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第十六章

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 東中学校に前日に続いて救急車が到着した。
 谷村美砂江は頭を強く打ったらしく、一刻も早い精密な検査が必要なのだそうだ。 
「谷村さんさ、友達と普通に階段下りてたんだけど、途中から落ちてきた、すっごい勢いだったよ」
 興奮気味の目撃者が自慢のように語ると、一番テンパったのは倉本だった。
「やべえ! 呪いだ、完全に呪われている、やべえ、次は俺か小塚かお前だ、どうしよう……やべー」
 少し前の結論を吹っ飛ばしてしまったが、指摘するような状況ではない。
 倉本はびくびくおどおどと辺りを見回しながら、ぶつぶつ文句を呟く。
「だから俺は嫌だったんだ、だからやめようって言ったのに、お前らがやるって聞かないもんだから」
 少し呆れた。
 今更倉本が他人のせいにしているのだ。
 あの時、乗り気だったのは富沢と倉本だったというのに。
 くすくす、誰かに笑われる。
 真柴さんだ。
 鬼の首でも取ったかのようなドヤ顔で、僕らを見おろしていた。
「ほーら呪い、次は谷村だったね、じゃう今度は……小塚? 御崎? 倉本? フェイントでまた富沢とか」
 完全にバカにされているのだが、倉本は節操なく真柴さんにすがりつく。
「なあ、呪いを解く方法ってないの? 『杏様』に謝るとか」
「知らないわよ! 近づくな、キモい」
 真柴さんにきつくはねつけられた倉本は、頭を抱えて蹲った。
「どうしよう……俺、呪われている」
 僕も他人事ではない。倉本ほど取り乱してはいないが、胸の底はすっと凍るようだった。
「あのぅ、何の話しですか?」
 そんな僕らに場違いなゆったりとした声が掛かる。
 宮薙したうが小動物のように可愛らしく、小首を捻っていた。
 真柴さんは偉そうに腕を組むと楽しそうに口を開く。
「谷村が『杏様』にやられたのよ」   
 宮薙さんは大きな目をぱちくりさせた。
「違いますよ」
 宮薙さんの口調には淀みも迷いもない。
「あの方、そんなことしませんよ」
 今度はその発言を皆でスルーしようとしたので、気の毒に思った僕が質問した。
「どうしてわかるの? その……『杏様』のこと」 
「ええ」
 宮薙さんは表情を改め、大事な秘密でも打ち明けるようにひっそりと答えた。
「実は私……見えるんです」
 僕は一瞬、昔の使い捨てカメラを思い出した。
 見えるんです……写るんです。
「私には幽霊がはっきり見えるんです、お話も出来ます……でも実は……とっても怖いです」
「はあ」
 毒気を抜かれた感じで、僕は宮薙さんの全開にしている広い額を眺めた。
「ちょっと!」
 誰かが割り込んでくる。
 今まで成り行きを静観していた相模さんだ。
「したう、適当なこと言わないの、来なさい!」
 小鳥のように華奢な宮薙さんの腕が掴まれ、相模さんにより引っ張られていく。
 時が止まったような沈黙の中、誰もが連れ去られる宮薙さんを目で追った。 
 ややあって、宮薙さんを強制的に席に座らせた相模さんが戻ってくる。
「気にしないで、あの子時々ヘンなこと言うの、私たち幼馴染みだから判るんだけど、あの子多分みんなに注目して欲しいだけなんだと思う」
「そう言う子いるよね、あーウザい」
 真柴さんは嗤う。
「嘘ついてみんなの気を引こうとする奴」
 僕ははっとしてしまった。
 忘れたい過去の光景が蘇る。
 彼女を失ったあの日。 
 それは、いつのことだったろうか。

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