裁を加えたまでだが?それの何がいけない」
「はぁ?いつ誰があんたなんかの心を弄んだっていうのよ!」
「加奈!お前は俺のものだろう?」
「違うわ!」
 どうしてこうも話がかみ合わないのだろうか?むしろ今日はとても性質が悪い。多くの会社員が退社する時間に、しかも川田も見ていたのだ。女子社員から何か言われる事は必須。明日、いや今日中に情報が拡散してしまうだろう。そして川田に対してなんと答えればいいのか……
 話などしても無駄。そう思った加奈は踵を返しリビングの隅に置いてあった荷物をまとめた。
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