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相姦図 ~蝉しぐれ~
エピローグ
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晴美さんが立ち上がって浴衣のみだれを直してはる。
その姿を眺めながら、さくらんの生い立ちって? そう聞きたいのをこらえた。
やっぱり聞かんとこ。それより、あの子と仲ようなろ。まずはそこから……。
その代わりに、出ていき際の晴美さんに聞いた。
「その浴衣、お母はんとおそろやね」
「やや、ばれた? 目ざといなあ小雪ちゃんは。わたしな、最近、あんたのお母はんに夢中なんよ。あないに無垢で少女みたいなひと、そうそう居てへん。こっちまで少女気分になって、思わぬアンチエイジング効果や。……で、あのひとな、一緒に住み始めた頃、わたしが独り身なんに当てつけるように、やたらと夫婦の営みを見せつけてはったんよ。それで、ある晩、意を決したわたしはふたりの床に忍び入って、もっと近くで見せてもらってもええ、って聞いたら、顔真っ赤にしはってな。旦那さんも、ほなら三人で仲よう、ってことで話がまとまって……。まあ、あとは、泥沼の関係でございますのやわ。ってな、ははっ! 実の娘には刺激が強過ぎたやろか。ただ、わたしはおとうさん以外の男性が苦手なもんで、もっぱらあんたのお母はんと楽しゅうさせてもろてんねん」
あのお母はんがなあ。まあ、これで、よかったんかなあ。……にしても、ああ、わたしのまわりは禁断かつ泥沼な関係だらけなんやなあ。
そんな自分かて、もちろんそうなんやけど……。
脇を見ると、お風呂にも浸かり一息ついた泰造が作務衣姿で、そんな話いっこも聞いてないって感じで、文机に向かって色鉛筆でなにやら黙々とスケッチしてはる。
「泰造! なあ大旦那はん、なに描いてはんの?」
「おお。新しい春菓子のアイデアが湧いてきてな。こんなん、どうやろか?」
三角形の、生八つ橋に似たかたちの生菓子。
「形と大きさは生八つ橋やわな。その方が親しみもってもらえるやろしな。皮はあんたの大好きな純白の求肥。中身は白餡や。こしにするか粒にするかは迷えるところや。まずは餡を丸めてそこにワンポイントで、紅い小粒の梅肉餡を乗せて、四角い求肥で包む。内の梅肉餡だけがうっすら透けて見えるのが特徴や」
これって!
『ルビー玉が、透けて見えてる』
透けてる梅肉餡がわたしのクリで、求肥はショーツってことやね。はあ。
「大旦那はんなあ。がっかりやで、って言いたいところやけど、これ、ええんと違う。創作菓子やのうて、季節を問わず量産してお土産に売ったら、ひょっとするといけるかもな」
「そうか。あんたもそう思うか。こんど三条と北山の店で試しに出してみて様子を見るか」
「それはええんやけど、菓子の由来を書いたしおりに、なんて書くか、やわなあ」
そう言うなりわたしは泰造の頭を掴んで唇を奪った。今日はまだ、泰造にイカせてもらってないやん!
犬の毛、テリアの毛みたいに柔い、泰造の白い髪。
「あほたれ! 泰造のあほたれ!」
作務衣を脱がすと、あほたれの剛直はんがすでに硬い。
「あほたれ! この菓子考えながら、硬とうしてはったな」
「小雪、好きやで」
「それ、ちょっと前に聞いたわ。小雪のことが、かわいいてかわいいて仕方ないーってな」
「ああっ、恥ずかしいからやめてくれ!」
「……せやけど、うれしかったで。せやから、せやから、早よ!」
ショーツをずらしただけで、すぐに繋がった。
「ああ、気持ちええ。なあなあ、日陰はもうええからこんどは日向でしよ。窓の方までこのまま抱えて連れていってくれはる? ロックンローラーの大旦那はん」
「おう! 嵐を呼ぶ男やからな。ほなら、いくで! よっこらしょ!」
「よっこらしょは余計やろ。ああっ! なんや今ので深う入った」
泰造が調子に乗って、わたしを抱えたまま腰を振りながら、移動しはる。
「小雪は軽いなあ」
「あっ、あっ、や、あっ……」
ようやく窓までくると、泰造はもう息絶え絶えや。わたしを桟の上に載せて、それでもさらに突いてきはる。
「な、なに! みなさんには優しゅうしときながら、わたしだけこんなに激しゅう、ずこずこ突かれてるんか?」
「これこそが愛情の発露ってやつやろ! ほら! ほら! どや?」
「もう、無理しんと。あした、筋肉痛ひどいで」
窓から半分身を乗り出して天を眺める。
そろそろ日が陰り始めてる。
眼前に広がるのは楓の木立の鮮やかな緑色。BGMは蝉しぐれ。そして……、ここまできたら、小川のせせらぎかてしっかりと聞こえる。
「おーい! 小雪ぃー」
と、この小さな渓谷に声がこだまする。
泰造の剛直はんを存分に味わいながら、首を反らせると、向こう岸で手を振ってやる早希の姿が天地逆さまになって見えた。ぶかぶかのヘソ出しタンクトップに短パン姿か。ああ、キノさんに借りたんやな。脇からお乳が見えそうやない。また、なにかしらのまちがいが起きそうな予感や。
「お取り込み中に恐縮やけどぉ、ゆうげの仕度、できたでぇー。夏松茸の炊き込みご飯かて、あるでぇー」
「わかったぁ。はあっ。これ済んだらいくわー、ああっ、やっ!」
「はあー、無理せんと、ごゆっくりー。それから、あとぉ、ごちそうさんですぅー」
せせらぎの音に乗って心地よく響き渡る早希の甲高い笑い声。それからそれから、木々の涼しげな葉擦れの音。
都会の喧噪から離れた山深き桃源郷。日陰の身のはずのわたしに寄り添う、奇妙な隣人たちが暮らす里。
ああ。このままやと、ますます調子に乗ってしまいそうや。
(了)
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