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いつか去る陽光

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 太陽は何事もないように輝く。いつも通り早く起きた彼は、古乃美の部屋の前に立っていた。
 軽くノック、デジャヴュだ。否、先日もした。
 既視感はそこまでだった。
「はーい」と古乃美が返事をしたのだ。
 思わず優はがばっと、扉を思い切り開いていた。
「あう?」
 鏡台の椅子で髪を編んでいる古乃美と鏡の中で目が合う、しばらく彼女はそのままの姿で停止した。
「きゃあー!」
 優は大きく仰け反った、古乃美が手近にあったブラシを顔面に投げてきたのだ。
「ななななななな、なんれっ、優君?」
 薄いパジャマに隠れた豊かな胸部を隠すように、彼女はベッドの中に飛び込む。
「なんで普通にドア開けるの? 返事したよね? その後『入って良い?』じゃないの?」
「は、入って良い?」
「もう入っているでしょっ!」
「い、いや、あまりにも非現実な、超常現象的事態が起こったから……」
 じろっと、彼女の瞳が優へと動いた。
「……今日は寝坊していない……と?」
「うん、そうだよ! あの朝が全くダメな古乃美ちゃんが、あの片づけるというスキルが皆無の古乃美ちゃんが、あの卵焼きも満足に作れない古乃美ちゃんが、あのテストも散々の古乃美ちゃんが……びっくりだよ!」
「うーん、優君、何から言うべきか判らないけど……後で体育館の裏ね」
 はっきりと腹パン危機を感じた優は、研がれた彼女の瞳に無理に笑いかける。
「そんなことより、ど、どうしたの今日? 世界の終わり? 明日はないの?」
「むう」古乃美は唇を尖らせて指をさす。
 古乃美が向かっていた鏡台に、スマートフォンがあった。
「朝早くに電話があったんです……その、事件のことで……ええっと、色々なことがわかりました……終わりです」
「……あのねえ古乃美ちゃん、僕は古乃美ちゃんが思っているような人間じゃないよ、だから多少残酷な話しでも良いんだよ」
「う、うん……その、橋爪先輩の遺体が見つかったんですって……熊谷さんのアパートから」
「やっぱり、橋爪先輩は死んでいたんだね……三浦先輩の喧嘩で」
「うん……故意ではなかったけど警察は事情聴取を始めたわ。悲しいけどきっと学校も退学でしょう……悲しい、最悪の結末。でも一つだけ良かった、優君が会わなくて、あの男、あいつに」
「……あの男? あいつ?」
「うん、火廻り事件で現れたもう一人の怪人・髑髏喰…………あんな人殺しに優君を遭わせたくないよ、これからもずっと」
 冷たく強ばる古乃美の顔に、優はスマホを重ねる。
「……ちなみに、ただ今七時一二分になります、そのまま毛布の中にいても良いんでしょうか?」
「あ!」古乃美がベッドの上で跳び上がった。
「ひどい! それをそんなに楽しそうに……うう、優君なんて、優君なんてっ、こんなに心配しているのにっ、心配なのにっ……もう着替えるから部屋から出て行って! このばかっっっ」
 三田村古乃美の部屋から追い出された優は、温もりを全身に感じつつ廊下を歩いた。
 朝の太陽は三田村家を優しく照らしてくれる。
「だけど……」優には判っていた。いつまでも毛布の中には居られない事を、いつか彼女なら髑髏喰の正体にたどり着く。そうなれば、闇の中にしか行く場所はなくなる。
 葛城優は歩み続ける……兄を殺した怪人へと続く道を。 

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