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足りなさその9、 耐えられるはずなんてなかったのである。

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「…えっ、えええっ!? なっなな何でっ、だって今飲んでたのは2本目なはずっ……えっ、もしかして知らぬ間に3本目に移って…!? ……い、いや数はあってる、確かにこれは2本目だ……え、じゃあ何で……??」



目の前で起こった事態に頭が混乱し、まさか頼人がマジックでも使ったのか…!? とありえないコトを考え、俺の飲み終わったものも含めてまわりの空になった缶を数えだすが……確かに今の今まで頼人が飲んでいたのは、『2本目』のビールであり。

机の下に転がった2本目の空のビール缶を手に取りながら、俺はもう片方の手でゆさゆさと机にほっぺたをくっつけ目を閉じている頼人の肩を揺するが。


「っ、おい…おいってば頼人、おいっ…お~い頼っ………だ、ダメだ…本気で寝てる……嘘だろ、だって3本で完落ちなはずじゃ……え、ええっ…???」
「……すぅー……」


やっぱり、もう完全に前回の3本目を飲み終わった後の時と、頼人はまったくの同じ状態であり。


――どうなってるんだ、一体。


「……さ、3本目じゃないのにこんなに熟睡してるって……もしかして、この前の時も…ほんとは2本目を飲んだ時点ですごく眠かったけど、初めての酒だったから無意識にたくさん飲んじゃってて……それで3本目で限界がきて糸がフッと切れちゃったってだけ……ってこと、なのか…?」


っ、わからない…わからないけど……現に今、2本目を飲み終わったと同時に頼人は深い眠りについている訳で。


「…ぅ、ん……」
「っ、この場合…は、どうしたら……」


『頼人には、飲ませるとしても酒は絶対2本までっ!!』を心に誓ったのは何だったのか。
くぅくぅと気持ちよさそうに寝こけている好きな相手の姿を見つめながら、本当にどうしたものか…と、考えを巡らす、けれど。



「――…って、いやそもそも別にいいじゃないかっ、頼人が3本で酔おうが2本で酔ってしまおうがさっ!!?」



そこで俺は、ハッと我に返る。


そうだ、悩むべくは『頼人が酒に弱い体質で、すぐに酔って全然起きないほど熟睡してしまう』ことではなくて、『そんな頼人を見て、意志の弱い俺が頼人が寝てるのをいいことに色々あらぬコトをしてしまった』ことなのだ。


頼人が酒に弱くすぐ寝てしまう体質だとしても、長時間酒を飲みながら一緒に喋ったりすることができないのは悲しいが、そのまま気持ちよく寝かせたままでいればいいだけのこと。


要は、俺が寝ている頼人に一切近づかなければいい話……なんだ。



「……とは、いえ……」

チラリ、と俺は横目で机に未だ突っ伏して眠りこけている頼人にそっと視線を送る。
『一切近づかない』としても、まさかこんな身体が痛くなりそうな体勢のまま、頼人を朝まで放っておくなんてありえない訳で。

「っ、でもべっ…ベッドは……」

だからといって、前回あんなコトをしてしまった自分のベッドに、頼人をまた運ぶというのも……それは、っ。

「や、でもでもやっぱりこのままじゃ……あっ、じゃあ予備の布団っ……いや、あれすっごい薄いしあんまりっ…」

そう、ものの数十秒もしない中で心内でめちゃくちゃぐるぐると色々な葛藤をしまくる俺であった、が。


「…ん、ぅん…っぁ……」
「え…って、あっあぶなっ――…」

ずるっ!! ……ガシッ!!!

「っ、…よ…よかった、頭打たなくて…ふぅ」
「………く、ぅ……」
「…ね、てる………っ、そうだ、やっぱりこのままじゃ危ないし、前みたいにベッドで寝かせようっ……だ、大丈夫、俺がしっかり耐えればいいだけのコトっ……運んだら、すぐにその場から離れてしまえば問題ない…ぜっ絶対イケる、大丈夫だから俺っ…!!」
「………」


突如、少しぐずついた声を漏らした頼人の身体が机からズレて体勢を崩しだしたため、俺は急いで頼人の身体を支えどうにか頭がぶつかりそうになることを回避させるのに成功したのだった。

ほっとした息を吐きながらも、やはりこのままにしておくわけにはいかないっ……と、俺は何度も自分に『大丈夫っ!!』言い聞かせ。


「んぐっ、ふんっ…!!」
「…ぅ…ん……」


ぐいっと前の時と同じくどうにか頼人の身体を持ち上げ、またもお姫様抱っこで自身のいつも寝てるベッドへとゆっくり運んでいき、そして。

ギシギシっ、ドサリっ…!! あの時と同じ体勢で、頼人をベッドの上に仰向けで寝かせた



――の、だけれど。



「……ん、っ……」
「―――…っ、ぁ……」


あ、ダメだ……違う、ダメだ、見ちゃダメだ、目を…今すぐ目を離さないと…じゃないと、じゃないとっ――


頭ではわかっていても、俺のベッドに――あんなコトをしてしまったその場所に、頼人がもう1度横たわっている姿を視界に捉えて、



「ふっ、頼人っ…頼人ぉ…♡♡♡」



意志の弱すぎる俺なんかが、耐えられるはずなんてなかったのである。



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