異世界ホームズ

ゆったり虚無

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第13話 ドラゴン討伐

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 魔法を唱えるもの。
剣を振りかざすもの。
弓を放つもの。
冒険者たちは様々な攻撃をドラゴンにしていた。

「魔力がつきた!ポーションをよこせ!!」

「こっちはケガ人だ!!」

「僧侶か賢者はいないのか?!」

一目見ただけでも分かる。
集団パニックだ。
各々が自分勝手に攻撃を放つ。
私はこれを戦争で見たことがある。
統率者がやられた歩兵師団だ。

「さて、あまり矢面に立つのは好みではないのだが…」

そう言いながらホームズはギルドへと向かった。

「ギルドマスター。いるか?」

「あ、ああ。ここにいる。」

見るとギルドの奥にモンス…ギルドマスターがいた。

「あれはまずいな。今までのドラゴンと種類が違う。」

「どうやらそのようだね。それで?ギルドの対応は?」

「外部への救援だ。俺にはそれしかできない。少なくともゴールドランク以上の冒険者が5人はほしい!」

「その冒険者はいつ着くのかね?」

「早くても明日だろう。」

ギルドマスターは今にも泣きそうであった。

「あいつらの中には、家族持ちもたくさんいる。若いやつもたくさんだ。そんなやつらがこんな所で死ぬのは…。あまりにも。」

「そんなことはどうでもいい。時間がないのだ。」

ホームズの言葉にギルドマスターは呆然とした。

「なんの…時間だ?」

「この町の崩壊までだよ。」

ホームズはギルドマスターの目を見た。

「ギルドマスター、この建物に拡声器は?」

私は外に出て、急いで走った。
遠くでホームズの声が聞こえる。

「諸君、攻撃の手は止め、防御に専念してもらいたい!!」

「この声は誰だ!!」

「そんなことをしたらジリ貧じゃねえか!」

「町には俺の家族がいるんだ!バカなことを言うな!!」

方々で怒号が飛び交う。

「私はシャーロック・ホームズ!上級職だ!!」

「聞いたことねえ名前だ!」

「だからなんだってんだ?!」

当然の反応だ。

「私に策がある。私の指示に従ってほしい!!」

ホームズがそう言ったとき、一瞬広場が静まり返った。
しかし。

「信用できるわけないだろう!!」

この言葉を皮切りに怒号は炎のように広がっていった。

「みんな!この人は信用してもいいよ!!」

ホームズに変わり、女性の声が響き渡った。
この声は!

「アドラー…!」

なぜ彼女が?

「そして次期この町の長として命じる。この者の指示に従え!!」

一体どういうことなのか、さっぱり分からないが。
ひとまず関門は突破したようだ。

「ありがとう。ミス・アドラー。さて、今この町はあのドラゴンに壊滅させられる寸前だ。しかし、君たちの働きで食い止めることはできる。」

「だが、ここにはブロンズとシルバーの冒険者しかいないぞ!」

「そうらしいな。ならば、戦術で乗り切る。シールドを使える者は広場の中心へ!」

冒険者たちは戸惑いつつも指示通りに動き始めたようだ。

「近接攻撃専門の冒険者は町中から魔力回復のポーションを!石像を動かせる者はドラゴンの攻撃から広場の中心を守りたまえ!」

広場の冒険者はまるで一つの生き物であるかのように動く。

「やってやるよ。アイスシールド 展開」

「アドラーちゃんの頼みなら… ファイアシールド 展開」

「僕のゴーレム君、頼むっス!act!」

広場の中心では魔術師たちが防御魔法を展開し、石像がそれをドラゴンから守る。
ドラゴンは依然、上空を旋回している。

「ふむ、概ね順調だな。あとは。」

ホームズはドラゴンを見上げていた。

「待つだけだ。」


 彼が軍師としての手腕をふるっていたころ、私は町の東に来ていた。
ここは観光客用の施設が多く、比較的高い建物が多い。
私は目についた最も高い建物へと向かった。

「ここなら狙えるか。」

私は銃を取り出し狙いを定める。
まだだ。
私は一発しか撃つことができない。
私はまだ、撃たない。

「おや、撃たなくてもいいのですかな?」

背後を見ると老人が立っていた。
その老人は茶色のコートに黒のハンチング帽を身に着けており、顔までは確認できなかった。
しかし、私だから分かったこともある。

「私はまだ撃ちませんよ。ドクター。」

「ほう、どうして私のことをドクターだと?」

「匂いですよ。そのアルコールの匂いは嗅ぎなれた匂いですね。おそらく度数の強いお酒を持っているのでは?例えばブランデー。あれは良い気付けになりますよね。そしてジャンキーが飲むようなものではないですし、あなたにもジャンキーの特徴は見受けられない。」

「なるほど。鋭い考察です。そう、私はこの町で医者をしています。」

「それで?医者が私になんの用です?」

「いえいえ、別に用があるわけではないのですよ。ただ、ここが最もドラゴンを眺めるのに適していたので居ただけです。あなたは気づかなかったようですが、ずっと居たのですよ?」

「それは失礼しました。」

そう言い、私はまたドラゴンに狙いを定めた。
すると突然、ドラゴンが私の方に振り向き、目と目が合った。


 さて、ワトソン君は無事に辿り着いただろうか?
彼のことだから心配はしていないのだが。
ギルドのクエストボード前に僕とミス・アドラーは立っていた。

「いや~、ホームズさんってすごい人なんですね!まさか冒険者の指揮を執るなんて!」

「ミス・アドラー。それは違うよ。これはあなたの地位を利用しているだけだ。それにしても近くにいて助かった。」

「いいんですよ!家の中に閉じ込められていて暇だったし。でも突然、家の兵士が全員広場に行ったから、私もこっそり付いていったの。」

彼女の地位の高さは最初から分かっていた。
所作や持ち物は一級品だ。
周りの目や対応を見ても尊敬されていることが感じ取れた。
大雑把なようだが気品を感じる。
本当にあの女性に似ているな。

「ホームズさん。ギルドマスターとしては情けない限りです。」

ギルドマスターか。
ギルドから出てきたのか。
愚鈍ではあるが、素直な男だ。
今にも泣きそうだが。

「いえ、そんなに気を病む必要はありません。適材適所、各々が働く時があるのです。あなたの働きは今ではない。ただそれだけのことです。」

「おお!!ホームズさん!このような役立たずにもったいなきお言葉!」

さて、これで拡声器にこの男の泣き声が入り込む心配はなくなったな。

「冒険者諸君。もうしばらく頑張ってもらいたい!戦士諸君は魔術師たちに薬を!
石像を操る術師は東の方角へ移動を!」

「なんで東に?」

「いい質問だ、ミス・アドラー。今、東にはワトソン君がいるんだ。僕の目的はドラゴンの頭を東へ向けることさ。」

「ふーん。よく分からないど。」

ミス・アドラーはワトソン君の銃を知らないから当然の反応だ。
しかし、この魔法は実に優秀だな。
おや?
あの動きは…
 
「ドラゴンのヤツ。東へと向かい始めたぞ!」

「いや、別に動いてないけど?」

「今は説明できない。時間がないな。石像使い!!今すぐ石像の手に多数の攻撃専門の魔術師を載せてドラゴンの近くへ動いてくれ!!魔力が切れた者は直ちに回復を!!」

「うへぇ!!マジっすか!?仕方ないなぁ。魔術師たち!早く僕のゴーレム君に載ってくださいっス!」

ふむ、あの魔術師は他とは違うようだ。
動きが素早く頭の回転も速いな。
そして何よりも、見た目が獣人ではない。

「ミス・アドラー。あの石像を操っている魔術師はなんという名だね?」

「ああ、ロビン君のことかな。彼は妖精の錬金術師ですね。」

「なるほど。彼は優秀だな。」

「ロビンもホームズさんと同じで突然この町に来た方の一人ですね。」

ギルドマスターが口をはさむ。
そうか、ギルドマスターならば、この町の人間関係は把握しているのか。

「本当に東に向き始めた!」

「僕の合図と同時に全力でドラゴンの口に強襲をかけてくれ!」

「口を開くタイミングなんか分かるの?」

「ミス・アドラー。よく観て観察するんだ。そうすれば分かるよ。」

僕は拡声器を口に近づけ、声を張り上げる。

「ヤツの鱗が逆立つとき!全力で魔法を撃て!!それとロビン君の部隊は口元を狙ってくれ。」

「なんか僕のところだけ厳しくないっスか?!」

ロビン君が文句を垂れている。
しかし、仕事はしっかりとこなしてくれるようだ。

「ゴーレム君!!前進っスよ!act!」

どうやら命令を下した後で act という詠唱を行う必要があるようだ。
そういった魔法もあるのか。
奥が深い。
おっと、今はそんなことを考えている場合ではなかったな。

「さて、そろそろ鱗が逆立つな。ミス・アドラー。僕が合図を出したらこの拡声器に向かって号令を。」

「うわ、重役だ…。」

彼女の号令の方が士気が高まる。
頑張ってもらうとしよう。


 ホームズ、どうやら上手くいったようだな。
彼の作戦は簡単なものであった。
ホームズがなんとかしてドラゴンを東の方へと向かわせる。
理由としては住宅地が少ないからだ。
そして高い建物が多いので私が奴の口元を狙いやすいというのもある。
ドラゴンの後ろには巨大な動く石像が見える。
まったく、魔法とはあんなこともできるのか…。

「鱗が逆立っているな。ということは。」

ドラゴンは口を大きく開き、鱗を逆立たせていた。
鱗の隙間からは蒸気のようなものが出ている。
おそらく放熱反応のようなものなのだろう。
つまり。

「お前自身、その炎には耐えられないのだろう?」

私は静かに呼吸を整え、引き金を引く。


 鱗が逆立ったな。

「ミス・アドラー!号令を!!」

「みんな!目標はドラゴン!全力で叩き込め!!」

一斉に広場から光が放たれる。
魔術師が魔法を使った時の光である。
戦士のような格好の者も魔術師に巨大な石を生成してもらい、ドラゴンに向けて投げていた。
石像の手のひらからもドラゴンの口元に光が放たれている。

「おい!この攻撃は本当に効いているのか?!」

「あの鱗が硬くてちっともダメージが入らねぇ!」

むろん、鱗に阻まれて、ほとんどダメージはないであろう。
だが、体内となれば話は別だ。
だから今が狙い目なのだよ。

「攻撃を浴びせ続けろ!もうすぐ門が開く!」

そう。
ワトソン君が放つ銃弾。
あれが門を開くのだ。
ヤツが口を開くときに。

「おい。あの光はなんだ…?」

一瞬だが広場が光に包まれる。

「ワトソン君だな。」

町から轟音と共に音が消える。
一筋の光がドラゴンを貫くのが一瞬見えた。
ミス・アドラーは。
唖然としているな。

「ミス・アドラー。少し席を外すよ。」

「…いや、ちょっと待ってよ!あのドラゴンは?」

「ああ。落ちるか逃げるかするだろう。」

ドラゴンは口の中にワトソン君の銃弾を喰らったのだ。
文字通り。
つまり、放たれるはずだった火炎は自身の体内へと逆戻りし、鱗の排熱機関へと流れていく。
その時、鱗は完全に逆立ち、火炎とワトソン君の銃弾でできた傷を隠すことができない。
そこを彼ら冒険者にずっと攻撃してもらっていたのだ。
避ける隙などなかっただろう。
さて。
僕はワトソン君を迎えに行く必要があるのだ。
あとは彼女に任せよう。


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