4 / 21
第一章 出会い
3 母さんには秘密がいっぱい
しおりを挟む
リビングのソファで目が覚めた。外が明るい。
本来なら、夜中に寒さで起きるところだが、きっと沙夜さんがかけてくれただろう毛布にくるまっていたから、朝になったのだ。
沙夜さんはどこ?
きょうは始業式。高校三年の始まりだ。
時計を見ると七時を回っている。やばっ、と慌てて飛び起きた。
きのうの夜は、沙夜さんのおごりということで、上にぎりを多めに四人前、出前でとって、それを食べながら大学生活がどんなものなのか、みたいな話を聞いた。
沙夜さんは女性なのだし、あまり食べないものだとたかをくくっていたら、それはもうけっこうな食欲なので驚いた。
結局、おなかいっぱいになるはずが、争奪戦に敗れ腹八分という感じで、食後のテレビを眺めていたら、そのまま眠ってしまったみたいだ。
沙夜さんは起きてるのかな。
沙夜さんのマーメイドの写真がどんと置かれているロングキャビネットの脇の壁にかかった時計をそっと引き離して、まるでスパイ物の映画みたく現れた壁の穴から親父の部屋を覗いてみる。むこうにある本棚の本が邪魔してよく見えないが、どうやらベッドには居なさそうだ。
そっか、この穴なあ。
リビングと親父の部屋を隔てる壁は、天井と床のロックを外せば、中央から二枚扉のようにキャスターのついた壁が、可動式に開く仕組みになっていて、壁の真ん中に何気にある、この直径三センチほどの穴は、いわゆる扉の取っ手の役割を担っている。
死んだ母が、広大なリビングにあこがれていたとかで、将来、僕が出ていったら、この壁を取っ払って続き間にしようと計画していたらしく、それを聞きつけた大工さんが、気を利かせて作った、匠のビフォーアフターみたいな仕様なのだと、親父から聞いた。
親父の部屋側はちょうど本棚の裏にこの穴があって、本棚に本を詰めてしまえばむこうは完全に見えなくなるのだが、雑な親父が本まで雑に並べるので、親父のベッドが丸見えになっていたのだ。親父の自慰を垣間見るのはさすがに遠慮したいと、穴にぴったりサイズの丸い工作材をホームセンターで探して、それを時計の裏に取りつけて、ぴったり栓をするカタチに塞いだのは、僕が中学の時だ。
工作材の裏に壁紙まで貼った丁寧な仕事だ。一見して気づくことはない。沙夜さんにはまだ伝えていないが……まあ、いいか。
食卓の上に、千円札一枚とメモがあった。
『先に出るね! これお昼ご飯代』
今までは月に幾らという感じで親父から渡されたお金で、僕がこの家の食費を仕切っていたから、こういう扱いはどうにも釈然としなかった。
きのう、沙夜さんは「あとはわたしが替わってあげる」って言ってたよね、確か。あの時僕は、朝の味噌汁の匂いで目覚める僕、なんて、そんなことを想像したんだ。
寒々しいリビングでひとり、まるで新参者の嫁に呆れる姑みたいに、千円札を握りしめ、尻に敷かれていることにようやく気づいた新婚亭主のような、そんな複雑な心持ちになった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そりゃしかたないわ。俺ら中高一貫男子校生が、女に免疫なんかあるわけないさ」
特に冷やかす様子もなく軽い調子で、斉藤が答えた。
スマホで撮ったマーメイドの写真を見せ、その彼女が親父の出張中に突然やってきたこと、思いあまって僕が泣いてしまったことなんかを、ちょうど今、ディルドの一件は伏せて、クラスメイトの斉藤と吉田に相談ついでに報告したところだ。
「すごいよね。新しいお義母さん。若くて、セクシーで。羨ましいよ。うちも後妻さんだけど、怖いんだ」
吉田の言葉を受けて斉藤が言う。
「吉田んちの母ちゃんも若いじゃん。うちの鬼ババにくらべると羨まし過ぎるんだわ、おまえら」
僕たち三人は、春の光を吸って温かくなった床面に、揃って大の字に寝転がっていた。
帰宅部の僕たちとは違い、新学期早々練習に励む運動部のボールの音やかけ声が、この屋上にまで響いてくる。
「知ってるか? アメリカのお金持ちの、若くてきれいな奥さんのこと、トロフィーワイフって、呼ぶんだと。男尊女卑って言うの? 傲慢だよな。おまえらの母ちゃん、トロフィー母ちゃん、なんてな」
地域最安値が売りの酒屋チェーン、リカー・サイトウの御曹司が馬鹿なことを言ってやがる。
「でも、やっぱり羨ましいよ。やさしそうだし、セクシーだし」
吉田がまた、ポツリと言う。
「なに? こだわるね」
「俺、小四の時、再婚したばかりの父ちゃんと新しい母ちゃんのあれ、見ちゃったんだ」
春の青空が、僕らのことを、うららかに見つめている。
「……朝起きて台所にいくと、沸騰しっぱなしの鍋がコンロにかかってて、まな板には切りかけのネギなんかがあって、妙な声が聞こえて隣の座敷を見たら、……二人が絡まってた。そうしたら、俺のこと睨むんだ、新しい母ちゃんが。あっち行けって感じで。……怖かったなぁ。今でも怖い」
僕と斉藤は、それを聞いて怖気立ったが、すぐに気を取り直して、ふたりして吉田に抱きついた。
「よく言ったな。もう我慢しなくていいんだからな。俺たちがついてるぞー。さあ、どんどん吐き出せ!」
僕らは仲がいい。うちの高校はクラス替えがないからおたがい二年越しの腐れ縁だ。
「新しい母ちゃんいいなぁ! 桜木の母ちゃんですが、やりてぇ、脚触りてぇ」
「俺も桜木の母ちゃん押し倒してー、乳吸いてー」
僕も一緒に笑った。やりてぇのは、君たちだけじゃないから。
でも、この屋上に居るのは、僕たちだけじゃない。
「おまえら声でかいし! 笹田クンに聞こえるし……」
そう言って、屋上出入り口付近に放置されていた古い机と椅子を並べただけの通称、屋上カフェに座る、笹田クンの方を僕は見た。
サラサラの長い前髪をけだるそうにかき上げながら、タブレットを操作している笹田クンは、我が校一の美少年だ。成績はまあまあだがホームルームでは進んで発言し、いつ何時もクラスの問題に真摯に向き合う、そんな頼もしい僕らの委員長でもある。
女生徒もちろんいない、女教師ひとりもいない、そんな男子世界において、小柄で細身でルックスもキュートな笹田クンは、僕たちに癒やしを与える特別な存在を担わされていて、もっぱらうしろから抱きつかれたり、耳を舐められたりと、女に飢えた男子生徒たちをなごませてきたわけだが、そんな時、笹田クンは向き直り、相手の手を、ほんと、いい感じの力加減で握って、
「またこんどね」と、じっと目を見つめる。
そりゃたいていは、「ご、ごめん」ということになる。ふざけてるのか本気なのかわからない。笹田クンにはそんなミステリアスな一面もあった。
そんな笹田クンに斉藤は、さらに声を張り上げ、聞こえよがしに続けた。
「父ちゃんの出張中にぃ、桜木んちにぃ、新しいきれいな若い義母さんがー、住み始めたんだけどぉ、ブラ紐が見えるようなやらしい格好でぇ、初対面でハグして巨乳押しつけてぇ、なんだかんだと思わせぶって、桜木を誘惑しますぅ。父ちゃんが帰るまで三週間、桜木はぁ、どうしたらいいでしょうかぁ? ……笹田クーン聞いてる?」
「そこまで言ってないだろうよ」
僕は頭を抱えた。
笹田クンは作業の手を止め、じっとこちらを見ていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
四人で学校を出たあと、帰る方角の違う斉藤と吉田が外れた。いつもなら、校門を出たあたりでふっといなくなるはずの笹田クンが、珍しくきょうはついてきた。
「お昼ごはんしない?」と、さらにレアな笹田クンからの誘いに乗って、駅前のカフェに入った。
並んで座った窓の外を、この近所にあるうちの姉妹校の女子校生たちが、目をハート形にして、こっちをチラ見しながら通り過ぎていく。中には手を振ってくる子もいる。さすがは美少年。笹田クンは人気者なのだ。
「写真、もう一回見せてよ」
僕はポケットからスマホを取り出して、沙夜さんのあのマーメイドの写真を呼び出した。
結局、笹田クンには、きのうのことを洗いざらい話した。斉藤たちには黙っていた、あのディルドの一件も含めて。話しているあいだ、時折こっちに向ける真摯なまなざしに打たれたというか、魅入られたというか、いつの間にかすべてを吐き出してしまいたくなったんだ。
「すごいね! 沙夜さんって。バイタリティがあるっていうのかな、思い立ったらそれを形にしてしまう強さ? これぞ理想の大人って感じで頼もしいよ」
性癖なんて千差万別。そこに囚われることなくひとの本質をしっかり捉えるべき。そんなことを笹田クンは言う。
「誘惑されてるってのは、ほんと?」
キラキラと瞳を輝かせ、今までにない親密さをたたえて、笹田クンのきれいな顔が近づいてくる。
まあ僕の思い込みかもしれないけど、そんなことを言おうとしたが、笹田クンは構わずに続けた。
「あのさあ、これって運命かなにか? 屋上で君のこと聞いて体に電気が走っちゃったよ。だからもう少しだけ」
近いよ笹田クン。ちょっと焦る。学校では模範生風に振る舞っているけど、実はもしかして、けっこうばかなやつなのかもしれない、なんて僕は思った。
「実は僕も、誘惑されてたんだよね」
声をひそめて耳元で囁かれる。
「……えっ?」
「カウンセラーのお姉さん」
「どういうこと? もう少し詳しく……」
笹田クンの小さな声を逃すまいと、僕がさらに顔を近づけると、通りをいくまた新たな女子校生の一群が、こっちを見て大げさに体を凍りつかせた。
ばか。BLじゃないぞ!
「父さんからはオレのカノジョって紹介されたけど、実際は違うと思う。名前は唯さん。名字は知らない。僕いろいろとこじらせちゃってたから、父さんが頼み込んで住み込みできてくれてたんだ。父さんって今まで三回離婚してて今は独り身なんだよ。ちなみに僕はふたりめのひととのあいだにできた子供なんだけどね」
笹田クンの家庭環境を聞くのはこれが初めてだし、こじらせちゃってたって、なんだろう? こいつなりにいろいろあるんだな。
「唯さんは僕とは十歳違い。昼間は父さんがオーナーシェフをしているお店の厨房を手伝いながら、閉店後、僕に寄り添おうといろいろ努力をしてくれた。なのに僕は、心を開くことができなくて、うじうじしてばっかりで……あああ、あの時怖がらずにいろいろ試せばよかったんだぁ」
笹田クンはそう続けたあと、悪い気を絞り出すように深いため息をつき、ウインドウガラスに手を当てた。試すってなにを?
「でね、別れの日、タクシーの窓越しに僕がこう手をかざして、そうしたら、唯さんもむこうから手をかざしてくれて。その瞬間、僕ははっと気づいた。このひとに恋してることを」
いつの間にか、さっきの女子校生の一群のうちのひとりが、窓にかざした笹田クンの手のひらに、外からピタリと手を合わせていた。
「あ、さっちー」と笹田クン。
呼びかけに応え、子ギツネみたいな顔をした色白の女子が、窓の外で柔らかく微笑んでいる。
「去年の文化祭で知り合った子。僕もう、いかなきゃ」
そう言って、笹田クンは、ひょいとリュックを肩にかけ、タブレットを急いで開きつつ立ち上がった。
「これが唯さん。沙夜さんみたいに美人じゃないけど」
タブレットのホーム画面には、カフェ店員みたいな格好の、十歳年上にしてはずいぶん若い感じのすらりとした女のひとが、微笑んでいた。
「唯さんって今、シアトルに住んでるんだ。ずっとメールのやりとりも続けてるしね。高校を卒業したら僕、あっちにいこうって決めたんだ。あ、それから……」
笹田クンはいかにも内緒話って感じで、耳元に手を当ててゆっくりと囁いた。
「扉を開けて! さあ、実験だよ」
伝票をひらひらさせながら「僕の分だけ先に払っとくねー。また話しようね」と、フレンドリー&少しミステリアスな本日の笹田クンが、爽やかに去っていった。
さっちーってカノジョ? 唯さんのことはいいの? 実験ってなに?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
家に帰ると当然のことながら、朝と同じ寒々しい部屋が待っているだけだった。沙夜さんの戻りは、夕方くらいかな。
――このひとに恋してる、か。
僕は、前に親父と観た沙夜さんのビデオを、もう一度観てみたくなった。
もしやと思い、テレビ台のレコーダーの中身をチェックしてみると、なんとラッキーなことにダビングされたものがハードディスクの中に入っていた。しかも、前の方だけ流して観た感じでは、美味しい部分だけに編集もされている様子。こういうところだけはマメだな親父。僕としては美味しい部分以外のもっとNGショット的なところが観たかったんだが、まあ、しかたがないか。
沙夜さんがカメラにぶつかってくるプールのシーンを何回もリプレイして観た。
僕も沙夜さんに恋をしてるのだろうか? もししてるとすれば、それはいつからなのだろうか? このシーンを始めて観たとき、それとも会ってハグされた時、それとも……。そんなことを漠然と考えた。
プールのシーンのその先は、柔らかな光の差し込む暖炉がある豪華なホテルの室内。バスローブを着た沙夜さんが、カメラを構えている親父と、普遍主義的価値観がどうとか、なにやら難しい話をしてるばかりだった。
いかにもふたりの世界って感じでちょっと疎外感。親父のビデオを勝手に観ているのだから、しかたないんだけど。
僕はビデオを流しっぱなしにしたまま、シャワーを浴びに行った。
バスタオルを腰に巻いた姿のまま戻ると、ビデオはまだ続いていて、その画面にすぐさま釘づけになった。
大きなおっぱいがこぼれ落ちそうな赤いレースのブラ、同じ赤のパンティに、ガーターベルトっていうのか? そんなエロ過ぎる格好で、しかも四つん這いの姿勢でカメラ目線のまま、画面いっぱいに顔を近づけてくる沙夜さん。
なにこれ? 急いで早戻す。
僕ってなんてラッキーなの。ひひ。
ホテルの部屋でのシーンが終わって、三十秒ほどの黒いブランクのあと、そのシーンは始まった。
逆光気味の光が差し込む、ホテルの部屋の大きなベッドの中央で、白いシーツにくるまった沙夜さんがカメラを見ている。グラドルのイメージビデオによくあるやつみたいな淡く明るい画面。
そして少しずつ、シーツから抜け出し、沙夜さんが四つん這いで、こっちに近づいてきた。
「先生、お疲れさまです。今、ホテルの部屋でひとり、先生がお風呂に入ってる隙にこのビデオを撮ってまーす。先生は女みたいに長風呂だから、たっぷり楽しませることができそうです。よかったねー」
そう言いながら、やらしい視線をこっちに向けて、自分でブラに包まれた巨乳を揉みしだく。
「ここからは、ヘッドホンかイヤホン着用でお願いしますね。そう、きのう台北の夜市にいく途中のオーディオショップで見つけて、衝動買いしちゃいました。バイノーラルマイクってやつ。ここにセットしてるんですよ」
沙夜さんの右手の先がカメラの左側に回り込んで見えなくなり、ゴソッとテレビの左側で音がした。どうやらカメラの真下の死角にマイクがセッティングされてるようだ。
そうか、これってASMRってやつじゃん。ちょっと前に学校で流行ったネット動画の数々。女のひとがシリコン製の耳たぶが左右についた一対の特殊マイクに小声で話しかけると、実際に耳元で囁いてるみたいに聞こえるやつ。世界中のお姉さんたちが、いろんな国の言葉でエッチに囁いたり、耳の穴に息を吹きかけたり、舐めちゃったりするのを、僕もベッドの中でずいぶん楽しんだっけ。
急いで、ヘッドホンを取りに行き、ジャックに差し込んで、ソファに腰を下ろして準備完了。耳の穴に差し込むイヤホンより、耳全体をカバーするヘッドホンの方が、息を吹きかけられる感覚が、より生々しいような気がしているから。
「……先生、準備できましたか? じゃあ、始めていこうと思います」
ポータブルとは言えさすがにハイビジョンカメラだから、逆光でちらちらと輝く沙夜さんの腕の産毛までもがよく見える。
どうでもいいが、今でも、先生って呼んでるのか? シチュエーション・プレイぽくって、ちょっとエロい。
「まずは左の耳からいきますね」
沙夜さんの顔が左側にフレームアウトして、ブラの谷間がアップになる。赤いレースのブラの先端を丹念に揉みしだいたおかげなのか、ツンと乳首を思わせる尖りができあがっていて……、ああ、目眩がしてきた。
「はあぁー、先生、大好きぃ。じゅる、じゅるっ……ずずっ、じゅるっ」
ひゃあ、僕も大好きっ!
左の耳の穴に生々しい刺激が広がり、思わず体をよじってしまう。
「こんどは右側、犯しちゃいますね。先生、右耳の方が感じるんでしたよねぇ」
いたずらっぽい妖しげな瞳で微笑むと、素早い動きで右側にフレームアウトして、
「じゅるっ、じゅる、じゅるっ。はうっ、はうぅ」
いやん。ダメ! ゾクゾクするっ。
僕は堪らず、ペニスをしごき始めた。
「なあに、センセ、もうしごいちゃってます。ダメですよ。まだまだイかせませんからね」
えっ、僕の行動とシンクロしてない? よ過ぎます。
沙夜さんはもじもじと、少し恥じらったような仕草をして続けた。
「今、先生はヨーロッパのどこにいらっしゃるのかしら。そしてわたしは今、そこから九千キロも離れた日本にいて、息子さんと生活をともにしているわけだけど。……あのね、先生、ご存じのように、わたしって、仲よくなると歯止めが効かなくなっちゃう性格でしょ。だから、やっぱり、心配よね。高校生といっても立派な大人の男でしょ。そんな息子さんと、ひとつ屋根の下、どうなんでしょうか? ……あれ、もしかしてまだしごいてます? センセ、ヘンタイなんだから」
呼びかけが『先生』から『センセ』になった。また右耳を舐め始める。
「じゅるっ、じゅるるっ」
ひぃ、突然の僕登場! 倒錯的だけど、……悪くない。
「……センセ。研究室でいいことした時みたいに、わたし、息子さん、光くんに犯されちゃうのかも。もしかしたら、今この瞬間、光くんのチ×ポが、わたしの中に入って、そうグリグリ……どうします? 九千キロですものね。どうにもできませんよねぇ」
おもむろに沙夜さんは右手をパンティの股間にあてがい動かし始めた。
とんでもないものを見てしまった。複雑な気持ちにならなくはないけど、やっぱり……うーん悪くない!
「ずいぶん前のことですけど、研究室の机に飾ってある光くんの写真を見て、わたし聞きましたよね。まだあどけなさが残る顔ですけど、背はずいぶん伸びたんじゃないですか、って、そしたらセンセ、こう答えましたよね。あどけないのは顔だけで、背丈はさておきチ×ポは俺よりひとまわりでかいんだなこれが、って。そんなこと一言も聞いてないのにちょっと自慢っぽく。ふふ、わたし、なに言ってんですか、って笑いましたけど、聞き逃さなかったですよ」
そう言って、意地悪そうな笑みをたたえながら、右耳に息を吹きかける。
「はぁうー、ふふ、楽しみだわ、センセのよりひとまわり大きなチ×ポ。……わたし、親子どんぶりのヘンタイになっちゃうかも。それを想像してしごいちゃってるセンセも、ヘンタイさん」
カメラ目線のまま、股間にあてがう指の動きを速める沙夜さん。少しずつ表情を歪ませながら、続けた。
「シコシコ、シコシコ……はうぅ」
導かれるように、僕はペニスをしごく。
色素薄めの沙夜さんの瞳孔が、大きく開いたように思えた。眉間に皺を寄せて、視点の定まらない瞳がだんだんと寄り目になっていく。開いた口の端からよだれが流れ出て、尖り気味のきれいなあごから、つぅと垂れ下がる。
沙夜さんエロい。すごくかわいい! イカせないなんて言いながら、自分はもうイッちゃいそうなんだもん。
「……わたしもう、らめぇ、センセもイッて、わたしの舌の上に、さあ、らして」
よだれの滴る舌先を大きく突きだし、沙夜さんのエロい顔がいっぱいに広がり、すうっと画面が吐息で白く曇った。
「僕もイクっ。沙夜さん、僕もイクよっ」
僕は突き刺さるようなザーメンを液晶ディスプレイに勢いよく放った。
「すげー。気持ちええー」
いつもなら、慌てて後処理をするところだけど、今はこのまま……。
「気持ちよかったぁ? わたしも最高。いっぱい幸せをくれて、ありがとね。先生」
沙夜さんのエロ過ぎるブラの谷間映像と、吐息混じりの耳元への囁き。これがいつまでも続いて欲しい。僕はそう願いながら、ソファに身を沈めて、しばらく甘い余韻に浸った。
本来なら、夜中に寒さで起きるところだが、きっと沙夜さんがかけてくれただろう毛布にくるまっていたから、朝になったのだ。
沙夜さんはどこ?
きょうは始業式。高校三年の始まりだ。
時計を見ると七時を回っている。やばっ、と慌てて飛び起きた。
きのうの夜は、沙夜さんのおごりということで、上にぎりを多めに四人前、出前でとって、それを食べながら大学生活がどんなものなのか、みたいな話を聞いた。
沙夜さんは女性なのだし、あまり食べないものだとたかをくくっていたら、それはもうけっこうな食欲なので驚いた。
結局、おなかいっぱいになるはずが、争奪戦に敗れ腹八分という感じで、食後のテレビを眺めていたら、そのまま眠ってしまったみたいだ。
沙夜さんは起きてるのかな。
沙夜さんのマーメイドの写真がどんと置かれているロングキャビネットの脇の壁にかかった時計をそっと引き離して、まるでスパイ物の映画みたく現れた壁の穴から親父の部屋を覗いてみる。むこうにある本棚の本が邪魔してよく見えないが、どうやらベッドには居なさそうだ。
そっか、この穴なあ。
リビングと親父の部屋を隔てる壁は、天井と床のロックを外せば、中央から二枚扉のようにキャスターのついた壁が、可動式に開く仕組みになっていて、壁の真ん中に何気にある、この直径三センチほどの穴は、いわゆる扉の取っ手の役割を担っている。
死んだ母が、広大なリビングにあこがれていたとかで、将来、僕が出ていったら、この壁を取っ払って続き間にしようと計画していたらしく、それを聞きつけた大工さんが、気を利かせて作った、匠のビフォーアフターみたいな仕様なのだと、親父から聞いた。
親父の部屋側はちょうど本棚の裏にこの穴があって、本棚に本を詰めてしまえばむこうは完全に見えなくなるのだが、雑な親父が本まで雑に並べるので、親父のベッドが丸見えになっていたのだ。親父の自慰を垣間見るのはさすがに遠慮したいと、穴にぴったりサイズの丸い工作材をホームセンターで探して、それを時計の裏に取りつけて、ぴったり栓をするカタチに塞いだのは、僕が中学の時だ。
工作材の裏に壁紙まで貼った丁寧な仕事だ。一見して気づくことはない。沙夜さんにはまだ伝えていないが……まあ、いいか。
食卓の上に、千円札一枚とメモがあった。
『先に出るね! これお昼ご飯代』
今までは月に幾らという感じで親父から渡されたお金で、僕がこの家の食費を仕切っていたから、こういう扱いはどうにも釈然としなかった。
きのう、沙夜さんは「あとはわたしが替わってあげる」って言ってたよね、確か。あの時僕は、朝の味噌汁の匂いで目覚める僕、なんて、そんなことを想像したんだ。
寒々しいリビングでひとり、まるで新参者の嫁に呆れる姑みたいに、千円札を握りしめ、尻に敷かれていることにようやく気づいた新婚亭主のような、そんな複雑な心持ちになった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そりゃしかたないわ。俺ら中高一貫男子校生が、女に免疫なんかあるわけないさ」
特に冷やかす様子もなく軽い調子で、斉藤が答えた。
スマホで撮ったマーメイドの写真を見せ、その彼女が親父の出張中に突然やってきたこと、思いあまって僕が泣いてしまったことなんかを、ちょうど今、ディルドの一件は伏せて、クラスメイトの斉藤と吉田に相談ついでに報告したところだ。
「すごいよね。新しいお義母さん。若くて、セクシーで。羨ましいよ。うちも後妻さんだけど、怖いんだ」
吉田の言葉を受けて斉藤が言う。
「吉田んちの母ちゃんも若いじゃん。うちの鬼ババにくらべると羨まし過ぎるんだわ、おまえら」
僕たち三人は、春の光を吸って温かくなった床面に、揃って大の字に寝転がっていた。
帰宅部の僕たちとは違い、新学期早々練習に励む運動部のボールの音やかけ声が、この屋上にまで響いてくる。
「知ってるか? アメリカのお金持ちの、若くてきれいな奥さんのこと、トロフィーワイフって、呼ぶんだと。男尊女卑って言うの? 傲慢だよな。おまえらの母ちゃん、トロフィー母ちゃん、なんてな」
地域最安値が売りの酒屋チェーン、リカー・サイトウの御曹司が馬鹿なことを言ってやがる。
「でも、やっぱり羨ましいよ。やさしそうだし、セクシーだし」
吉田がまた、ポツリと言う。
「なに? こだわるね」
「俺、小四の時、再婚したばかりの父ちゃんと新しい母ちゃんのあれ、見ちゃったんだ」
春の青空が、僕らのことを、うららかに見つめている。
「……朝起きて台所にいくと、沸騰しっぱなしの鍋がコンロにかかってて、まな板には切りかけのネギなんかがあって、妙な声が聞こえて隣の座敷を見たら、……二人が絡まってた。そうしたら、俺のこと睨むんだ、新しい母ちゃんが。あっち行けって感じで。……怖かったなぁ。今でも怖い」
僕と斉藤は、それを聞いて怖気立ったが、すぐに気を取り直して、ふたりして吉田に抱きついた。
「よく言ったな。もう我慢しなくていいんだからな。俺たちがついてるぞー。さあ、どんどん吐き出せ!」
僕らは仲がいい。うちの高校はクラス替えがないからおたがい二年越しの腐れ縁だ。
「新しい母ちゃんいいなぁ! 桜木の母ちゃんですが、やりてぇ、脚触りてぇ」
「俺も桜木の母ちゃん押し倒してー、乳吸いてー」
僕も一緒に笑った。やりてぇのは、君たちだけじゃないから。
でも、この屋上に居るのは、僕たちだけじゃない。
「おまえら声でかいし! 笹田クンに聞こえるし……」
そう言って、屋上出入り口付近に放置されていた古い机と椅子を並べただけの通称、屋上カフェに座る、笹田クンの方を僕は見た。
サラサラの長い前髪をけだるそうにかき上げながら、タブレットを操作している笹田クンは、我が校一の美少年だ。成績はまあまあだがホームルームでは進んで発言し、いつ何時もクラスの問題に真摯に向き合う、そんな頼もしい僕らの委員長でもある。
女生徒もちろんいない、女教師ひとりもいない、そんな男子世界において、小柄で細身でルックスもキュートな笹田クンは、僕たちに癒やしを与える特別な存在を担わされていて、もっぱらうしろから抱きつかれたり、耳を舐められたりと、女に飢えた男子生徒たちをなごませてきたわけだが、そんな時、笹田クンは向き直り、相手の手を、ほんと、いい感じの力加減で握って、
「またこんどね」と、じっと目を見つめる。
そりゃたいていは、「ご、ごめん」ということになる。ふざけてるのか本気なのかわからない。笹田クンにはそんなミステリアスな一面もあった。
そんな笹田クンに斉藤は、さらに声を張り上げ、聞こえよがしに続けた。
「父ちゃんの出張中にぃ、桜木んちにぃ、新しいきれいな若い義母さんがー、住み始めたんだけどぉ、ブラ紐が見えるようなやらしい格好でぇ、初対面でハグして巨乳押しつけてぇ、なんだかんだと思わせぶって、桜木を誘惑しますぅ。父ちゃんが帰るまで三週間、桜木はぁ、どうしたらいいでしょうかぁ? ……笹田クーン聞いてる?」
「そこまで言ってないだろうよ」
僕は頭を抱えた。
笹田クンは作業の手を止め、じっとこちらを見ていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
四人で学校を出たあと、帰る方角の違う斉藤と吉田が外れた。いつもなら、校門を出たあたりでふっといなくなるはずの笹田クンが、珍しくきょうはついてきた。
「お昼ごはんしない?」と、さらにレアな笹田クンからの誘いに乗って、駅前のカフェに入った。
並んで座った窓の外を、この近所にあるうちの姉妹校の女子校生たちが、目をハート形にして、こっちをチラ見しながら通り過ぎていく。中には手を振ってくる子もいる。さすがは美少年。笹田クンは人気者なのだ。
「写真、もう一回見せてよ」
僕はポケットからスマホを取り出して、沙夜さんのあのマーメイドの写真を呼び出した。
結局、笹田クンには、きのうのことを洗いざらい話した。斉藤たちには黙っていた、あのディルドの一件も含めて。話しているあいだ、時折こっちに向ける真摯なまなざしに打たれたというか、魅入られたというか、いつの間にかすべてを吐き出してしまいたくなったんだ。
「すごいね! 沙夜さんって。バイタリティがあるっていうのかな、思い立ったらそれを形にしてしまう強さ? これぞ理想の大人って感じで頼もしいよ」
性癖なんて千差万別。そこに囚われることなくひとの本質をしっかり捉えるべき。そんなことを笹田クンは言う。
「誘惑されてるってのは、ほんと?」
キラキラと瞳を輝かせ、今までにない親密さをたたえて、笹田クンのきれいな顔が近づいてくる。
まあ僕の思い込みかもしれないけど、そんなことを言おうとしたが、笹田クンは構わずに続けた。
「あのさあ、これって運命かなにか? 屋上で君のこと聞いて体に電気が走っちゃったよ。だからもう少しだけ」
近いよ笹田クン。ちょっと焦る。学校では模範生風に振る舞っているけど、実はもしかして、けっこうばかなやつなのかもしれない、なんて僕は思った。
「実は僕も、誘惑されてたんだよね」
声をひそめて耳元で囁かれる。
「……えっ?」
「カウンセラーのお姉さん」
「どういうこと? もう少し詳しく……」
笹田クンの小さな声を逃すまいと、僕がさらに顔を近づけると、通りをいくまた新たな女子校生の一群が、こっちを見て大げさに体を凍りつかせた。
ばか。BLじゃないぞ!
「父さんからはオレのカノジョって紹介されたけど、実際は違うと思う。名前は唯さん。名字は知らない。僕いろいろとこじらせちゃってたから、父さんが頼み込んで住み込みできてくれてたんだ。父さんって今まで三回離婚してて今は独り身なんだよ。ちなみに僕はふたりめのひととのあいだにできた子供なんだけどね」
笹田クンの家庭環境を聞くのはこれが初めてだし、こじらせちゃってたって、なんだろう? こいつなりにいろいろあるんだな。
「唯さんは僕とは十歳違い。昼間は父さんがオーナーシェフをしているお店の厨房を手伝いながら、閉店後、僕に寄り添おうといろいろ努力をしてくれた。なのに僕は、心を開くことができなくて、うじうじしてばっかりで……あああ、あの時怖がらずにいろいろ試せばよかったんだぁ」
笹田クンはそう続けたあと、悪い気を絞り出すように深いため息をつき、ウインドウガラスに手を当てた。試すってなにを?
「でね、別れの日、タクシーの窓越しに僕がこう手をかざして、そうしたら、唯さんもむこうから手をかざしてくれて。その瞬間、僕ははっと気づいた。このひとに恋してることを」
いつの間にか、さっきの女子校生の一群のうちのひとりが、窓にかざした笹田クンの手のひらに、外からピタリと手を合わせていた。
「あ、さっちー」と笹田クン。
呼びかけに応え、子ギツネみたいな顔をした色白の女子が、窓の外で柔らかく微笑んでいる。
「去年の文化祭で知り合った子。僕もう、いかなきゃ」
そう言って、笹田クンは、ひょいとリュックを肩にかけ、タブレットを急いで開きつつ立ち上がった。
「これが唯さん。沙夜さんみたいに美人じゃないけど」
タブレットのホーム画面には、カフェ店員みたいな格好の、十歳年上にしてはずいぶん若い感じのすらりとした女のひとが、微笑んでいた。
「唯さんって今、シアトルに住んでるんだ。ずっとメールのやりとりも続けてるしね。高校を卒業したら僕、あっちにいこうって決めたんだ。あ、それから……」
笹田クンはいかにも内緒話って感じで、耳元に手を当ててゆっくりと囁いた。
「扉を開けて! さあ、実験だよ」
伝票をひらひらさせながら「僕の分だけ先に払っとくねー。また話しようね」と、フレンドリー&少しミステリアスな本日の笹田クンが、爽やかに去っていった。
さっちーってカノジョ? 唯さんのことはいいの? 実験ってなに?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
家に帰ると当然のことながら、朝と同じ寒々しい部屋が待っているだけだった。沙夜さんの戻りは、夕方くらいかな。
――このひとに恋してる、か。
僕は、前に親父と観た沙夜さんのビデオを、もう一度観てみたくなった。
もしやと思い、テレビ台のレコーダーの中身をチェックしてみると、なんとラッキーなことにダビングされたものがハードディスクの中に入っていた。しかも、前の方だけ流して観た感じでは、美味しい部分だけに編集もされている様子。こういうところだけはマメだな親父。僕としては美味しい部分以外のもっとNGショット的なところが観たかったんだが、まあ、しかたがないか。
沙夜さんがカメラにぶつかってくるプールのシーンを何回もリプレイして観た。
僕も沙夜さんに恋をしてるのだろうか? もししてるとすれば、それはいつからなのだろうか? このシーンを始めて観たとき、それとも会ってハグされた時、それとも……。そんなことを漠然と考えた。
プールのシーンのその先は、柔らかな光の差し込む暖炉がある豪華なホテルの室内。バスローブを着た沙夜さんが、カメラを構えている親父と、普遍主義的価値観がどうとか、なにやら難しい話をしてるばかりだった。
いかにもふたりの世界って感じでちょっと疎外感。親父のビデオを勝手に観ているのだから、しかたないんだけど。
僕はビデオを流しっぱなしにしたまま、シャワーを浴びに行った。
バスタオルを腰に巻いた姿のまま戻ると、ビデオはまだ続いていて、その画面にすぐさま釘づけになった。
大きなおっぱいがこぼれ落ちそうな赤いレースのブラ、同じ赤のパンティに、ガーターベルトっていうのか? そんなエロ過ぎる格好で、しかも四つん這いの姿勢でカメラ目線のまま、画面いっぱいに顔を近づけてくる沙夜さん。
なにこれ? 急いで早戻す。
僕ってなんてラッキーなの。ひひ。
ホテルの部屋でのシーンが終わって、三十秒ほどの黒いブランクのあと、そのシーンは始まった。
逆光気味の光が差し込む、ホテルの部屋の大きなベッドの中央で、白いシーツにくるまった沙夜さんがカメラを見ている。グラドルのイメージビデオによくあるやつみたいな淡く明るい画面。
そして少しずつ、シーツから抜け出し、沙夜さんが四つん這いで、こっちに近づいてきた。
「先生、お疲れさまです。今、ホテルの部屋でひとり、先生がお風呂に入ってる隙にこのビデオを撮ってまーす。先生は女みたいに長風呂だから、たっぷり楽しませることができそうです。よかったねー」
そう言いながら、やらしい視線をこっちに向けて、自分でブラに包まれた巨乳を揉みしだく。
「ここからは、ヘッドホンかイヤホン着用でお願いしますね。そう、きのう台北の夜市にいく途中のオーディオショップで見つけて、衝動買いしちゃいました。バイノーラルマイクってやつ。ここにセットしてるんですよ」
沙夜さんの右手の先がカメラの左側に回り込んで見えなくなり、ゴソッとテレビの左側で音がした。どうやらカメラの真下の死角にマイクがセッティングされてるようだ。
そうか、これってASMRってやつじゃん。ちょっと前に学校で流行ったネット動画の数々。女のひとがシリコン製の耳たぶが左右についた一対の特殊マイクに小声で話しかけると、実際に耳元で囁いてるみたいに聞こえるやつ。世界中のお姉さんたちが、いろんな国の言葉でエッチに囁いたり、耳の穴に息を吹きかけたり、舐めちゃったりするのを、僕もベッドの中でずいぶん楽しんだっけ。
急いで、ヘッドホンを取りに行き、ジャックに差し込んで、ソファに腰を下ろして準備完了。耳の穴に差し込むイヤホンより、耳全体をカバーするヘッドホンの方が、息を吹きかけられる感覚が、より生々しいような気がしているから。
「……先生、準備できましたか? じゃあ、始めていこうと思います」
ポータブルとは言えさすがにハイビジョンカメラだから、逆光でちらちらと輝く沙夜さんの腕の産毛までもがよく見える。
どうでもいいが、今でも、先生って呼んでるのか? シチュエーション・プレイぽくって、ちょっとエロい。
「まずは左の耳からいきますね」
沙夜さんの顔が左側にフレームアウトして、ブラの谷間がアップになる。赤いレースのブラの先端を丹念に揉みしだいたおかげなのか、ツンと乳首を思わせる尖りができあがっていて……、ああ、目眩がしてきた。
「はあぁー、先生、大好きぃ。じゅる、じゅるっ……ずずっ、じゅるっ」
ひゃあ、僕も大好きっ!
左の耳の穴に生々しい刺激が広がり、思わず体をよじってしまう。
「こんどは右側、犯しちゃいますね。先生、右耳の方が感じるんでしたよねぇ」
いたずらっぽい妖しげな瞳で微笑むと、素早い動きで右側にフレームアウトして、
「じゅるっ、じゅる、じゅるっ。はうっ、はうぅ」
いやん。ダメ! ゾクゾクするっ。
僕は堪らず、ペニスをしごき始めた。
「なあに、センセ、もうしごいちゃってます。ダメですよ。まだまだイかせませんからね」
えっ、僕の行動とシンクロしてない? よ過ぎます。
沙夜さんはもじもじと、少し恥じらったような仕草をして続けた。
「今、先生はヨーロッパのどこにいらっしゃるのかしら。そしてわたしは今、そこから九千キロも離れた日本にいて、息子さんと生活をともにしているわけだけど。……あのね、先生、ご存じのように、わたしって、仲よくなると歯止めが効かなくなっちゃう性格でしょ。だから、やっぱり、心配よね。高校生といっても立派な大人の男でしょ。そんな息子さんと、ひとつ屋根の下、どうなんでしょうか? ……あれ、もしかしてまだしごいてます? センセ、ヘンタイなんだから」
呼びかけが『先生』から『センセ』になった。また右耳を舐め始める。
「じゅるっ、じゅるるっ」
ひぃ、突然の僕登場! 倒錯的だけど、……悪くない。
「……センセ。研究室でいいことした時みたいに、わたし、息子さん、光くんに犯されちゃうのかも。もしかしたら、今この瞬間、光くんのチ×ポが、わたしの中に入って、そうグリグリ……どうします? 九千キロですものね。どうにもできませんよねぇ」
おもむろに沙夜さんは右手をパンティの股間にあてがい動かし始めた。
とんでもないものを見てしまった。複雑な気持ちにならなくはないけど、やっぱり……うーん悪くない!
「ずいぶん前のことですけど、研究室の机に飾ってある光くんの写真を見て、わたし聞きましたよね。まだあどけなさが残る顔ですけど、背はずいぶん伸びたんじゃないですか、って、そしたらセンセ、こう答えましたよね。あどけないのは顔だけで、背丈はさておきチ×ポは俺よりひとまわりでかいんだなこれが、って。そんなこと一言も聞いてないのにちょっと自慢っぽく。ふふ、わたし、なに言ってんですか、って笑いましたけど、聞き逃さなかったですよ」
そう言って、意地悪そうな笑みをたたえながら、右耳に息を吹きかける。
「はぁうー、ふふ、楽しみだわ、センセのよりひとまわり大きなチ×ポ。……わたし、親子どんぶりのヘンタイになっちゃうかも。それを想像してしごいちゃってるセンセも、ヘンタイさん」
カメラ目線のまま、股間にあてがう指の動きを速める沙夜さん。少しずつ表情を歪ませながら、続けた。
「シコシコ、シコシコ……はうぅ」
導かれるように、僕はペニスをしごく。
色素薄めの沙夜さんの瞳孔が、大きく開いたように思えた。眉間に皺を寄せて、視点の定まらない瞳がだんだんと寄り目になっていく。開いた口の端からよだれが流れ出て、尖り気味のきれいなあごから、つぅと垂れ下がる。
沙夜さんエロい。すごくかわいい! イカせないなんて言いながら、自分はもうイッちゃいそうなんだもん。
「……わたしもう、らめぇ、センセもイッて、わたしの舌の上に、さあ、らして」
よだれの滴る舌先を大きく突きだし、沙夜さんのエロい顔がいっぱいに広がり、すうっと画面が吐息で白く曇った。
「僕もイクっ。沙夜さん、僕もイクよっ」
僕は突き刺さるようなザーメンを液晶ディスプレイに勢いよく放った。
「すげー。気持ちええー」
いつもなら、慌てて後処理をするところだけど、今はこのまま……。
「気持ちよかったぁ? わたしも最高。いっぱい幸せをくれて、ありがとね。先生」
沙夜さんのエロ過ぎるブラの谷間映像と、吐息混じりの耳元への囁き。これがいつまでも続いて欲しい。僕はそう願いながら、ソファに身を沈めて、しばらく甘い余韻に浸った。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる