借景 -profiles of a life -

黒井羊太

文字の大きさ
上 下
9 / 36
生徒D

生徒D①

しおりを挟む
○月×日(晴)
 明日から卒業制作を作る事になった。テーマについては、悩むことなく先生を作ろうと思った。モデルになってもらうべく、今日一日先生をつけ回して、十五回目の回答で快諾してもらった。日々先生が言っている通り、やはり人間大事なのは根気と粘り強さだと思った。
 というわけで、明日から制作に入る。モデルは先生、作るのは、彫像だ。私自身彫刻は苦手な方ではあるが、だからこそやりがいはある。そして何より、時間が掛かる事が素晴らしい。ぱぱっと出来てしまっては、困るのだ。
 卒業まであとわずか。余り長い期間ではない。そしてこれを作ったからといって、後輩諸君がそれを見る事はない。そもそも私に後輩はいない。私の入学の頃から廃校が決まっていて、それが予定通り廃校になるからだ。この辺は過疎化が進み、それ以上に子ども不足が続いていたから、当然といえば当然の流れである。
 しかしそんな事は問題ではない。問題なのは先生との時間が残り僅かである事だ。そうそうチャンスはない。どうにかしなければ……


○月○日(晴)
 今日は制作に託けて先生とたくさん喋った。制作の為だからしょうがないね。うん。
 しかし制作は思ったよりも進んでいない。先生の顔立ちは問題ではないのだが、ボサボサの髪が厄介だ。彫像でどうやって表現したらいいのだろうか……私の精一杯の提案として、剃髪を先生にぶつけてみたが、すごい叱られた。それはもうすごい剣幕で。ヒドい。年頃の男性に髪の話題をぶつけるのは止めた方が良さそうだ。オトコって難しい。
 一応先生に椅子に座ったまま、その場でくるくる回ってもらい(仕事中なので散々文句を言われたが)、簡単なデッサンをやっている。今日は正面と側面だけ。
 やっていながら思ったのだが、正面をデッサンする時は色々と覚悟が要る。何せ目と目が合う。そんなん反則だ。作業なんて進むわけがない。先生は気付いただろうか?正面のデッサンが結局終わらず、一日の作業を終わらせた時に私が小さく溜息をついたのを。……無理だろうなぁ。あの先生だし。
 正面は明日も描くとして、問題は頭頂部と顎下からの図だ。下からなんてどうやって書いたら良かろうか?先生に寝そべってもらうか?……お願いの仕方を思案してみる事にする。今日は眠い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R15】メイド・イン・ヘブン

あおみなみ
ライト文芸
「私はここしか知らないけれど、多分ここは天国だと思う」 ミステリアスな美青年「ナル」と、恋人の「ベル」。 年の差カップルには、大きな秘密があった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

短編集「空色のマフラー」

ふるは ゆう
青春
親友の手編みのマフラーは、彼に渡せないことを私は知っていた「空色のマフラー」他、ショートストーリー集です。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

恋の味ってどんなの?

麻木香豆
ライト文芸
百田藍里は転校先で幼馴染の清太郎と再会したのだがタイミングが悪かった。 なぜなら母親が連れてきた恋人で料理上手で面倒見良い、時雨に恋をしたからだ。 そっけないけど彼女を見守る清太郎と優しくて面倒見の良いけど母の恋人である時雨の間で揺れ動く藍里。 時雨や、清太郎もそれぞれ何か悩みがあるようで? しかし彼女は両親の面前DVにより心の傷を負っていた。 そんな彼女はどちらに頼ればいいのか揺れ動く。

暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ
ライト文芸
〈あらすじ〉 ワケあり家族の日常譚……! これは暴走族「天翔」の総長を務める嶺川家の長男(17歳)と 妹の長女(4歳)が、仲間たちと過ごす日常を描いた物語──。 不良少年のお兄ちゃんが、浸すら幼女に振り回されながら、癒やし癒やされ、兄妹愛を育む日常系ストーリー。 ※他サイトでも投稿しています。

月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」 寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。 クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。 第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、

処理中です...