借景 -profiles of a life -

黒井羊太

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生徒D

生徒D②

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○月△日(曇)
 今日も制作していた。懸念していた頭頂部と下からの図だが、先生は案外あっさり寝そべってくれた。曰く「仕事中だけど生徒の頼みじゃしょーがないなーあー辛いわー」との事。駄目な大人だ。ああはなるまい。
 しかし今日改めて感じた事だが、先生はつくづくイケメンではない。常々そう思ってはいたが、つぶさに観察する程にそう思う。ボサボサの白髪頭、だらしないという程ではないが整ってもいない顔立ち、全体的な雰囲気。ひどいもんだ。
 だが先生は優しい。今日もぶつくさと文句を言いながら最後まで付き合ってくれた。私がむちゃくちゃ言っても、なんだかんだと折れてくれる。今日なんて、我ながらヒドかった。「面倒だから顔拓取らせて下さい!」だなんて。先生は怒りはしなかったけど、あきれてたなあ。私が石膏を準備しだした辺りで、さすがに怒られた。そりゃそうだ。そもそもそれを顔拓と呼ぶかどうかも怪しいが。デスマスクか何かかと。
 さて、目下の問題は明日からだ。今日でデッサンが終わり、後は淡々と削るだけ。つまり、先生はいなくてもいい訳だ。それは困る。どうしたものか思案をしているが、良いアイディアは浮かばない。明日までに何とかしなくては。今日は寝ずに考える事にしよう。


 ○月■日(晴)
 良かった。本当に良かった。昨日の悩みは、杞憂だった。
 放課後になると、先生は私の所へ来て、「今日も美術室へ行けばいいのか?」だって!一瞬頭が真っ白になったけど、意識を素早く取り戻して「はい!当然ですよ!」と答えた。会心の回答だったと自負している。先生は「だと思って先手を取ってやったよ」としたり顔だったが、正直言ってこちらの想定を遙かに上回る程の提案であった。やってやったと思ってる先生カワイイ。
 とにもかくにも、今日も先生との時間を作る事ができた。嬉しい。色々と下らない話ばかりで、実のない会話ばかりだ。先生の無駄に低くて良い声がお腹に響いて心地良い。明日からも聞ける。やった。
 今日はもう眠いので寝る。良い夢見れそうだ。
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