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神の意志
しおりを挟む「何があったの?」
ジュリエッタも先頭のエヴリンを慮って声を潜める。
「それが……」テオはしばらく震えた。怒りにだろう。
「バロードの奴はそもそも医療に貧乏人からも多額の金を要求する。だけど今回はそれだけじゃないんだ」
テオはあまりに激しい感情故にか、口調は逆に平坦になっていた。
「……エヴリンを、あいつ等はエヴリンを抱かせろって言い出したんだ!」
「え!」黙って耳を傾けていた澄香が息を飲む。
「バロードじゃなく、その使いの連中だけど、エヴリンが気に入ったらしく、金がないなら彼女を一晩自由にさせろって、そうすればバロードを紹介するって言い出した」
「…………」あまりのことに橙夜は言葉を失う。
テオの表情が歪む。
「俺とエヴリンは将来を誓い合った仲だ。でも彼女は母親の病気を治したい」
「そうか……」橙夜は喉の詰まる感覚と共に納得した。
エヴリンがどうして御料林で一人食べ物を探していたか、テオがどうして憎悪で慣れない剣を持ち出したか、全てが繋がる。
「バロードってそんな奴なのか……」
橙夜は呟いていた。
「酷いね、それは酷すぎるよ」澄香を眉間に深い皺を刻んでいる。
「元々、この世界に来て私が最初に思ったことだけど、この世界は弱者を蔑ろにしすぎるよ」
物静かな澄香だが、その分腹にため込んだ憤りは大きいのだろう。
「人の弱みにつけ込んでお金や、その人の大切な物を要求する。卑怯すぎるよ」
澄香は感情のまま、続けた。
「そりゃあ、神様に見捨てられる訳だわ」
「言い過ぎよ、スミカ」ジュリエッタが咎めた。
「あなた方異世界から来た人達には異常に見えるけど、このアースノアは大概そんな感じなの。でも殆どの人は真面目で優しい人達だからそんな事は言わないであげて」
澄香の頬が真っ赤になる。
「ごめんなさい、言い過ぎました」
「ううん」とジュリエッタは白い歯を見せた。
「あなたの怒りはもっとも、だからバロード一味は何とかしないとね」
会話している内に、建物群が見えてくる。
リリルの村だ。
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