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第三章 新しい家族

5 妖女たちの秘密の集い

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 一月の最終週の金曜日、きょうは僕の担当するブランドラインの撮影日だ。
 ヨーロッパのレースを贅沢に使ったリゾートウエアを纏ったモデルのSACHIが、白い部屋に佇んでいる。

 さすがに立ち姿が決まってるな。

 SACHIはパリやミラノのランウエイで常連のトップモデルだ。

「うん、最高!」とカメラマンのハルが、アートディレクターと一緒にモニターチェックをしている。

 メイクばっちり、見た目は完全なお姉さんながら、グレーのパーカーにスキニーデニムといういたってノーマルなハルの姿に、かつての笹田クンを思い出す。

「あ、すいません。このカット、ビルボード用にヨコ位置のバリエ要りますっ」

 おっとやべ、うっかり忘れるとこだった。

「らぎっちぃ、そういうの最初から言ってよね。あのスクランブル交差点を見下ろす大看板でしょ。じゃあアクセ、もう少し大ぶりのものに替えるわ」

 と、ベテランスタイリストの由里ゆりさんが、女神のような安心感をたたえ、アシスタントに指示を出す。

 この古い洋館の一階には、大きなリビングとは別にゲストルームと書斎があって、今回、ふだんはあまり立ち入らない床に白大理石が敷き詰められたこのゲストルームに、クラシカルな木製の天蓋つきキングサイズベッドを運び込み、高級リゾートの体裁で撮影は開始された。

 幸い天気もいい。外には白く雪が積もっているが、試し撮りした写真を見て「外の景色がエーゲ海の街みたい」と、怪我の功名をみんなして喜んだ。

 スタッフが大人数のため、母さんも綾も遠慮してふたりで大学の研究室にいってしまったが、夕方には戻ってくるだろう。

 久しぶりにこの家に三つある暖炉すべてに火を入れて、室内は初夏の陽気だ。
 あり合わせのテーブルを寄せ、ホームパーティーみたいなランチタイム中に、モデルのSACHIが僕に話しかけてきた。

「らぎっちさん、昔一度だけお目にかかったことありますよね」

「え? どこでしたっけ?」

「ほら、カフェに玄くんと。高校の時ですよ。覚えてません?」

「ええっ、もしかしてさっちー?」

「そう、さっちーです」

 子ギツネ顔の少女の面影を残したまま、色白な顔に自信に満ちた微笑みを浮かべるSACHI。予算の少ない中にあって、破格のギャラでこの仕事を受けてくれた意味が、ようやくわかった。

 それを聞いていたスタイリストの由里さんが、

「そっかぁ、ハルもあなたたちも同い年なのね。同窓会だね。奇蹟みたい」と、我がごとのように喜んでくれる。

「実はわたしだって、会ってはないけど、らぎっちは昔から知ってるのよ」

 由里さんってもしかして。母さんの女子校時代の同級生の、話に聞いた、いやらしい舌が蠢く東京のスタイリスト? ここにもきたことあるのかも。どうりで朝、着いた早々、ろくに案内もしてないのに離れのキッチンに水を汲みにいってたな、と今にして思い至る。

 ああ、ほんとだ! 奇蹟だな。

 ふくよかで優美な女神を思わせる由里さん顔が、僕の中で別の意味を持ち始めた。




 そのあとは順調に、螺旋階段や二階の僕の部屋でも撮影は行われ、夕方になる前には企画スタッフが撤収。撮影の終了を見計らったかのように降り始めた雪がしんしんと降り積もり、広大な庭を静寂な空気が包み込んだ。SACHIは夕飯までは同席する心づもりだったが、新幹線が心配だからとヘアメイクさんと一緒に帰っていった。

 由里さんとハルはアシスタントだけ帰らせてここに残った。夕方には、ツインズをハルの親父さんに託した唯さんが、そしてそのあと母さんと一緒に綾が帰宅。その綾が采配を振るう中、みんなで夕食を作って、仲間内だけでゆっくり晩餐を楽しんだ。ちなみにきょうわかったことだが、綾の料理レパートリーは実に多彩だった。

 皆、代わる代わる入浴を済ませ、僕の目を特に気にすることなく思い思いのナイトガウンに着替えて、今はゲストルームで昼間に撮った写真を鑑賞している。

 久々の仲よし女子のお泊まり会、って感じで、枕をいくつか用意しようものなら、投げ合いそうなほどの盛り上がり。その中に当たり前のように、半分男のハルがひとり混じっているのが少し可笑しいが、まあいい。   

「ねえあなた。お風呂上がって落ち着いたら、ゲストルームにきてね」

 バスルームのドアを少しだけ開けて、外から綾が少し恥じらいを感じさせる静かな声で言った。

「撮影のあとにゆっくりお話しましょ」って唯さん言ってたよな。

 話だけ? まさか。このメンツでなにも起きないわけがない。

 湯船の中で僕のペニスが早くも充血し始めた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 脱衣所に用意されていたバスローブを羽織って、閉ざされていたゲストルームに通じる二枚扉を開ける。

 部屋の照明は落とされ、暖炉の火にかすかに照らされた天蓋つきのベッドの上に、薄ピンク色のベビードールを纏った綾が、映画のワンシーンのように寝転んで肘をついて、戸口に立つ僕を窺っている。

「こっちにくる前に、暖炉に薪足してね」

「あれ? みんなは?」

 薪を足しながら尋ねたが、綾はそれに答えず続けた。

「素敵ね! 撮影用に由里さんが用意してくれたこのベッド、沙夜ねえが婚約祝いに買い取ってプレゼントしてくれるって。さあ、早くきて」と、手招きをする。

 綾は最近、眼鏡をコンタクトに替えた。眼鏡なしの綾は初めて会った時と変わらないあどけなさで、控えめな化粧も手伝って、とてもアラサーには見えない。

 サプライズ、か。 みんなして妙な気は使わないで欲しいな、と少し照れつつ、ベッドに飛び乗ってキスをする。キスをしながら綾が器用にバスローブを脱がす。

 きょうの綾は積極的だ。

 ふっくらとした唇が僕の乳首に吸いつき、細い指が漲りに纏わりつく。

「もう、待ちきれない。あたしが上になって挿れちゃっていい?」

 僕のこめかみに舌を這わせながら綾がひっそりと言う。

「綾の好きにしたらいいさ」と答えるやいなや、僕を押し倒した綾が、しずしずと竿を呑み込んでいく。

 もう、パンティーも穿いてない。いつだって臨戦態勢だな、綾は。

 いつもより柔らかな綾の中。

 腰の動きに合わせて、蠱惑の壁が少しずつ僕を包み込む。

 一方だけを残してレースの幕が下ろされ閉ざされた天蓋の柱のむこうに、屋外灯に照らされた青白い庭を背に音もなく舞い落ちる雪。暖炉の暖かさに包まれて僕たちは今、交わっている。

 綾の好きなロマンチック過ぎる情景。

 綾の中も、きょうはロマンチックだ。

 味わうように腰をひねりながら綾がキスをせがむ。そして絡み合う舌。
『猫被らせて』なんて唯さんは言ったけど、綾は綾だ。しとやかな時もあれば、きょうみたいに積極的な時だってある。病んでた時期の綾のことを引き合いに出してそんなことを言ってるとすれば、それは違う。

 僕の両手をつかんだ綾が、僕がいつも綾にするみたいに頭の上に持ち上げた。

 きょうは綾が僕の腋を舐めてくれるの?

 涼しい瞳が間近にぼやけていて、ふーんと笑う鼻息が僕の頬を撫でる。

 と、突然、その両手と、あと両足も押さえつけられた。

「な、なに?」

「ごめんね、あなた」と、綾が僕の胸を力いっぱい押さえつける。

「あっ、なにするっ!」

 不意を突かれ、拘束具のようなものを介して両手両足を、天蓋の柱に固定されてしまった。

「最高級のレザーだから痛くないでしょ」

 紫の長い着丈のベビードールをひらひらさせて、由里さんが女神みたいに微笑み、

「らぎっち、ごめえん」と、この前会った時と同じタイプのセクシー学生服の色違いに身を包み、絶対領域の太ももをすり合わせて、ハルが手を合わせる。

 みんなして隠れてたのか?

 ここにきたときに足した薪が、ようやく燃え上がり、室内を紅く照らし始めた。

 身動きの取れないまま、上に乗った綾を見上げると、

「はああっ、苦しかったっ! 猫被りすぎて、死んじゃうかと思った」

 と、ワンレンの長い髪をさっとうしろに回して、大息をついた。

「綾ぁ、なにこれぇ?」と我ながら情けない声が出る。

「あたしだって、たまには積極的に楽しみたいわ。いつも沙夜ねえが、あなたにしてるみたいなこと」

 その時だった。部屋の隅から、きぃーと椅子の脚が床に引きずられる音とともに気配が近づき、幕の下りた天蓋のむこうで止まった。

 僕の竿を呑み込んだままの綾が、そこに向かって話しかける。

「あたしは、光がいっぱい射精する瞬間も見たことないし、アナルに指入れられて気持ちよさそうにヨガってる顔だって見たことないもの」

 さっきむこうから椅子を引きずってやってきたのは母さんか。

「きっぱり別れてよね! 光はあたしだけのものなんだから。いい?」

「だからもう終わってるわよ。何度言えばわかるの」

 幕のむこうから、やはり母さんの苛立つ声がした。

 ああ、突然の修羅場。

「ねえ、あなた。きょうはいっぱい気持ちよくなってね。そのためにみんながサポートしてくれる手筈なんだからね。覚悟はできてる? ねえってば」

 綾の中が痛いくらいにぎゅっと締まる。

「つ! はいっ、もう好きにしてっ」

 わざと情けない声で答える。母さんへのひどい言いようには腹が立つが、今の綾に説教をしても逆効果だ。体の自由も利かないことだし、とりあえず様子を見てチャンスがきたら懲らしめてやろう。

「まあまあ、喧嘩はよしこちゃんよ。姫ご所望のやつ、して差し上げますからね」

 唯さんが幕を割って現れ、ナイトガウンを脱ぐ。先月ここにきた時の秘書風ドレスのラテックス版って感じのものを着ている。

 パラパラ、パラ、パラ。

 肘あたりまであるラテックスの手袋が、突風で窓ガラスに吹き当たる雨のような音を立てる。

 一気に場が淫靡な空気に包まれた。

「姫ったら、乗ったままだと、術が施せませんことよ」

「あ、そっか」と、名残惜しそうな顔で僕の上から飛び退く。

 術って、なんだ?

「はあい光さん。心配は無用よ。これ、なんだかわかりますかあ?」

 唯さんの手には細い絵筆が。

「フランス製、コリンスキーセーブルの最高級品よ。この柔らかな毛先で亀頭をやさしく撫でて欲しい? でも残念……」

 眉間に妖しげな皺を寄せる。

「今回はこの軸の方。最高級、堅牢なラッカー仕上げ」
 と、僕の口元に絵筆の丸みをおびた軸側の先端をあてがう。

「さ、舐めてたっぷりご自分の唾を塗りつけるの。そうよたっぷりと」

 なんとなく先が読めた。この手練れのセックスセラピストに、とりあえず身をゆだねてみようか。

「ローションを使うのが一般的だけど、自分の唾の方が刺激がなくてよりいいの。唾液には殺菌作用もあるしね」

 そう言って唾液で光る軸の先端を漲ったペニスの鈴口に当てる。

 え? そこ。そこに入るの? 肛門とかじゃないんだ。

「はい! インサート」

 絵筆の軸が尿道をゆっくりと分け入り、徐々に沈んでいく。

「うわっ! ええっ! ……あれ、なんか変な感じ」

「変だけど、痛くはないでしょ。どうかしら?」

「う、うん、むしろ、……気持ちいいくらい」

「初期化、って言いますのよ。大量射精がウリのポルノ男優さんは、撮影直前にカテーテルでこれを行うの。尿道の癒着が解消されることで、驚くほどの射精量が期待できる……」

「わくわく!」とペニスを眼前にして綾が無邪気に笑う。

 長い絵筆の半分以上が沈み込んだ。

「まだ、もう少し」と、こんどは軸を回しながら、さらに沈める。

「はあっ、いい気持ち」

「ほうらご覧になって。軸がほとんど見えなくなりましてよ」

「おーぉ」と歓声とともに、由里さんとハルがにじり寄ってくる。

「当たってるの、わかります?」と、唯さんが手袋を鳴らしながら軸を弾く。

「つ、はあっ、あ、あ……」

 こそばゆい感覚をともないながらも、頭の芯にまで響くような快感!

「前立腺。……あなたの脈に合わせてこうやってつま弾くと、どんどん性感が研ぎ澄まされて、たぶんもう、あなたは接吻だけでも昇り詰められる躰になっている。さ、あとはみなさんにお任せするわ。ただし軸の扱いは慎重に、やさしくね」

 絵筆を尿道に沈めたまま、唯さんが身を引くと、すぐさま綾がペニスに纏わりついてきた。

「すうごーい、尿道パンパンだよ」

 細い絵筆とは言え一番太いところは女性の小指ほどはある。

「舐めちゃおう。はうっ」

 ふっくら唇の綾が、軸を飲み込み膨張した尿道に沿って舌をチロチロと動かす。

「ああん、や、気持ちいいっ。すごいダイレクトにくるっ」

「やあだ、女の子みたいな声出しちゃって。そう、こんなあなたが見たかったのよっ。じゅるっ、じゅるじゅるっ」

「あと、ここをトントンとやるのね? トントントン、じゅるぅー」

「ひゃっ、あ、あ、ダメっ!」

「なあに、姫ばっかり。わたしたちも楽しくサポートさせてもらおっと」

 紫ベビードール越しに色白のたわわな巨乳を尖り出させた由里さんが、いただきますと手を合わせる。

「由里さんって、母さんの同級生なんですよね。話には聞いてます。よろしくお願いします」

 初めてのことだし、とりあえず挨拶を。

「なにぃ、千人斬りとか言っちゃった? 恥ずかしいなあ。沙夜どうなの?」
 と、幕のむこうに問う。

「由里のことはなんにも言ってないよ」との母さんの答えを聞いて、
「なんにもってのも寂しいけど、まあ、これからこっち方面でもよろしくってことで」

 と、頭を下げながら脇腹に指をすうっと這わせる。

「はああっ、由里さん、ダメっ!」

「すごい! ほんとに敏感」

「今はいいけど。もう、由里ちゃん、あたしのカレシ、無断で盗らないでよね」

 話を聞いてた綾が、竿に頬ずりしながら釘を刺す。 

 はいはいと、聞いちゃいねーって感じで、さっそく始めちゃう由里さん。

「いい体だこと。たっぷり舐めさせて」

 乳首の脇に舌が這う。それ自体が生き物のように巧みに動く舌。女神像のような端正な顔の素敵な熟女。

 不意に脇から乳首に舌先がスライドする。舌裏の粘膜がツルりと先に触れる。

「はぁ、エロい」

「エロいの好きでしょ。わたしもだあいすき」

 エロい舌が、体じゅうを舐め回る。くすぐったいはずの腋舐めさえ、とろけそうな心地よさだ。

「らぎっちぃ、久しぶりにあたしもキスしたい。接吻だけでイケちゃうってほんとなの? 実験してみよ」

 と、ハルが唇を合わせる。ミルクのような風味の永遠少女なキス。

「わあ、はあっ、ぬちゅう。らぎっちの舌えっちぃ」

 ブラウスをずらして、ふんわり乳首を僕の乳首に合わせるようにさする。

 由里さんの舌は今、内ももにあり、そろそろ股間の筋にいき当たりそうだ。

「ああ僕もうダメ! やあん。気持ちよ過ぎますぅ。……うぐっ、はあうん」

 自己が解放されていく。女みたいな声を出して自分を晒しているのだ。だがしかし親父が言うように、これはたしかにちょろいかもしれない。

「あたしの時はもっとエグかったんだからね」と、耳たぶを舐めながらハルが言う。

「シアトルの自宅のプールサイドで、引退したシニアの男優さんをユイユイが連れてきて、たっぷりと犯されたんだ。お忍びで沙夜ちゃんもきたし、綾さん以外はみんないたよ。もう最高だったな」

「おまえ、むこうではいい暮らししてんだな。羨ましいよ。……ああっ」

「関心してんの、そこ?」とハルが呆れ顔で再び口を塞ぐ。

「もう! もう! なんか美味しいとこみんなに取られちゃってるんですけど」

 状況を悟った綾が、今さらながら騒ぎ出す。

「ユイユイ、もうこれ抜いちゃっていい?」

「はいはい。お姫さま。……さ、どうぞ」

 絵筆がかすかな刺激とともに抜かれ、ついてきたカウパーの糸を綾が舌で繰る。

「じゅるっ、愛する光チ×ポ、いただきまあす。ずるっ」

 解放されたばかりの尿道に、こんどは綾の舌先が進入する。

 前に経験したよりも、深い! それにどこまでも潜っていきそうな勢い。

「ああん、ひゅるひゅるひらるひんほあいひいー」

 舌を差し込みながら綾が感想を述べる。

「綾さん、なにいってるかわかんないー」と、ハルが隙を見て竿に舌を這わす。

「ああん、あ、あ」と、ハルに気づいて綾の舌が尿道の中で激しく蠢く。

「すご! 未経験のっ! すごさ、すご過ぎ! うああああっ」

 思わず叫ぶ僕と目が合った唯さんが、すっと近づき股間に手を差し入れて、妖しく微笑みながら玉の裏の前立腺をグイグイと押さえる。

 漲りが増して一気に尿道に圧がかかる。そこに蠢く蛇の舌。

「うぐう、うあああっ、あ、ダメ! イキそうとかじゃないけど、じれったいけど、ああ、追いつめられたみたいな気持ちよさっ」

 ずっとくすぐられ続けてて憔悴した者のように、白目を剥きそうになってる僕に(たぶん)由里さんがにじり寄ってきた。

「すごいでしょ、姫の舌。まさに蛇の化身よね。ここにいるみんなが、これに魅了されちゃったんだよ。だから綾はわたしたちの、蛇姫さまなんだ。蛇は神の使いであり、わたしたちの未来。そして再生のシンボルなのよ」

 意識が朦朧とする中、僕は由里さんの囁きに耳を傾けた。

 ようやく綾が尿道から舌を抜き、唯さんの前立腺刺激でパンパンに膨らんだ亀頭を美味しそうに舐める。

 やっと一息つけた。 

「すごいわあ、口に引っかかるカリ最高! じゅるずずずっ」

 と、ことさら音を立てて幕のむこうを一瞥する。母さんに見せつけているのだ。

 みんなのわがままアイドル、か。

「ねええ、あたし光をいたぶりながら手でイカせてあげたい。みんなよろしくね」
 そう言って蛇姫さまは、僕の顔のそばにちょこんと座った。

「姫ぇ、手でイカせるの見てるだけでいいのかしら? 今の光さんだったら、きっと射精の勢いものすごいわよ。喉奥に力強く当たって跳ね返るザーメン、感じてみたくない?」

「いやあん、感じたーい! ユイユイ手伝ってっ」

「はあい、じゃあ、こんどはこれで……」

 またなんか出てきた。なに? え、針金? それも太めの。

「自由に曲げられるビニール被覆のアルミ製針金よ。高級品じゃないけど」

 五十センチほどの針金を真ん中でふたつ折りにして、クルクルとねじらせて、折れて丸い部分を鈴口にあて刺激してくる。

「ちゃんと消毒済みだからご安心あれ。カウパーもたっぷり出てるし。それでは、入りまあす!」

 今度は、針金が! 針金が尿道に入っていく。

「はい、トルネード!」

 枯れた蔦のようにねじくれた針金が、ゆっくりとドリルのように尿道を回転しながら分け入り進んでいく。

「ひゃああっ、ダメ! ダメっ!」

「すごいねえ、ふっとい針金入っちゃってるよ。あなた、どう? 感想は?」

 蛇の舌で僕の頬を撫でながら、綾が囁く。

「やん! 気持ちいいですぅ」

 グロい見た目とは裏腹に、刺激は案外少なく、絵筆より気持ちいい。

 針金のねじれに合わせて緩やかに伸び、そして変形する尿道の管に沿うように、綾の細い指が纏わりつく。甘美で危険な刺激が走る。ああ、ぞくぞくする!

 チュルっと音がして、たまりかねた鈴口からカウパーが射精のような勢いで吹き出てきた。

「そろそろいいかな」と唯さんが針金を抜く。

「いっぱい出てきたわ。ほらもう。こんなにドロドロ」

 と、針金に水飴のように纏わりついたカウパーを、「最高の塩加減ね」と、美味しそうに舐めとる唯さん。

「ねえあなた。次は舌出して、早くってば」

 差し出した僕の舌を、綾のふっくらとした唇がキャッチして吸い始める。そこに蛇の舌が旋回するように絡まり僕の唾液を吸い上げる。

 見開かれた綾の涼しい瞳と、うれしそうに笑う鼻息。

 同時に大量のカウパーで潤されたペニスに絶妙な力加減で滑る綾の五指。パンパンに張ったカリの引っかかりを楽しみながら、チュクチュクと音を奏で指が上下する。

 そのうちの一本が、調教されてうれしげに口を開けた鈴口を塞ぐ。

 身をよじらせた僕の体に寄り添い、由里さんとハルが乳首と膝頭に吸いつく。

 主だった体の尖りはすべて塞がれ、そこから放電したいのに、したくて堪らないのに、体の中の気が、どんどんと溜まっていく。

 ダメ! もう破裂しそう。

 逃げ場をなくした気が、一気に股間に集中する。

「姫、そろそろよ、受けて!」と唯さんの声が聞こえる。

 天蓋を少しだけ開けて、暗がりの母さんが、ゴクリと喉を鳴らすのがわかった。

「ああっ、僕もう、イクっ! 出るっ! 出る! 出ちゃうっ!」 

 ……びゅるっ、びゅるるっ!

 ああ、拡張された尿道を粘性の高い液体が力強く通過するのがわかる。それとともに体に溜まった気も同時に、すがすがしく放出されている。

「ひぃっ!」

 脳天を銃弾で撃ち抜かれた者みたく、綾が断末魔のような声を発する。

 ぽっかり開いた綾の口から、口幅で勢いよく吐きもどしたミルクみたいに白濁液が噴き出している。

「ああ、もったいない」と唯さんが綾の口を塞ぎ、抱き止める。

 綾のスレンダーな四岐が、撃たれたカモシカみたいにわなわなと震えている。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「あーあ、姫のお守りも疲れるな」

 由里さんがベッドに戻ってきた。

「綾ちゃん、ずいぶんとご満悦だったわよ。今、唯とハルとでお風呂にいったわ。唯と綾ちゃんって名コンビよね。今ごろハルがふたりに弄ばれてるかもね。ばかだね、わたしたちって」

 タオルケットを被ってベッドに寝そべる僕に合わせて、由里さんも横になる。

「ねえ沙夜ぁ、いい加減出てきなよ」

「……わたしは、いい。きょうはずっとここにいるから」

「早くも嫁姑の争いってわけ?」

「……そんなんじゃないもん」

 晩餐まではふつうにしてたのに、急にひっこんじゃって姿を見せない母さん。

「ねえ、由里さん。きょうの集まりってなに? みんなどういう関係? 蛇姫さまのビギニングってあるの?」

 ずっと抱いていた疑問を僕は口にした。

「ねえ沙夜。らぎっちに全部話しちゃっていいよね」

「……うんまあ」

 寝たままこっちに向き直り、由里さんが語り出した。

「亡くなった沙夜の弟さんの浩輝くんのことは、なんとなく知ってるでしょ。浩輝くんって生まれつき病弱だったけど、ある種の特殊な能力みたいなものを持っていたのよ。予知能力って言うのかしらね。両親が亡くなることも、自分が亡くなることも、あらかじめわかってる風に、周囲には振る舞ってたそうよ。そして綾ちゃんは、亡くなった沙夜の弟さんの浩輝くんの幼なじみだった。わたしたちの前に現れたのは、綾ちゃんが十六歳、沙夜とわたしが二十五の時。女同士でばかばっかりしてつるんでたわたしたちは、綾ちゃんを受け入れてすぐに仲よくなった。綾ちゃんって、最初っからすごかったんだよ。そして浩輝くんは綾ちゃんに好意を寄せていた」

 そこで由里さんが深く溜息をつく。

「その頃わたしは、東京でスタイリスト助手として働いてて、月一くらいでこっちに帰ってみんなと会ってたかな。浩輝くんは亡くなる半年前、綾ちゃんとふたりでお気に入りのサッカーチームの記念試合に出かけた。浩輝くんってサッカー観るのが大好きだったんだ。最初で最後のプラトニックなデート。大学の恩師の息子さんで当時中学生だった、らぎっちが譲ってくれたチケットでね。覚えてるかな?」

「あ、覚えてます。でも、親父が勝手に譲っただけで、僕の意思じゃなかったんだけど……」

「そっか。でもそのことは重要な問題ではないわ。ここからが本題ね」

 と、由里さんが起き上がり、座った。

「亡くなる三日前だったかしら、偶然、綾ちゃん以外のみんながいるところで浩輝くんが言ったの。ちょうどいいから今言っとくってね。『あのチケットを譲ってくれた少年が、綾の将来のパートナーになるはず』って」

「え、なんで? あの時は親父に怒って、ずっと口聞かなくて、ばあちゃん困らせてただけの僕なのに?」

「わたしたちもその時は、浩輝くんのこと、またまた突拍子もないことを言う子だなって思ったくらいで、そうね、そうなればいいねって感じだった。でも、浩輝くんが亡くなったあと、そこからが急展開! 沙夜が桜木先生と突然できちゃって、結婚することになった。息子さんはあのチケットを譲ってくれた少年でしょ。わたしも唯も、にわかに色めき立ったわ。その頃の綾ちゃんって、男性経験はなかったけど、もう性の亡者って感じで、わたしたちの手にも負えなくなっていたのよ」

「みんなで怪物にしちゃったとか?」

「違うの、それ正反対! 綾ちゃんは最初からすごかったって言ったでしょ。みんなに種を蒔いて、怪物にされたのは、このわたしたちかも。ははっ。十六歳の少女よ。笑っちゃうでしょ」

「そこまでよ! その先はもういいでしょ」

 そこで母さんが止めに入った。

「ダメよー、いいところなのに」

 由里さんが僕の耳元に顔を近づけて、笑みを浮かべながら構わず続けた。

「沙夜はさ、確かめたかったんだ。らぎっちが綾ちゃんの相手にふさわしいかどうか。なにしろ相手は蛇姫さま。それ相応な器が必要だからね。なのに、沙夜自身がらぎっちの虜になっちゃった。ははっ、沙夜らしい。さすがわたしたちの仲間だわ。うーん、それにしても奇蹟よねえ。思わず乙女心がうずいちゃう。磁石がくっつき合うように、らぎっちと綾ちゃんは、すぐに結ばれたんだよね。あらかじめ定められた運命の出会いに、手助けは無用だったのよね。そのあと大学に進んで東京で就職したはずのらぎっちが、自分の意思に関係なく、こっちに今、住んでるのはなぜ? 綾ちゃんだって、こじらせた末に、幸せな結婚生活を手に入れたはずなのに、どうして別れちゃったの? まさにえにしだわ。不思議じゃない? それからこの話にはまだ続きがあるのよ。綾ちゃんのお父さまって、静岡から転勤してきたふつうのサラリーマンなんだけど、勤めてる会社は、あなたのおばあさまや桜木先生とゆかりのある、静岡に本社のあるオフィス家具メーカーよ。ね、鳥肌立っちゃうくらいの偶然でしょ」

 由里さんがタオルケットをめくって、僕のペニスにふくよかな胸を載せた。

「選ばれし者の、神聖な剛直」と、亀頭にキスをする。

「やっぱりらぎっちはただの男じゃないね。鬼の居ぬ間に、わたしもご相伴預かっちゃおっと」

 白い由里さんの谷間が僕のペニスを包み込む。あったかくって、もちっとしていて、癒やされる心地よさ。

「ああ、溶けそう。由里さんはやっぱり女神だな」

「やっぱりってなに? 太ってるとかなんとか、男衆みんなで影で笑ってるんでしょ、どうせ」

「そんなことないですよぅ。太ってませんって。由里さんって美人さんだし、包まれるような安心感があるって話ですから」

 柔肌がしっとりとくっついてくる。

「うまいこと言って。なんか気分がいい。ご褒美に挿れさせてあげる。ムリに頑張らなくてもいいのよ。わたしだって、イかせて欲しいわけじゃない。じっくり楽しみましょ。ハンバーグの上のチーズみたいに、さあ、ゆっくり溶けなさい」

 ベビードール姿のまま僕に乗っかって、由里さんが挿入する。

「ああ、夢心地ですぅ」

 イクことを強制されない、癒やしのエッチ。

 母親にぎゅっと抱きしめられるような、幸せな抱擁感を持つ由里さんの中。

「ねえ、由里さん、ママって呼んでいい?」

「ははっ、あなたまで。それ男によく言われるわ」

「ママ、素敵っ! おっぱいちょうだい」

「いいわよぉ、ほうら、いっぱいお吸いなさい」

「ああん、ママ、美味しいっ」

 柔肌に包まれて、大きめの柔らかな乳首を吸いながら溶けていく僕。

「……もう、ずるいの。由里ちゃん」

 天蓋のむこうで母さんが舌打ちをするが、聞こえないふりをして、由里さんが続ける。

「ねえね、らぎっち。綾ちゃんお風呂から出てきたら、みんなしてめちゃくちゃにしてやんない? このままだと沙夜だってかわいそうだし。そもそもみんなで楽しみましょって会なのにね」

「そう、それ教えて欲しかった。この集いってなに?」

「わたしたちだけの秘密の会よ。他のひとは誰も知らない。らぎっちもどこにも口外してはダメよ」

「大丈夫ですよ。口の堅さは母ゆずり、ですから」

「ええっ? 沙夜ゆずりってちょと心配。ははっ。沙夜って口に羽根生えてるんだもん。だから、あなたに関する自慢話もわたしいっぱい聞いてきたんだから」

「由里ちゃんひどい! 仲間うちだけでしょ。わたしだって言っていいことと悪いことの見極めはできてるつもりよ! それに報告はしたけど自慢なんてしてないもん」

「わかったわよ。おこんないで」

 とレースの幕越しに大剣幕の母さんをなだめて、由里さんは続けた。

「始まりはね、浩輝くんを男にする会かな。病院のベッドでね。あの頃はわたし以外だれも男の経験がなくって、最終的にわたしが男にしてあげた。二回目は桜木先生で、三回目はハルちゃん。わたしは全部参加してるな。先生なんて、やり過ぎて一時不能になっちゃって、ちょっと焦ったけどね。はははっ。みんな、おんなじ価値観を持つ、かけがえのない仲間よ」

 ……親父とそんな会で鉢合わせはちょっと遠慮させてもらいたいけど、不能になるくらいの経験、か。なんかしてみたいな。

「あれ! らぎっち硬くなったよ。傘開いてるよ。ははっ。沙夜さあ、よく言ってたじゃないの。ほら、らぎっちの傘、傘開いてるよ」

「……きーっ ばか、ばかっ!」

 天蓋のむこうで母さんが地団駄を踏んだ。

 ……なるほどね。自戒の意味を込めての、秘密に対するあえての厳しさ。母さんらしいや。
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