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「……っ、デート…俺だって、いつぐとまだそんなにしたことないっつーの…」


遼太郎に押さえられるように物陰に隠れながら、俺は数メートル先をゆっくりと歩く同じ高校の制服姿の二人をジッと目で追っていく。

いつぐと正式に恋人同士となり付き合うようになって二週間とちょっと。
基本いつぐの部活があるため、放課後は一緒に帰るぐらいでまだデートらしいデートを平日にしたことはない。
休日にお互いの家に行き来した所謂『おうちデート』――…ハズいな、この言い方――を今まで二回ほど。
そしてつい先日の土曜日、いつぐからの誘いで初めて街に繰りだす『外出デート』をしたばかりな俺たちであった。

いつぐと初めての外でのデート。
俺が柄にもなく気合いの入った服装で出かけ、待ち合わせ場所の郵便ポストのある街灯の前に辿り着いたあの時、待ち合わせ時間より十五分もはやかったてのに、そこに先にそわそわとしたいつぐの姿が見えた瞬間……俺は思わず勢いよく駆け寄っていつぐに抱きついてしまいたいほどにものすごく嬉しかったことを、今もめちゃくちゃにハッキリと覚えている。

いつぐと二人色々な場所にまわって、笑って、はしゃいで、驚くくらいに時間が経つのがはやくて……けれど午後の二時過ぎ、少し遅めの昼飯をとろうととあるバーガー店に入る直前、突然知らないオンナの二人組が声をかけてきて。
いつものように適当にあしらおうと一言二言生返事をしたのち、そのまま無視して店に入ろうとすると、そのオンナたちは如何にも免疫のないという感じで終始オロオロとしていた隣のいつぐに「ねねっ、それならお友達のキミも一緒にっ♡」と、よりにもよっていつぐを取り込んで強引に俺の行く手を阻もうとしてきたのである。

結局俺がそれにキレて、困惑していたいつぐの腕を強く引いて目の前のバーガー店には入らずに街から急いで抜けだしたせいで……その日の外出デートは、そこで強制終了してしまったのだった。

それからいつぐを俺の家へ呼び、部屋でひっそりと秘密のセックスはできたものの、せっかくの初めての街中デートを最後まで堪能できなかったことを謝る俺に対し。

「疾風くんが謝ることなんてどこにもないよっ、というか……オレこそあそこでビシっと断ったりとかできなくて、
その、ごめんねほんと…はは、情けないなぁオレ…」
「っ、いつぐ…」

反対にいつぐは申し訳なさそうに、ベッドの中、困ったような寂しい笑顔を見せた。

だから俺は、絶対…絶対に次にデートに行く時には俺のほうから誘って、それでもう一度一緒に街でのデートをしようって、そう思ってあの朝――


「――やて、疾風っ!」
「……っ、あ、」
「ほらっ何ボーっとしてるんだっ、藤枝くんたちどっかの店に入っていくみたいだぞ」
「え、あっわりぃわかった、いくぞ二人共っ…」
「おうっ」
「はっはい…!」


中途半端に終わってしまったからこそ、今こうしていつぐと俺ではない別の……伊波コウが、いつぐの隣に並んで街中を楽しそうに歩き回っているこの状況が、俺にはとてつもなく辛いモノであり。

だが、もっちーと遼太郎の二人を巻き込んでおいて感傷に浸っている場合ではないと、俺は素早く立ち上がり、どこかの店へと入ろうとするいつぐと伊波の背を急いで追いかけた。


人並を掻き分け、二人が入った店の目の前まで辿り着くと。

「!! ……ここ、は」
「ここって、絹町書店さん…?」
「ああ、ここ本屋かぁ」

いつぐたちが最初に入った店は『絹町書店(きぬまちしょてん)』という名の本屋であった。

「えっと…これってボクたちも中に一緒に入ったほうがいいのでしょうか?」
「う~ん、でもここそんなにおっきくなさそうだし、入ったらおれたち一発で藤枝くんらにバレるんじゃ…」
「たっ確かに…ボクも何度かこちらのお店にお邪魔したことありますが、失礼ながら内装の大きさはそこまでじゃないので、ボクだけならまだしもお二人が一緒だとバレてしまう可能性が高いですね…」
「えっ疾風ならまだしも、そこにおれも入ってるのか?」
「えっ!?」
「ん?」
「いっいえ何でもないですっはいっ…」
「ははっ、なんだそれっ」

そう後ろで、もっちーと遼太郎がそんな会話を繰り広げる中。
俺はというと「……っ、」いつぐたちが入っていった本屋の入り口を、ただただ何も言えず見つめていた。


だってそこは……『絹町書店』は、

土曜日の二人の初めての街中デートで、一番最初に入った店だったから。


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