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玖ノ章

李義府、事態の変化を静観す(貞観二十一(六四七)年、二月)

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「どうぞごゆっくり」
 李義府と両筆だけを酒席に残し、風柳と美眉は房をあとにしようとしている。その背中越しに、
「悪いね、後でまた声をかけるから」
 そう調子よく声をかけて、両筆は二人を送り出した。
 李義府に連れられ、百華苑に上がるのはまだ三度目だが、両筆は妓女たちとすっかり打ち解けている。このあたりの人誑しのうまさは、仕事で培った技量なのか持って生まれた性分なのかはなんとも評しようのないところだが、李義府は彼のそんなところが昔から気に入っている。どのような相手とでも好ましい関係が築けるのは、人としての根本がしっかりしている証拠だ。
 しかし、そんな李義府の思いを裏切るかのように、二人の足音が完全に聞こえなくなった途端、振り向いた両筆の表情は一転して厳しかった。
「あの男、殺されたよ」
 いきなりそう小声で呟く。
「えっ?……殺されたって、誰が?」
 意表を突かれ、慌てて問い返す李義府に対して、
「もちろん、例の新羅からの留学生だよ」
 そのまま両筆は、両の掌で己の顔を拭う。どうやらずっと口にする機会を測っていたようだ。
 その瞬間、李義府の背骨にすっと冷たい筋が通った。それまでの酔いなど、一瞬にしてどこかへ消え去ってしまう。
「なるほど、ありそうなことだ」
 そんな台詞が思わず口を突いて出る。
「おや、あまり驚かないんだな、李大人?」
 両筆が意外そうな顔で見つめてくる。完全に当てが外れたようだ。
「いや、決してそんなわけじゃないんだが、……」
 必ず何事かあの男の身には起こるだろうと思ってはいたから、とも李義府は付け加える。その根拠をまず教えてもらいたい両筆だったが、とりあえず話を聞かせろと、李義府は先を急がせて譲らない。仕方なく両筆は、まず自分の手札から開いて見せることにした。
「死骸が見つかったのは西の市場だ」
 そう両筆が切り出すと、「ほう」と一言、李義府は小さな声を漏らす。さすがにこれは、思いのほかだったようだ。
 長安には、二つの大きな市場が存在する。その位置関係から「東市」と「西市」と呼ばれるが、「東市」が皇族や官僚などの宮城の者たちの専用市場であったのに対し、「西市」は長安市民の台所的役割を果たすとともに、西域からの交易品などの売買も盛んで、国際的な交易市場でもあった。
 当然、漢族の商人ばかりではなく、胡人や周辺国の商人らも多く、およそ一町(一平方キロメートル)の広さに二二〇の業種、数千件の店舗が建ち並ぶ巨大市場である。その繁忙ぶりは凄まじく、日々取り交わされるのは商品だけとは限らず、各種の情報が受発信される場ともなっている。
「そんな西市の、西域の商人が営む薬舗の倉庫のなかで、殺害されているのがみつかったんだ」
 と、両筆は続ける。
 発見されたのは四日前の早朝。倉庫の錠前が壊されているのを見つけ、盗賊でも入ったかと、店の者が慌てて倉庫の中を確認したところ、盗まれた物はなにもなかった代わりに、見覚えのない筵で包まれた荷が置かれていたため、不審に思って解いてみると、なかから裸の男の死骸が転がり出てきたのだという。
「それだけでも相当に吃驚しただろうが、その死骸には顔が滅茶苦茶に潰されているというおまけまでついていた」
 おかげでその後の店の者に対する聞き取りには、相当に難渋したらしいのだが、もし、そうでなかったとしても、結局は同じことだったかもしれない。ともかく、手がかりになりそうなことは、まったく出てこなかった。
 この店では、そう頻繁に倉庫の中の荷物を出し入れすることはないらしく、なかの荷を確認したのは六日前が最後だったそうで、それ以降、倉庫には出入りしていなかったと云う。当然、店の者にはその死骸がいつ運び込まれたものなのかまったく見当もつかず、ただ首を捻るばかりだったようだ。
 屍体が見つかったことで市場は一時騒然とし、所管する役所、太府寺(※一)にまず一報が入ったが、太府寺では検屍のできる役人などいない。そこで、お鉢は京兆府へと回され、急遽駆けつけた担当の役人が所定の手続きを済ませた後、屍体を役所に運び込んでいる。検屍にあたった医官の所見では、死亡したのは発見された時点から見て一昨日の夜半頃、致命傷は心の臓にまで達していた傷で、その形状からみて、おそらく鏃によるものだろうということだった。
「弓矢が凶器とは、また珍しいな」
 李義府は呆れたように云う。国境の最前線ならともかく、この天子のお膝元で弓や弩を携えている者など、宮城を守備する兵士ぐらいのものだろう。
「だが、どうも普通の弓矢ではないらしい」
 傷口の痕から推測すると、かなり小振りななものだそうだと、両筆が補足する。
(すると、なにか手製の特殊な武器でも使われたのだろうか?)
 李義府の考えは進展する。しかし、いずれにせよ物騒な話だ。
「屍体からは矢が抜き取られ、そのうえ、顔がまったく判別できないほど潰されていた。これでは何も手掛かりになるものがないと、京兆府が頭を抱えたのも無理はない」
 両筆の口調は、なんとなく嬉しそうでもあり、また、同情しているようでもある。そこに御史台と京兆府との微妙な関係性がうかがわれて、李義府にはなんとも興味深かった。
「さらに、この事件の最大の謎は、別の場所で殺害しておきながら、わざわざ人目につく危険を冒してまで、なぜ屍体を市場に運び込む必要があったのかということさ」
 そう続けると、両筆は自分の盃に手酌してから、そっと肩を竦めてみせた。
「つまり、どうぞ屍体を発見して騒ぎにしてくださいと、相手の方から申し出てきているわけだ」
 両筆の話を、そのまま李義府が引き取る。
「普通に考えれば、もし、人を殺したなら、殺したこと自体発覚しないように、屍体はどこか人目につかない山に埋めるか、沼の底にでも沈めるところだが、……」
 そんな怖ろしいことを云い出すが、それはまあ当然の理屈だと、両筆は思った。
「だとすると、下手人は、人殺しがばれてしまっても構わない。そう考えていた、ということなんだろうな」
 両筆は素直に返すが、李義府はそれを即座に否定する。
「いや、それだけでは足りない。屍体が見つかっても構わないというだけの理由なら、その辺の道端に放り出しておくだけで良かったはずだ」
 それをわざわざ市場に運び込むなんて、まるで屍体の宣伝をしてくれと云っているようなものだと、李義府が疑問を呈す。むしろ敵は、留学生の死を大々的に噂として広め、何事かを訴えたかったのではないか。しかし、
「それは矛盾してないか⁉」
 今度は両筆が思いついた疑問をぶつけてくる。
「屍体は身包み剥がされたうえに、顔が執拗に潰されていて、どのようなご面相だったかも判らなくなっていた。まずは身元がはっきりしなければ、噂を広めるもなにもあったもんじゃないだろう?」
 たしかにそうなんだがと、李義府は受けるが、それに回答することなく、別の質問を両筆に聞いてくる。
「なあ、屍体の身元を探る手掛りはなにもなかったはずなのに、割と早々に新羅からの留学生であることは判明したわけだ。どうしてそうなった?」
「それはだな、……」
 事件の探索が急転した経緯を、両筆は掻い摘んで説明し始める。
 事態が大きく動いたのは、検屍にあたった医官が御史台でも仕事を頼んでいる人間で、この者が気を利かせ、御史台にも情報を共有してくれたお蔭なのだそうだ。この情報提供によって、劉侍御史の耳にも案件がすぐに届き、彼は直ちに御史台の人間を京兆府に走らせたのである。
「京兆府の奴ら、嫌がっただろう」
「ああ、見事なくらい露骨だったらしい」
 いつもの事だがねと、両筆が皮肉たっぷりに付け足した。
 京師内で起こった一般的な事件を捜査する権限を有しているのは京兆府だが、そこに役人が関わっていたり、行政絡みの案件だったりすると、御史台にも捜査する権限が生じてくる。そのため互いに縄張り意識が生まれ、ぶつかることも往々にしてあるのだ。
「だが、そこは侍御史がうまく話を通してくれた」
 京兆府にいる懇意の者を通じて事件の担当者に、「行方がわからない新羅からの留学生を探していること」、そして、「見つかった屍体がその留学生である可能性が高いこと」を、少し誇張を加えて知らせてやったのである。
「すると、途端に京兆府の奴ら蒼くなって、こっちに協力的になってくれたよ」
 それはそうだろう。外国からの留学生が殺されたとなると、これは外交問題にまで発展しかねない重大事案だ。下手な動き方をすれば、官を免じられる程度で済むような話ではない。
「そこで、ようやくこちらでも屍体を検分することができたわけなんだが、……」
 屍体の身長・体格などは、ほぼ留学生と合致していた。だが、それだけでは確実な決め手にはならない。すると、留学生の見張り役にあたっていた者の一人が、彼の左肘に赤い痣があったことを思い出し、それが身元を明らかにする証左になったのだという。
「それが決め手となって、殺されたのが例の新羅からの留学生、毗潤だと判ったわけさ。太学に登録されていた記録によると、新羅の朝廷の高官の一族ということになっていた」
 両筆の話を聞き終えるやいなや、うーんと一声唸ると、
「顔は念入りに潰されていたのに、有力な手掛かりになりそうな痣はそのまま、か……」
 李義府は顔を上に向け、天井を睨んでいる。そして、そのまま身じろぎ一つしなかったが、すぐに両筆に視線を戻すと、
「なら、やはり決まりだな」
 と、唐突にそう云った。しかし、そう云われても、両筆にはなにが決まりなのかが判らない。その中身の解説を求めると、李義府は苦虫を噛み潰したような表情で、吐き捨てるようにして語ってくれた。
「顔を潰すという手間をかけ、本気で身元の確認をできなくしようと思うのなら、徹底してやるはずだ。身ぐるみ剥いで裸にしているんだぞ、身元を確認する手がかりになりそうな肘の痣を見逃すなんて、そんな都合のいい話があるもんか」
「ああ、なるほど」
 今度こそ両筆は得心する。
「やはり毗潤を殺した側の人間には、彼の死を広く知らしめたい、そんな特別な理由があったということさ」
 そして、特に報せたかった相手とは、毗潤の同国人、新羅の関係者だったにちがいない。だからこそ、毗潤の屍が発見されるのは、
「自国の商人も多く集まる西市であることが、一番効果的だったんだ」
 李義府の推理は続く。
「さっき俺が、毗潤には遅かれ早かれ、何事かが起こるだろうと思っていた、と云ったことを覚えているか?」
 そう李義府に問われて両筆は、
「ああ、もちろん。まず、その理由の方から尋ねたかったくらいなんだから」
 と、返す。やっと李義府も、自分の手札を明らかにしてくれる気になったようだ。
「実は先月、新羅国内で女王に対する反乱が起こった」
 李義府の話は、そんなところから始まった。最近は『晋書』の編纂業務に追われ、本務の方がおろそかになっているとはいえ、さすがに重要官庁の五品官様だ。自分とは触れることができる情報の質と量が格段に異なる。両筆はまず、そこに感心させられる。
「女王みずから上大等(※二)に任命し、重用していた毗曇という中央の貴族が、女王の廃位を求めて挙兵したのさ」
 この毗曇こそ、殺害された留学生、毗潤の叔父にあたる人物のはずだと、李義府の補足が加えられる。
「どうやら毗曇は、国家としての自立より、自分たちの権益が守られることの方が大事で、そのためには『唐』に頭を下げても仕方ないと考える、いわゆる親『唐』派の代表だったようだ」
 こうした傾向は、新羅の朝廷で権勢を握っている中央の貴族ほど強かったようで、彼らの思惑としては、反乱に成功した暁には『唐』の皇族から新たな王を迎え、その直接的な助力を得ることによって、高句麗・百済の連合軍に対峙する、そんな絵を思い描いていたにちがいない。
「しかし、新羅国内には、『唐』の属国に成り下がることをよしとしない、そんな勢力も存在している」
 それは地方に根を張る豪族層に多かったようで、その有力な一員である金庾信という人物が女王の支援に回ったことで、事態は複雑化する。
「ところが、そのさなか、先月八日に女王が陣中で崩御されてしまった」
 「善徳」と諡されて狼山(※三)に葬られることとなり、本来なら、ここで毗曇の側の勝利が決まっていたはずだった。しかし、金庾信の一派は直ちに新たな女王を立て、反乱軍への抵抗を継続する姿勢をみせた。
「その結果、驚くなかれ、最終的に勝利したのは、新女王の側だったというわけさ」
 それだけ、新羅国内の一般的な民意は、国の自立を望んでいたということだろう。その後押しを受けて反乱の鎮圧に成功した新女王側は、毗曇ら中央貴族二十余名を誅殺し、再び都に戻って即位する。結局、派手な花火で始まった反乱は、一月もかかることなく終息したのである。
「この反乱に、こちらの朝廷がどこまで肩入れしていたのかまでは判らない。しかし、反乱が失敗に終わったいま、今後、新羅に対して『唐』がどういう動きをみせるかを判断するのに、親『唐』派・反『唐』派双方にとって、長安にあって、親『唐』派の代表として動いていた毗潤がどのような扱いを受けるかが、大きな試金石になっていたはずだ」
 もし、毗潤をそのまま匿い続けるようであれば、引き続き新羅国内に親『唐』派の政権樹立を目指すという意思表示となるが、その逆に、新たな女王の体制側と関係改善を模索する方針に転換するのであれば、毗潤は単なる邪魔者でしかなくなる。
「だから、いずれにせよ、毗潤の身には必ず何かが起きると、俺は踏んでいたわけさ」
(なるほど、そういうことか‼)
 ようやく李義府が先に漏らしていた言葉の裏の意味を知り、両筆は喉の奥に刺さっていた魚の小骨が取れたような感じがして、すっきりした気分になる。
「毗潤殺しが何者の仕業なのか、いまの時点では軽々に判断できない。新羅の新体制の手が伸びてきた可能性も捨てきれないからな。しかし、新羅国内の新体制が単に反逆者の一味を始末しただけなら、その死を大々的に知らしめる必要がない。その理由がある者といえば、やはり……」
「親『唐』派とは完全に縁を切りましたと、そう新羅の新体制に表明してみせたい、こちら側の人間ってわけか⁉」
 少し興奮気味に、両筆はおもわず叫んでしまう。
「まあ、結局、今の段階では推測でしかないんだが、……」
 自制気味に李義府はそう呟くものの、その推測には相当自信がありそうだと、両筆は感じた。
 すると、李義府は手酌で自分の盃に酒を満たし、両筆にも勧める。
「そして、そうであるなら、おそらく新羅の新女王の側とも、ある程度話はついているんだろう。もし、この読みが当たっているのなら、新羅に対して陛下は、近々なんらかの行動を起こされるんじゃないか」
 李義府はそう予言してみせる。
 実際、主上が善徳女王に対する追贈と、新女王に対して「柱国・楽浪郡王」の冊封を行う旨、詔がなされたのはこの十日後のことである。
「で、侍御史の動きはどうだ?」
 今度は李義府が両筆に水を向けてくる。
「どうって?」
「だからさ、……」
 李義府が身を乗り出してくる。この近さでは、言葉よりも先に唾の方が届きそうだ。
「毗潤殺しの探索は進んでいるのか、って聞いてるのさ」
「ああ、それなら……」
 傍から見ていて、いつになく動きが鈍いなと思っていたんだが、いまのあんたの話を聞いて、ようやく腑に落ちたよ。そう云って、両筆は嗤った。おそらく劉侍御史も、李義府と同じような結論に立ち至ったのだろう。
「だったら、ここは、静観の一手だな」
 そう口にすると、李義府は、それでいいなと、両筆にも念を押す。どうも両筆の瞳の奥に、獲物を狙った猟犬のような光を感じ取ったからだ。
「今回の殺しには、国と国との難しい外交問題が横たわっている。我々が個人的な思いで深入りするには、話が重すぎる」
 今回、侍御史の劉清秀が動こうとしないのも、これが政事の世界のことだと心得ているからだ。両筆の意欲も判らないではないが、役目を踏み越えた危険に巻き込まれるのは、とてものこと賢とは云えまい。
 案の定、両筆は少々不満顔だったが、「まあ、仕方ないな」と、渋々頷いた。
(あとは、劉侍御史に任せるしかない)
 当面は身を縮ませているとしても、あの男がこのまま、この件に対する追及を諦めるとは思えない。主上の意向や軍の思惑など関係なく、国家のために自分なりの考えを押し通すだろう。
(どうもあの生真面目な兄貴とは、かなり人種が異なるようだ)
 仕事上での接点がなく、両筆から聞かされる情報しかないが、まだ顔を合わせたこともない劉清秀という人物に関して、李義府は勝手な人物像を思い描いている。
 もっとも、正直なところを云うと、この一件まで気にかけているような、そんな余裕などないことも、いまの李義府にとっては事実だった。『晋書』の編纂作業全体がどうにもぎくしゃくして進まず、自分の担当すべき箇所の執筆も、ただ史料を並べては唸るばかりで、一向に進んでいない状態が続いている。そんな様子をみかねた鄭賀からは、
「お手伝いしましょうか」
 と、申し出される体たらくである。
(このあたりが、本来の仕事に専念するいい潮時だな)
 李義府は気持ちのなかで、そう区切りをつけることにした。
 それからもうしばらく、まだ不機嫌な両筆を宥めるのに多少の時間を費やしてから、李義府は百華苑を後にすることを決める。帳場まで下りると、そこには再び声がかかるのを待っていた美眉と風柳が、二人で談笑していた。
「あら、もうお帰りですか?」
 少し恨めしげな表情を美眉がみせる。だが、不機嫌そうな両筆の様子を見て取ると、それ以上はなにも口にしない。
(また、今度‼)
 そう二人だけに通じあう視線を送ってくると、軽く頭を下げた。
「ああ、今宵は少し野暮用があるんだ。またすぐに来るよ」
 李義府としても後ろ髪をひかれる思いだが、さすがに今宵はなんとなく気が引ける。それじゃあと踵を返しかけたところに、帳場の奥からちょうど蒙岳が姿を現わした。
「おや、李大人、お早いお帰りで」
 相変わらずの愛想の良さだが、やはり目だけはひとつも笑っていない。ひょっとすると、李義府が姿を現すのを待っていたのだろうか。
(今宵だけは顔を合わせたくなかったな)
 可能性だけなら、この漢にだって毗潤殺しに関しての疑いは十分にある。蒙岳に対して、これまで以上の薄気味悪さを李義府は感じずにはいられなかった。
「あ、ああ。それじゃあまた」
 李義府はいま、自分の背中に幾つもの複雑な視線が絡みついていることを、敏感に感じていた。

【注】
 ※一 「太府寺」
  宮廷の財貨や官庫を管理するほか、貿易や長安・洛陽の市も管掌する役所
 ※二 「上大等」
  宰相に相当する新羅の官位
 ※三 「狼山」
  大韓民国慶尚北道慶州市にある山
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