借景 -profiles of a life -

黒井羊太

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一人芝居『焚火』

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   (スポットライトで人物を照らす)
   (長い棒を持って焚き火をしている)

SE  足音1

   (振り返りながら台詞始め)
   「やあ、久しぶり。覚えている? それとも、今、思い出した?
    何年ぶりだっけね。まあ僕には時間なんて関係ないけどさ。
    ……うん、君は死んだ。元々、無茶して生き返らせていたからね。
    長生き出来なかったのは勘弁してよ。……はは、そうだね。
    いやぁ、思い出すなぁ。あの日を。君と初めて会って話をした日を」


(暗転)


   (立ち位置が左に。焚き火を弄っている。
    近くに一つ、黒い焚き火が消えかかっている)

SE     足音2

   「あぁ、ようやく来たか。随分かかったね。ここまで迷ったかい?
    焚き火、綺麗だろ?
    そこは寒いだろうから、少しあたっていくと良いよ」

SE  足音2、3

   「あっははは! そこの焚き火、やっぱり君も臭いと思うか!
    いや失敬、決して遊んでいるわけではないんだけどね。
    ん? この焚き火、気になるかい?
    ……この焚き火、なんだと思う?
    ヒントは、よく覗けば分かるかもよ」

SE  談笑する声

   「そう、人影が見えるだろう。これはね、人の命だよ。
    ……嘘じゃない。
    そして僕はこうしてこの火が消えないように管理しているのさ。
    よく周りを見てごらん」

    スポットライト(橙)10個焚き火っぽく

   「すごい数だろう? それだけじゃない。
    大きさ、色、何もかもが違うだろう?
    見なよ、あれなんて、他の焚き火を巻き込む勢いだ。
    ん? あぁ。
    あれは燃料が悪いのか、火が悪いのか。どうやっても臭いんだよね。
    そういう火も結構あるんだ。じぃっと見ていてごらん。あの火の周り」

   (一つの火がやがて黒くなり、周囲も黒くし始める)

   「うぇっへ! 臭い臭い! ああやって周りを巻き込んで
    黒くなってしまう火もあるんだ。
    そう言う時は……」
    パチンと指を鳴らす。

SE  火が消える音

   (黒い火の周辺の焚き火が全部消える)

   「こうして消してしまうのが一番だ。周りに迷惑だしね。
    ……うん、そうだね、これは人の命。
    そして今、この黒い焚き火の人は死んだ。
    おっと、そうガミガミ言わないでくれよ。これが運命なんだ。
    さて、この中に君の焚き火もある。どれだか分かるかい?
    ……違う。外れ。残念。
    正解は、最初に君が臭いと言った、あの消えかけの 焚き火さ。
    先程同様、僕が水をぶっかけた。
    ……だからそう怒るなって。
    君だって臭かっただろう? 周りに迷惑掛けそうな程に。
    君が生きている事が周りにとって迷惑だったんだよ。だから消した。
    そこに異論はあるかい?
    ……君の人生も眺めていたよ。ずっとね。だから、全部知ってる。
    はっきり言えば、同情すべきだ。
    十人が十人とも可哀想ね、と言うだろう。
    でも、そこが問題なんじゃない。
    ……分からない?
    じゃあ一体君は、何を選択したの?
    何ら選択肢がないはず? 何も出来ないはず? そうかもね。
    でもそうじゃないかも知れない。君は何かを始めようとしたかい?
    初めから全部諦めて、僕は可哀想な立場だからしょうがない、
    なんて思っていたんじゃないかい?
    そういう思考が、やがて周囲を腐らせるんだよ。
    君自身が、まず何かを努力すべきだったんだ。
    第一歩で上手くいかないかも知れない。手酷い失敗もするだろう。
    でも、やめたら終わり。臭い焚き火が出来て、僕に消されるだけさ。
    そんな人生で、満足かい?
    ……だろう?
    まあ。
    死んでしまった君に、こんな説教をしてもしょうがないんだけどね。
    ここから先、魂は別な場所へ行く。君もそこへ行くんだ。
    ……行きたくない? 生きたい? う~ん。
    よしんば生き返った所で、君は何が出来る。
    何も選択しないだけだろう?

   (沈黙)

    その言葉、本当かい?
    ……その目、嘘じゃないかい?
    ……そうか。
    あー、しまったー。
    僕ったら君の焚き火にしっかり水を掛けたつもりが、
    ちゃんと掛かってなくて火が 残ってしまっているぞー?
    今ならふーふー吹けば、火が戻ってしまうかも知れないー。
    あぁそんな事になったら僕は一体どうしたらー」

SE  思い切り息を吹く音

   「……あぁ、何と言う事だー。火がすっかり蘇ってしまったー。
    一度消えかけてるから、長くは保たないだろうが、
    しばらくは生き返ってしまうー」

SE  火が再び燃える音。 スポットライト(橙)に

   「……君は何でも出来る。やる気ならね。
    最後に、御覧。あの焚き火を」
 
   (棒で指した方向に、巨大なオレンジの焚き火が)

   「あれは、一人のものじゃない。何人もの命の炎が巻き上がり、
    連鎖反応をして巨大に見えているんだ。
    例え一つの火が消えても、残る別な火がその火を繋ぐ。
    そうして巨大になった姿なんだ。
    折角生き返るんだ。あれくらい、という訳には行かないだろうが、
    君もああなりなよ?
    ……うん、道中気をつけてね」

(暗転)

    再び男の立ち位置右側
   「と、こんな感じだったっけ?
    君の人生は……あぁ、こんなにも大きな炎になったよ。色も実に良い。
    短い時間だったけど、なかなかのもんだ。
    この感じなら、この炎は数十年は持つだろうね。
    君の人生、君自身は満足行くものだったかい?
    ……そうか、それは良かった。
    ん? あの時の事? あぁ、あれはただの気まぐれさ。
    君の人生、あまりに酷かったから。
    そのまま黙って消してやろうとも思ったんだけど、
    何だかそれには『惜しいな』って一瞬思っちゃったのさ。
    僕はこうして焚き火越しにずっと『人生』を眺めている。この一つ一つが、
    誰かの目を通した景色なんだ。君らの言葉で言う
    ……そう、借景。そんな感じに近いかな。
    ……人生って言うのは、ただ一度の焚き火のようなものでね。
    おぎゃあと生まれた瞬間に火がついて、最期の一息吐き出す瞬間に消える。
    人間の感覚だと、これが分からないんだ。
    一日一日を生きるので精一杯。朝始まって夜終わる。
    そのスパンがず~っと続くものだと思っている。
   『一生続く』と言葉で言いつつ、
    それはまるで永遠のように感じているだろうね。
    そんな事はない。人は必ず死ぬ。誰だって死ぬ。
    いつなのか、は分からないけどね。
    偉くてもそうでなくても、天才でもバカでも。男も女も、老人も子供も必ずだ。
    限りある時間、限りあるエネルギーを持ったまま、果たして何をするのか。
    人間はもっとそこに関心を寄せるべきだと思うけどね。
    君は……うん、精一杯生きたね」

   (舞台奥に、白い光)

   「さぁ、そうはいっても君は死んだ身。
    そろそろ行くべき場所へ行ってもらわなくちゃ。
    また来世、良い事あると良いね」

(暗転)
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