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第十四章

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「どうして? どうしてここまでして三浦先輩と須藤先輩を狙うんですか?」
「それは……」古乃美の問いに熊谷は胸を大きく突き出した。
「あいつらが橋爪くんの未来を奪ったのだ! 美しい橋爪くんの未来を! くだらない恋愛ゴッコで台無しにした」
「そうですか」古乃美は悲しそうに頷いた。
「橋爪先輩は死んだんですね? 殺したのは……三浦先輩です」
「な……」優は言葉にならない。ただ思い出す……ノックアウト、喧嘩。
「そうだ! 三浦は須藤とやらのために橋爪くんを殺した、殴り殺した、オレはその時誓ったのだ、復讐を!」
 恐らくいつかの早川や優達と同じように、彼等の諍いを熊谷は聞いていた。橋爪が殺されるのを目の当たりにしてしまった。
 それは過失なのだろう。三浦に殺意はなかったのだろう。
 だが……橋爪は死んだ。殺された。三浦に……殺された。
「オレは……オレは、橋爪くんを遠くから見ているだけで良かった、橋爪くんの輝く未来を、ずっと遠くから応援しようと決めていたんだ! それでけでオレは幸せだ、彼の存在だけで生きていけた……生きていこうと思った」
 思えば熊谷が同性愛の気があることを、優も感じていた。橋爪を深く愛していたとは知らなかったが。
「殺す、三浦と須藤を殺す! 勝手に橋爪くんの前に現れ、勝手な理屈で殺したあいつらを」
 ぼうっ、と熊谷の呼気に炎が混じった。
「……つまり、三浦はまだ病院なんだな?」
 熊谷はにやりと唇をつり上げ、古乃美が両手で口を抑える。
「いけない!」
 しかしその手首を掴んだ優は、彼女を強引に引き三年一組から飛び出した。
「優君、ダメよ! 三浦先輩が危ないの!」
「古乃美ちゃん、それは警察の仕事だ!」
 暗い廊下を走る間、古乃美は優の手を振りほどこうと苦心していたが、彼は離すつもりはない。
 背後では怒鳴り声と悲鳴が切れ切れに交差している。古乃美を巻き込むわけにはいかない。
 一気に三階から一階まで駆け降りた優は、自分たちのクラスである一年二組の扉を開け、古乃美を押し込む。とっくに真っ暗闇だが、そこは我慢してもらうしかない。
「ここで待ってて! 助けを呼んでくる、出ちゃダメだよ!」
「優君は?」
 古乃美の心配そうな瞳に、優は片目をつぶる。
「大丈夫! 僕は古乃美ちゃんより運動神経良いんだからっ」 
「あ……でも、なら私……」
 古乃美はまだ何か言いたそうだが、ぴしゃりと扉を閉じた。
 ここからは彼女の出番ではない。
 この先は彼女のような光はいられない。ここからの世界は死体のように蒼く、ぷかぷかと夜の闇に浮かんでいる。
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