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第三章 2

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 どうしてこの幸福な時間を守ろうとしなかったのか? 剛はかつての自分を理解できない。
「……ごめんね」
 美咲から出た言葉は何故かそれだった。
 恨み言や悪口を待っていた剛は虚を突かれ、目を瞬かせる。
「何? どうしたの? 悪い物でも拾い食いした?」
「……あのさ、剛ちゃんの中の私ってそんなキャラなの? 一度とっくり聞かせてよ」
 また目がぎらっと光るが、美咲はすーはーとすーはーと幾度か息を吸い、話題を変える。
「私が弱虫だから剛ちゃんにこんな事をさせちゃった」
 ああ、剛は得心した。
 彼女は剛を巻き込んだことを後悔しているのだ。
 この殺し合いの中に。 
「そんなの」剛はわざとぶっきらぼうに答えた。
「謝るのはむしろこっちだよ。君の苦しみを無視していた……ラブレターを受け取らなかったら、今も見て見ぬふりだったかも知れない」
「うん、だから私が変な手紙書かなければ……」
「変じゃない! ……俺は嬉しかった。美咲が俺のことを好きだと書いてくれたこと。このラブレターは一生の宝物だ」
「本当?」
「ああ、君の黒歴史と共に大事に後世に伝えるよ」
「それは忘れなさいっ!」
 美咲は噛みつくように顔を近づけた。
 ふふ、とどちらからか笑みが漏れ、ややあって二人で笑い出した。
「ずっとこういう時間にいたいね」
 剛は美咲の輝く瞳に首肯する。
「ああ……だから、その為に……」
 がらり、と丁度その時教室の扉が開いた。
「あら」堂島有紗は可愛らしく小首を傾げた。
 もう時刻は七時近い、外には夕日の残滓も残っていない時刻だ。
 彼女はみんな帰っている物だと思っていたのだろう。
「どうしたの? 史垣君」
 剛は有紗の笑みに騙されない。
 彼女はこうして人を操る。
「うん、ちょっと君と話したくてね」
 そう答えたのは彼女との距離がまだ遠かったからだ。
 最後の道具は必殺の距離まで近寄らないと使えない。
 が、不意に彼女は踵を返して走り出した。
「誰かー!」
 人のいない廊下で、有紗が叫ぶ。
「いけない! ばれた!」
 剛は素早く鞄から大降りの金槌を取り出すと、有紗を追った。
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