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別離のための再会
しおりを挟む「バロードよ」橙夜の下から見たジュリエッタが断言し、扉を大きく開く。
男は背中を向けていたからか、熱中しているのか、背後の変化に気付かなかった。
その間に橙夜は部屋を見回す。
趣味が悪い場所だった。
水銀だろう物も含めて、妙な色の液体が入っているガラス瓶が並び、人骨が幾つもロープで吊されている。燭台はあるが中央のテーブルの上だけで、部屋の端々は暗く、何を隠しているのか片側には布で仕切が作られていた。
橙夜は素早く計算する。
どうやらバロードは見つかった。なら今日は彼だけを始末すればいい。亮平は後日にするべきだ。
が、それはすぐに砕かれた。
「バロードさんよぉ、ネズミが入り込んだぜ」
橙夜がぎょっとすると、部屋の半分を隠していた布から武装した亮平達が現れた。
「な、何だお前達は?」
竈の上の閉じられた鍋に気を取られていた男が振り向く。年老いた痩せた人物だった。
「久しぶりね、バロード……この嘘つきペテン師っ」ジュリエッタが吐き捨てた。
「お前は……ええと……」バロードの革のマスクの口元がもごもご動く。
「……そうね、あんたにとっては大多数のカモの一人でしょうから覚えていないのも無理ないわね」
「リョウヘイ!」
「分かっている」川中亮平と女戦士ルセフ、司祭の少女アーレント、そしてこの状況なのに微笑を絶やさないダークエルフのアグライアーがバロードを遮るようにして橙夜一行と対峙した。
「亮平……」橙夜は喜んでもよかった。目標が一カ所に集まってくれたのだ。
しかし彼はむしろ悲しんだ。
ここで幼馴染みを殺さないとならないからだ。
「澄香、ようやく来てくれたのか?」
へら、と亮平は笑う。
「どうして、リリルの村の人達にあんな酷いことをしたんだ? どうしてテオを殺したんだ?」
橙夜は構わず問う。これが最後の疑問だった。
「ああん」亮平は何でもないように肩をすくめた。
「だって、これはゲームだろ?」
「は?」聞き返す。意味が分からない。
「いや、橙夜よ、ここはゲームの世界だろ? だから誰を殺してもいいじゃんかよ……お前だってRPGでスライム殺すだろ? どこがおかしいんだ?」
橙夜はゆっくりと愕然とした。亮平はこの世界がゲームだと思っているようだ。
「……亮平、ここは異世界だぞ、ゲームじゃなくて……」
「何言ってんだよ、どう見てもゲーム世界じゃん。騎士に剣に魔法にエルフ……そんなのゲームだけじゃん」
……冗談を言っているのか?
橙夜は訝しんだが、亮平の見開かれた濁った目には彼等を嘲弄する色はなかった。
……そうか……。
橙夜はここで亮平を理解した。彼は異世界転移に着いていけなかった。この酷い世界を受け入れられなかった。だから全てゲームの中だと思いこむことで、自我を保った。
考えてみれば橙夜には澄香もジュリエッタもアイオーンも、ポロット、リノット、そしてタロがいてくれた。だから過酷過ぎる世界で何とかやれた。
だが亮平には……。
「亮平」知らず橙夜の目頭が熱くなる。
「ここはゲームの世界じゃないし、お前はとんでもない事をしたんだぞ」
「うるせぇ!」彼は突如激昂する。
「ここはゲームだ! 俺のゲームだ。俺が英雄になるシナリオなんだ! 俺はどんどん出世していく、いい女を手に入れる。今だって俺はこの地の領主に認められ、正式な騎士になりこいつの最後の護衛になったくらいだ! この街で俺の名前を知らない奴はいない、女だって食い放題だ。橙夜、お前程度のモブキャラが俺を哀れむな!」
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