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決意

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 橙夜は唖然と、もう一つの地母神の象徴に視線を向けた。

 エヴリンの肩が震える。

「私は、母を治してくれる、て言われたから、あの男に……」

「エヴリン……」泣き出したエヴリンの肩を澄香が抱いた。

「何をしたポロ? バロードは」
「……瀉血です」ポロットの質問に、エヴリンは身震いした。

「母の血を桶二つ分抜きました」

「何て事をするポロ!」ポロットが叫んだ。

「そんなに血を抜いたら健康な人も死ぬポロ! そもそもあの人はただの不眠症だったポロ」

「テオは……彼は私が……なのに母が死んだことを怒り、リョウヘイに斬りかかったんです……そしてっ」

 エヴリンは顔を覆った。

「それだけじゃねえ」彼女の後を継いだのは、いつの間にか近くに立っている村長だった。

「この村で他の病人を診て、バロードは治療代が足りないと言いだしやがった、それで村のめぼしい物を奪い取ったのさ、勿論、村人は拒否して戦った……だがリョウヘイって奴にみんな殺されちまった、年頃の娘達も浚われた……神はやはりわし等を見捨てているんだなぁ」

 橙夜は振り返る。略奪と殺戮を受け、傷だらけの村があった。

「このエヴリンもこれから娼舘に売られる、医療費を体で払えってよ」

「そんな馬鹿な!」激しく反応したのはジュリエッタだ。

「だってこの子はもう体を売ったのよ? なのに……」

 村長の目が涙に光る。

「あれはリョウヘイがバロードに紹介する紹介料だと、医療費は別なんだと……医療を受けた奴らもほとんど死んじまった……アレは本当に病気を治す物なのか?」

「違うポロ」もうポロットにも元気が無く、呟くだけだ。

 ……亮平。

 橙夜は目眩に襲われた。彼との今までの友誼が鮮明に脳裏を駆け抜けて行く。

「すみません」橙夜は涙を流してエヴリンに謝った。
「すみませんでした」

「ど、うして?」彼女は首を傾げる。

 橙夜が謝るのは、後悔するのはテオだ。彼に余計な事をした。

 剣を教えてと、ジュリエッタに頼んでしまった。それが無ければ、テオは亮平に立ち向かわなかったはずだ。

「僕がテオを殺したんです。彼に戦う術を与えてしまった、すみません! 僕のせいだ」

「……テオはもし教えて貰わなくてもリョウヘイと戦ってました。あの人は正義感が強かったから……私は………………そこが好きで……」 

 最後までエヴリンは続けられなかった。顔を伏せて嗚咽する。 

 この時、まさにこの時、足利橙夜は決心した。

 ……もう、元の世界には帰らない。

 瞼の裏に家族の姿がちらつく。父、母、妹。

 もっと話しておけばよかった。もっと優しくしておけばよかった。もっと遊んでやれば……ごめんねみんな……さよなら……許してくれ、父さん母さん。

 彼は澄香の肩にそっと手を置く。

「澄香さん、もし赤い髪のエルフが見つかったら君だけ日本に帰ってくれ」

「え?」彼女は不可解そうに見上げる。

「僕は帰らない……帰れない」

「どうして?」

「……僕はこの世界で亮平を殺す」
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