異世界ホームズ

ゆったり虚無

文字の大きさ
上 下
3 / 14

第3話  職業適性試験

しおりを挟む
 私はアドラーと共に町を散策した。
私がホームズと別れた場所はどうやら町の西門の近くなんだそうだ。
そちらのほうは家屋が多く、様々な住人がそこに住んでいる。

「君たちは、なんというか私とは違う身なりのようだね。」

私は生物学的な違いを聞こうと思ったが、失礼にあたるかと思い服装についての言及に押しとどめた。

「ああ、確かにそうね。私もあなたのような服装の方は初めて見たわ。」

「そうか。イギリスではこういう服装が一般的なんだが。」

「イギリス?」

私は戸惑った。
まさかイギリスを知らないのか?
そんなはずはないと思うのだが、相手の顔を見ると確信した。
この娘は本当にイギリスを知らないのだ。
そこで一つ、質問をすることにした。

「ところで忘れてしまったのだが、ここはなんという国だったかね?」

「そんなことも忘れてしまっていたのね。ここはライゲート王国。」

彼女はクスクスと笑いながらいたずらっぽい笑みを浮かべて私に教えてくれた。
聞いたことのない国だ。
だが、どこかで聞いたような名前でもあるな。
私はいよいよ焦り始めた。
本当にここはどこなんだ。

「何をボーっとしているのよ。次の場所に案内するよ!」

なにが楽しいのかピョンピョンはねながら彼女は私を急かしてくる。
とりあえずおとなしく彼女の案内に付き従おうかと私は考えた。

「分かったから。次はどこに案内してくれるんだ?」

「ここから東に大広間があるの。今日は一年記念だからきっと賑わっているわ!」

「なんのお祭りだい?」

「勇者が魔王を討伐した祭りに決まっているじゃない!」

彼女は当然のことでしょと言わんばかりに教えてくれた。
「魔王」?シューベルトのか?
ますます分からなくなった。
それに「勇者」とは一体なんのことなんだ。

「そういえば、あなたの職業は?」

「私の職業か。今は医者をやっているよ。いわゆる町医者というやつだ。」

「医者?」

まさかだが、医者も知らないのか?
じゃあこの町の住民はどう病気を治すというのだ。

「ケガや病気を治す人だよ。」

「あ!つまり回復師ということだね。」

今なんと言った?
看護師ではなく回復師?

「あなた、自分の適性職検査受けてないの?」

「適性職検査?」

「そう。人にはそれぞれ個性がある。」

それはそうだろう。

「職業には主に戦士、魔法使い、僧侶といろんなものがあるの。」

耳慣れない言葉が飛び交った気がしたが今はもう黙っていよう。

「それで、成人になるとその職業適性検査を受けることがこの国での義務になっているの。」

「なるほど。」

正直、全然なるほどではないが。

「その中の一つが回復師というわけ。受けていないなら受ければ?」

「そんな簡単に受けられるものなのか?」

「受けられるよ。職業適性試験が義務になったのは五年前だから、まだ受けていない人って意外といるの。だから、年中無休で受け付け中ってわけ。」

なるほど。

なるほど?

まぁ、なんとなくは理解できた。
要するにこの国では独自の文化が存在するというわけか。
職業も名前が変わっているが、おそらく近衛兵や料理人みたいなものなのだろう。
料理なんて見る人によれば魔法みたいなものではあるし。

「広間に行くのは後にして、先に職業適性試験を受けましょうか!」

アドラーは歩く方向を変えてきびきびと歩き始めた。
私は黙って従うしかなかった。
なんだか情けない。

 少し歩いた先には酒場があった。
店の外には見慣れない文字でメニューが書いてあったがなぜか読むことができた。
不思議な感覚だ。

「ここで受けるのか?」

病院のような施設を想像していた私は聞かずにはいられなかった。

「あっているわ。」

そう答えながらアドラーは店内に入っていった。
私も後に続き店内に入った。
中は実ににぎやかであった。
酒を飲むもの、話に興じるもの、歌を歌うものなど実に多様な人種が一緒になって騒いでいた。

「今日は一段と騒がしいな。」

アドラーは酒臭い人々をかき分けながら奥へと進んでいく。

「おお!アドラーちゃんじゃないか!残念だったな。ちょっと前に試験に来た人がなんと上級職だったんだ!しかも見たこともない職業だったんだ。」

店の奥にいた店主と思わしき人物が興奮気味に話しかけてきた。

「ほんとに!?もっと早くこればよかった。」

アドラーは見るからに落胆した調子でそう言った。
そんなにその「上級職」というものを見たかったんだろうか?

「あ、そうそう。ちょっと職業適性試験を受けたい人がいるんだけど。」

アドラーはそう言い私の背中を押した。

「お!お兄ちゃんまだ受けたことなかったのかい。」

店主はバンダナをまいたガタイのいいクマのような人であった。
私の目に狂いがなければ人である。
おそらく熊ではない。

「この機械の上に手をかざしてくれ。」

そう言いながら店主は金属の板のようなものを机に置いた。
これで一体何が分かるというのだろうか。
私は恐る恐る、その板の上に手をかざした。

とたんに、板が青く光り輝いた

金属板に青白い文字が浮かび上がる

私の方からでは文字が反対になっているのでよく読めなかった。

「あああああああああああああああああああああ!!?」

突如、店主が叫びだした。
前言撤回、やはり彼は熊だったのだろう。
いつも持っている銃に軽く手を近づける。

「どうしたの!?ギルドマスター!!」

アドラーも驚きながら店主に声をかける。

「二人目だ!今日だけで二人!!」

店主の目は今や飛び出さんばかりに見開かれている。
もはや熊でもなんでもない。
私は彼の名前を勝手にモンスターと名付けた。

「あなたの職業は」

今や店の中は静まり返っていた。

「上級職、軍医!!!」

モンスターはそう声を張り上げた。
その瞬間

「          」

店内は絶叫につつまれた。
私はあっけにとられながら呆然とするしかなかった。

「私が軍医?」

思わず私はつぶやいた。
まさか逆戻りするとは思っていなかったのだ。
私の前の職に。
どうせなら医者の方がよかったのだが。

不本意ながら、どうやら私はまた「軍医」になったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...