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本当の敵たち
しおりを挟むエルドリア王国の首都エリデンは巨大な城塞都市だ。
いかなる魔法の一撃にも耐えうるドワーフの手による魔鉱石の厚い城壁に囲まれ、大陸屈指の規模と繁栄を誇る大都会である。
エリデンの中央部に広大なる敷地と共に、サン・ジュール宮殿はある。
大理石と金銀を惜しみなく使われた燦然と輝く巨大な神殿のような建物。王の一族が住まうに相応しい屋敷だった。
そのサン・ジュール宮殿の三階、身分卑しき者が立ち入れない階層の、とある部屋に女はいた。
王妃エリザベト。
燃えるような赤い髪と細く高い鼻を持つ美女だ。
彼女は窓辺に立ち毎日手入れをされている緑豊かな庭を眺めていた。
「バロードとか申す者が何だというのだ。王妃よ」
エリザベトの眉間に雷のような皺が走る……が、一瞬だ、一瞬で彼女はそれを消し、満面の笑みを作る。
「私は錬金術師などと言うどこの者とも分からぬ者など知らぬ」
「そうですわね、お耳汚しでした陛下」
エリザベトは笑みのまま深々と頭を下げ、夫でありこのエルドリアの王・デキウス二世の近く、ビロードの張られた長椅子に典雅を装って座る。
「話しはそれだけか?」
デキウス二世は王のための宝石により飾り付けられた椅子の上で大きくため息を吐き、立ち上がる。
「私は少し休む……王子達に騒がしくさせないようにな」
「陛下……」
思わず王の背中に呼びかけたエリザベトだが、彼は振り返ることもなく部屋を出て行った。
邪険にされた。
エリザベトはきりきりと奥歯を噛みしめる。
彼女は錬金術師バロードの死についての不審、リョウヘイとやらに着いていた女達の証言が気に食わなかった。
だから再調査を王に確約して欲しかった。
だが……。
「王は変わられた」
エリザベトは呟き、はっとして手袋に包まれた手で口を押さえた。
何故そうなったのか彼女が一番よく知っているからだ。
デキウス二世は今年三七歳だ。
だが顔中の皺に白髪の交じった髪、こけた頬と歳よりいくつも老いているように見える。
……あの女!
エリザベトは怒りに震えた。
脳内に浮かぶのは、輝くような金色の髪の美しい少女だ。
もう何年も前に終わった筈だった。
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