俺にとっての『エロとろボイス♡』♡♡♡

そらも

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4voice, ――俺にとっての

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「――じゃあ、今日は色々お疲れ! 恭くん、悪いけどみかのこと送っていってやってくれな? あと、みかは恭くんに荷物持たせたりするんじゃねえぞ」
「しないしっ! 自分のお宝はちゃんと自分で持ってくもん!! 大体きょうちゃんに私の荷物持たせちゃったら、帰り道で手ぇ繋げないじゃんか!」
「っ、みぃちゃん…♡♡♡」
「ねっきょうちゃん♡♡♡」
「うんっ、みぃちゃん♡」
「えへへぇ、きょ~ちゃん♡」
「み~ちゃん♡♡」
「きょうちゃん♡♡」
「みぃ…」
「ハイハイっ解散っ解散ダヨー」
「もぉぉっふうにぃ雰囲気ぶち壊さないでよ!!」
「ハッ…あ、あはは…すみません、お兄さん」



翌日、マルケ帰りですっかり日も落ちた午後八時台。

この時間帯でもまだ蒸し蒸しとする風のないアパートの玄関口で、俺はこれからそれぞれの家へと帰るみかと恭くんに声をかけていた。
前線へ赴いてどっぷり疲れが溜まっているだろうに、相変わらずのラブラブっぷりを発揮するかの如く、お互いの空いた手を仲睦まじく恋人繋ぎをさせながら帰っていくバカップルをアパートの二階から見送り……そして。



「――よ、よし。準備オーケー……っ、」



明日は通常通りスーパーでの仕事が朝からある俺は、今日はクタクタで疲れているし、本来ならばもうベッドに入って横になった方がいいのだろう。

けれども。

俺には一つ、どうしてもやらなければいけないことがあった。



「すぅはぁすぅ……おっ落ち着け、俺。まだ、絶対に『出てる』とは決まったわけじゃないんだ……今からそんなに心を乱してどうする。まずは慎重に確認だろ、風汰よ」


風呂もそこそこ。俺は今、リビングのテレビの真ん前にて……きっちりと、正座の体勢をとっており。
同時に、ドクドクドクドクっ…とうるさいくらいに音を立て逸る胸を、左手でグッと強くおさえる。


電気もつけていない、カーテン越しの月明かりだけが差し込む暗いリビング部屋。
俺は、ピッ…と、テレビのリモコンを押し――


ポコンっ♪

……押し、

ポコンっポコン♪

押し……、

ポコっ

「…だあああっもうっ!!?」

ピッ!!!


俺はすぐさま正座を崩し、しつこく鳴り続けるLIME(らいむ)…もといスマホの電源を勢いをつけながら消す。


「っ…たぶん、富永からのちゃんとお宝本を買ったかのLIMEだろうけど……悪いっ明日の朝ちゃんと返信するからっ…!!」


電源が落とされたスマホに向かって、片手でポーズをつけながら謝る俺。

スーパーで一緒に働く同年代の男性社員『富永穂高(とみながほだか)』は、俺と同じくオタクであり、今日は仕事で休めなかったあいつの代わりに、俺が頼まれていた同人誌やら何やらを買ってきていたのだ。

今の怒涛のLIMEの通知音は、おそらく「頼んでいたリストの物をしっかり買ってきてくれたのか?」を聞きたかったのだろう。
……自分が就寝する前に、しっかりとお宝の確認しておきたいその気持ちはわかる。
わかるけども、今はすまん無理だっ…!!


「……ふぅ。そ、それじゃあ…改めて、」


画面が暗くなったスマホを無造作にベッドの上へダイブさせ、俺は再びテレビの前に座りなおす。

…ピッ。テレビの電源を入れ、レコーダーのディスクを再生させる。
ジジッ、カタタタ、ウィーン…規則的な機械音と共に、画面が映し出され。


「っ……は、始まったっ…」


普段行くことのない音楽の専門店でわざわざ購入した、俺の給料からいったらかなり高額となる高音質重視のイヤホンを両耳につけ、ゴクリっ…喉を鳴らしながら画面をしっかりと見据える。

……高級ヘッドホンではないのは、より鼓膜に近いところで『ソレを感じたかった』からだ。


ラララっ、ララ~っ♪♪
そこに映し出されたのは、リズミカルな音楽を明るく楽しそうに歌う女性声優たちの可愛らしい声と共に目まぐるしく動いていく可愛い六人のヒロインたちの姿と、そんな彼女たちから逃げるように走ってはコケ、走ってはコケを繰り返してるドジな男の子の姿。そしていきなり喧嘩をふっかっけてくるライバルらしき男の子…などなど。
つまりはとあるアニメの、

『迷宮ラブ×バッド!?』のオープニングであり。


「…し、CMあけたら、くるっ…」


あの時、らぶばを見たがっていたみかの声を無視し、少々どもりながらも裏のいつゲー。を見たいんだと力強く言ったのも。
けれどもそんないつゲー。について熱く語る恭くんの話に、しっかりと乗れなかったのも。
富永からのLIMEを、スマホの電源を即消してまで無視したのも。
テレビの前、こんなにもありえないほど緊張してるのも。

全てはこの『迷宮ラブ×バッド!?』というアニメをゆっくり、じっくりと見たいがためだったのだ。


そして、俺がこんなにもこのアニメに必死になっている『理由』。それは――…



『おっ、見てみろよ。ま~た迷い宮のやつドジ踏んでケガしてやんのっ、ダッセぇなぁ』


「っはぅぅぅん♡♡♡ りりりっ、りっきーだあぁぁっ♡♡♡♡」


っ、りっきーの第一声いただきましたぁ♡♡♡


『ったく、あんなマヌケなやつがモテるってんだから、世の中不公平だよなぁ~はぁ~あ』

「んんっ♡♡ あっ、……っ♡♡♡」

『っと、やばっ切り原が近づいてきたし、もう行こうーぜ!』

「ふ、……っりっきーぃ…♡♡♡♡」


……す、すごい…今日は予想していたよりも、いっぱいりっきーしゃべってくれてたぁ…♡♡♡♡



ルンっルルル~♪♪

数十分後。今度はミニマムサイズの可愛いキャラクターたちがちょこまかと動く映像に合わせて、またも女性声優たちの可愛らしい歌声が響きだす。
番組がエンディングへと投入し、アニメにかかわったキャストが次々とクレジットに映し出された、その瞬間。

俺はピッ…と、ある一人の声優の名前が画面に映ると同時にリモコンの一時停止ボタンを押し、止めた。

その声優とは、主役の迷い宮タスクの声を担当してる日下部咲弥でも、六人のヒロインたちの声を担当する人気女性声優たちでもなく、


『 生徒役B 三嶋りきと 』


名前さえない、所謂モブの役どころを担当した『三嶋りきと(みしまりきと)』という人物であり。


……そう。
一話まるまる使って…量にするとたった三行分ほどの台詞しか発していなかった彼が、三嶋りきとが



――俺にとっての「声優界一の『エロとろボイス♡』の持ち主」、それに値する人なのであった。



「っ……ふぁ、今日のりっきーの声も、すっごくすっごくすっごくかっこよかったよぉっ…♡♡♡♡」



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