借景 -profiles of a life -

黒井羊太

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小説家H

小説家H③

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(H)もう一つ例を。リュミエール兄弟の「工場の入り口」とっていう映画があるんですが、ご存知ですか? ……ですよね。
 世界初の映画と言われている作品の一つで、彼らが持っていた工場に勤務する人たちが工場に入っていき、そして定時になって帰っていく、という、ただそれだけの映像です。あぁ、「列車の到着」も良いですね。
 これ、撮られたのが百年以上前なんです。えぇ。だから、これに映っている人たちは、全員亡くなっておられる。二百才の方がおられれば別ですが(笑)
 この人らは、たまたまこうして映像として形に残り、その顔が見られる訳ですが、その過去、そして現在の生活、それからどのような最期を迎えられたのか。一人一人の人生がどんなものだったのか。とても妄想を掻き立てられます。
 もう百年以上も前なら、はっきり言って『歴史上』です。『歴史上』の有名人や偉人達が活躍している世界です。でも、そこには確かにこういう『人間達』が居たんですよ。事実として。そして自分たちの生活を支え、社会を支え、歴史が作られていった。これは現在だってそう。
 翻って、僕らの今の生活。電車で隣に座った人たちも、道ですれ違う人たちも、有形無形に自分と関わっている。そんな想像、というよりも妄想を、読者の皆様にしてもらえるようになれば、僕がこの作品に込めた想いが伝わったのかなと思います。
――なるほどです。しかし妄想が行きすぎて大変そうですね(笑)
(H)そうなんですよ。こんな考え方になってから、人混みはもちろん、本屋や図書館にも近づきがたくて……(笑)
――図書館?
(H)「この本一冊を仕上げるのに作者はどんな人生を歩み、どんな事を伝えたいと思い、どんな風に書き上げ、出来上がった本を見てどう思ったのか……それがここに数万とあると言う事は、それだけの人生が……」
 果てしない妄想に襲われます(笑)
――(笑)酔いそうですね!
(H)人酔いならぬ、人生酔いです(笑)
 ついでに言えば、本の内容は誰かの頭の中を通るわけで、言い換えれば脳みそそのものみたいなものです。それが陳列してある……
――うわぁ……それはホラーですね……(笑)
(H)晒し首みたいな(笑) ただ、晒し首にも意味はあるわけで。「悪い事をすればこうなるよ」という教訓めいたものですよね。
 本も同じで、「こうありたい」とか、「これは駄目な生き方の例」とか、様々な事を示しているのかなと思ってます。その中に私の本が入って、「本っていうのは人生だ!」と言う事が少しでも伝われば、望外の喜びです。
――きっと伝わると思います。それでは、この度は受賞おめでとうございました!今後の活躍にも期待しております!
(H)ありがとうございました。今後ともご期待に添えるよう、頑張っていきたいと思います。
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