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幸い、その男子生徒は特に誰に言いふらすでもなく、自身の胸が他の男子と違うことをこの時自覚したレンの意識的な行動により――少し厚めのシャツを重ね着したり、基本体育の時はトイレなどで着替え、夏のプールは理由をつけて見学にまわってたなど…――まわりの者にレンの胸を見られる機会はなかった。

しかし、レンが中学を卒業する年には、彼の胸は隣の席の男子生徒に初めて指摘されたあの一年の時とは比べ物にならないくらいにさらに大きく膨らんでおり。
特に具合が悪くなったりなどの影響はないものの、その女の子のような柔らかく下部分に影ができるほどの大きさに成長してしまった自身のおっぱいは、

気づけばレンの一番の『コンプレックス』となってしまっていたのである。



そうして、高校は出席日数など諸々も進級に影響するため、体育の必須科目に『水泳』がない県立向井霞高等学校を受験し、何とか自らのコンプレックスをひた隠しにしながら今までを過ごしてきたレン。

けれど二年にあがってすぐのあのやり取りで、隣の席の男子『九重敦矢』に恋をし、おっぱい大好き星人の彼がレンの隣でおっぱいの魅力について語る様、雑誌などを見てる姿に少し心を痛めながらも、
ただあっくん――たまたまレンが噛んで呼んだ敦矢の名を、敦矢がそれなんかいいなっ、今度からあっくんって呼んでくれよ! ととびきりの笑顔を見せてくれたので、それからはそのあだ名で呼ぶようになる――の隣にいれるだけでいいと、ずっと敦矢と純粋な友情を育んできた


――ところで、あの『風呂場事件』が突如起きてしまい。


「…ど、どうしよう……おれのこのおっぱい、あっくんに何て説明すればっ……」

と、当初は敦矢に自身のコンプレックスを見られたことに焦り、困惑していたレンであったのだが。

予定よりも遅めに風呂からあがったのち、敦矢の部屋へと足取り重く辿り着くと、


「勝手に風呂場に突撃してしまいっ本当にすみませんでしたあぁぁっ!!!」
「へっ…」


部屋のドアを開けた途端、敦矢がレンに向かってもすごい勢いで土下座をしてきたのだ。
突然の敦矢の土下座に目をパチクリさせ、けれどあの時自分が見ちゃダメっ!! と叫んで敦矢が風呂に入るのを拒否したことで敦矢に気を負わせてしまったのだと気づいたレンは「っ!?」ハッとし。

「ほんっとごめんっ…俺っマジでただレンと一緒に風呂入ってしゃべったりしたかっただけのはずが、その、レンのこと嫌がらせちまって……」
「ちっ違うのあっくん!! あっくんのことを嫌がってあんな態度向けたわけじゃなくて、おれのむっ……胸、を
見られたく、なかった…だけで……っ、」
「!! ……な、なぁレン…俺の見間違いじゃなかったらさ……お前のおっぱい、なんか…っ、すげぇ膨らんでなかったか?」
「っ……」

やはり見られていた…と、一瞬にして息を呑むレン。
どうしよう、どうしようっ…としばらくその場でしどろもどろになるが、
「……レン?」躊躇いがちに声をかけてきた大好きな敦矢の顔を見て「っ…!!」

あっくんに、嘘なんてつけない。

「あっ、あのね、あっくん――…」

どう思われたっていい、あっくんに『本当のおれ』を知ってもらうんだ。
そう決意し、思い切って敦矢に自分のコンプレックスのことをすべて打ち明けたのだった。



結果的に言えば、レンのコンプレックスについて敦矢は、

「ひ、人の身体ってまだまだ謎がいっぱいあるんだなぁ…すげぇ…」

それはもうただただ純粋にその事実の全部を驚きつつも、すんなりと受け入れてくれた。
その表情や言葉に一切の嫌悪感がなかったことにレンはほっとすると共に、

……っ、やっぱりおれ、あっくんのこと好きだなぁ……あっくん、大好き。

と、改めて敦矢への想いを強く募らせ。

このレンのコンプレックス話はここで無事終了


と、思いきや。


「………っ、」
「……あの、あっくん…? あっくん!」
「ひょえっ!? …あっ、れっレンどしたっ…?」
「…えっと……おれの服に、何かついてたりするの…かな?」
「!? ちちちっ違うぞっ!! 俺はレンのおっぱいなんてぜんっぜん見てなんかないし、えろかったなぁとか思い出したりなんてしてないんだからなっ!!!」
「!!?」
「ひゅ、ひゅ~ひゅ~、きょっ今日って夜なんのテレビやってたっけな~まだ寝るまで時間あるし、また何か見よっかな~…」
「………」


いっそ面白いくらいに、敦矢がレンの胸……おっぱいに話が終わっても尚、未だ関心をもっていることが手に取るようにわかり。
しかも聞き間違えでなければ、敦矢は確実にレンのおっぱいを『えろかった』と、そう言葉にしたのだ。


何やら一人で騒がしくしながら自室のテレビを付け始めた敦矢の後ろ。
その言葉をしっかりはっきりと耳にしたレンは、お風呂あがりにも着ている厚めのシャツの上から自身のコンプレックスであった膨らんだ女の子のような胸をもにゅ…と、一度揉み。


「――もしかしたら、おれのコレ…つ、使えるの…かも」


長年のコンプレックスであったはずのこのおっぱいで、おっぱい大好き星人である敦矢を『落とせる』のでは……?


そんな邪な想いが、この時、レンの中でふと生まれたのだった。

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