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共に生きるため
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「とりあえず、ここは危険よ。移動しましょう。」
桜が声をかけた。
「ふむ・・・大聖堂は・・・ちとバタバタしてるからのう。学校を、わし直属の部隊,種子蕾隊〈しゅしつぼみたい〉の本部にしようかの。海起、学校に連絡を。」
「はい」
海起の姿が一瞬にして見えなくなった。
「さてさて、みなのもの、学校に行くでな。」
大精霊様の声に、一行は学校に向けて歩き出したぎ。
何か警告があったのだろうか。いつのまにか誰一人として、外に出ている妖精は居なかった。
学校に到着した。
麻美と有樹が一室で待っていた。何があったかは聞いたようだ。
「さて、こんな事になってしまったから、信頼できるメンバーで解決に導かなければのう。そのための大精霊直属メンバー・・・種子蕾隊じゃ。内密にの。なぜこんなことになったのかくわしく分からないからのう。わしは疑うのは好かんが・・・のう・・・」
大精霊様が全員に言った。
しばらくすると、何人ものメンバーが集まってきた。
その中には、睡蓮や草多の姿もあった。
「夢華のために主な精霊・妖精の自己紹介でもしようかのう。夢華よ、万が一何かあったときはこのメンバーを頼るのじゃ。桜、秋美、春美、夏美、麻美、有樹、海起は知っておるの?そのほかのメンバー、自己紹介じゃ。」
大精霊様が明るく言った。
「あの・・・あと、睡蓮と草多は知ってます。」
夢華が言った。
「ほう、ではそのほかの諸君。お願いするでの。」
大精霊様が部屋を見回した。
端っこに座っていた男性が立ち上がった。髪は濃い緑色をしている。瞳も緑だ。細めの体だがしっかりと立っている。
「栄枝〈えいき〉です。草・木の妖精をまとめている精霊です。陽の者です。よろしく。」
優しい笑顔に,優しそうな声をしている。
次の人は群青色の髪をした男性だ。がっちりとした体型をしている。
「有水〈うすい〉です。川や海、泉など水に関わる妖精をまとめる精霊をしています。陰の者です。」
人前に立つのが苦手なのか、早口で言い終わるとすぐに座った。
すごく落ち着いていて、おっとりとした感じの女性が立ち上がった。髪は綺麗な、睡蓮よりも濃い紫色で肩より少し長めのストレートだ。
「水仙〈すいせん〉と言います。睡蓮達みたいな水辺の花を仕切っています陰の精霊です。よろしくお願いします。」
続いて立ち上がった女性は、髪の毛が黄色い。落ち着いているがその瞳には無邪気な子供を思わせるものがあった。
「蒲公英〈たんぽぽ〉と申します。陸地の花の精霊です。ちなみに陽の精霊です。よろしくね。」
目が大きくて、誰よりもかわいい精霊が立った。オレンジ色の髪をしている。
「食べ物の花・・・って言ったらわかりやすいかな?リンゴの花や大根の花などの妖精を取り仕切っている蜜柑〈みかん〉です。陽の者です。」
そのほか何人かの精霊の自己紹介が終わった。色々ややこしいので、夢華は全員を覚えられなかった。うっすらと顔は覚えて居る気がするのだが・・・。
「これで精霊は全員かの??夢華に関わっていない妖精の自己紹介は今日はやめとくかの。人数が多すぎるでな。それにあまり妖精を危険なことにかり出させるのも気が進まないしのう・・」
大精霊様が言った。
「さてさて、皆に集まってもらったのは知っての通りじゃ。ゲートが封じられ、秋美が襲われた。もしや冬美が居なくなったのも関係しとるのかもしれないのう。最近、陰の妖精の一部が動いているとは聞いていたが・・・証拠はないが、関係性は否定できない。・・・おっと、夢華や。あと一部の妖精達よ。勘違いしないでおくれ。陰も陽も差別してはならん。陰の者には多少感情的な者が多いだけじゃ。動いておる者の中には、陽の妖精の目撃もある。」
大精霊様は一人一人の顔を見ながら続けた。
「精霊の目撃や関与している情報がないのが唯一の救いじゃ・・・まだわからんがの。とにかく我らは団結が必要じゃ。根本的原因を見つけ、解決しなくてはのう。わしは争いが嫌いなんでの」
「大精霊様。」
蒲公英が言った。
「向こうが何が目的なのかはわかって居るのですか?」
「想像はしておる。じゃが、想像だけで動いてはならぬからの・・・情報を待つのじゃ。話すときが来たら伝えるでの。」
「今、人間界に居る妖精達はどうしましょう?むやみにゲートに近づけさせるのは危険かと・・・」
蒲公英が続けた。
「そうじゃのう。自分の持ち場で待機じゃ。自分の下に着いている妖精がどんな状況かはあるていど精霊はわかるじゃろう?・・・妖精は、自分の担当の場所に居ると自然と力が上がる・・・大丈夫じゃろう。今、妖精が危険な目にあっていたり怪我をしている感じが皆するかの??」
有水が目をつむりながら答えた。
「多少ですが・・・川の下流を担当している妖精が弱っている気がします。しかしほかの妖精が居る感じはしないので、このこととは関係ないと思いますが・・・」
「そうか・・・有水よ。その妖精には少し持ち場を離れ、別の場所に行って休むよう伝えるのじゃ。持ち場に長時間妖精が居なかったら川が死んでしまうでの、少しの間じゃ。」
「わかりました。」
有水は目を閉じたまま言った。
「なにしてるの??」
夢華が秋美に小声で聞いた。
「あぁ、精霊は自分が受け持ってる妖精がどんな状況か大まかに感覚でわかるんだ。大怪我したときや、弱ってるときとかな。だから、あたいが怪我したときも桜がすぐキャッチした。逆に、精霊の言葉とかは精霊が強く思って受け持ちの妖精に念を飛ばせば伝わるんだ。その念を飛ばすにはすごい力がいるから、あたいらには難しいんだけどな。」
「へぇ・・・じゃあ、その念で冬美さんを探せないの?」
「桜が試したみたいだけど・・・応答なし。怪我してたりする感覚はないらしいけど・・・故意に連絡をシャットダウンしてるのかもしれない。シャットダウンされたらどうにもならないんだ。人間界に例えると・・・ほら、携帯電話の電源って切ったらどうにもならないだろ?同じさ。」
「ん~~私携帯持ってないよ・・・」
「・・・すまねぇ。まぁ、シャットダウンするのにも念を飛ばすほどじゃないが力がいるんだけどな・・・冬美はそれくらいの力持ってるし、もしかしたら別の奴がしてるのかもしれないし・・・」
そんな話をしている間に有水の目が開いた。
「終わりました。」
有水が言った。
「うむ。さてさてとにかく今日は皆に注意を促せたかったのじゃ。今から何が起こるかわからん。多くの妖精は人間界に残っておる。気を付けるのじゃ。皆で情報を集めようぞ。・・・だが、無理はしないでほしいのう。」
大精霊様は最後の言葉を秋美を見ながら言った。
「ひとまず今日は解散じゃ。仕事は個々に依頼するぞよ。また招集をかけるでの。」
その言葉にみんなガヤガヤと立ち去っていった。
(なんか大変な事になっちゃったな・・・周りの足手まといにはなりたくない。)
夢華は思った。
「さぁ、私たちも帰りましょうか。」
春美が声をかけた。
夢華は立ち上がりながら周りを見た。睡蓮はとっくに帰ったようだ。草多は栄枝と話している。
「大丈夫。なんとかなるよ。」
夏美が秋美、夢華に向けて言った。
四人はうなずきあった。
また朝が来た。
安全を考え、秋美の家に春美・夏美は泊まっていた。麻美と有樹は学校もあるため自分の家だ。
これからどうなるのだろう・・・。そんな不安な気持ちを抱きながら夢華は平然を装っていた。
「私、冬美が最後に目撃された所に行ってみようと思うんだ。」
朝食を食べた後,突然夏美が切り出した。
「・・・私も考えてはいたけど・・・危険よ??」
春美が真剣な目で言った。
「わかってる。けど、精霊様達が必死で情報を集めているのに妖精だけ守られてるなんて私・・・イヤだ。何かしたい。力だって・・・種子蕾隊のメンバーなんだから・・」
「夏美・・・」
「あたいも夏美に賛成だな。あたいらなら・・・冬美が残した痕跡を見つけられるかもしれない。もし連れ去られたなら、あいつは何かを残しているはずだ。」
秋美が言った。
「けど、夢ちゃんを連れて行くのは危険すぎすじゃない?私たちに何かあっても自己責任だけど、夢ちゃんは私たちが巻き込んでしまったんだから・・・。」
春美が心配そうに言った。
夢華は考えていた。
そして、なんとなく考えがまとまったところで口を開いた。
「あたし・・・行く。行きたい。私は自分で望んでこの世界に来たんだから、私だって自己責任よ。この世界に来ることは、自分で決めたんだもの。」
夢華は続けた。
「危険かもしれないし、私は妖精じゃないから何が起こるかわからないし足手まといかもしれない。けど・・・私はみんなの力になりたい。とにかく、自分で決めたの!!自己責任じゃない人なんて居ないわ。」
自分の気持ちを言葉で説明するのは難しかった。だが三人には夢華の言葉にできない気持ちがしっかりと伝わったようだ。
「わかったわ・・・みんなで行きましょう。」
春美が頷きながら言った。
冬美が最後に目撃されたのは、神秘の泉よりもう少し進んだ所だった。妖精の国全体が警戒態勢に入っているせいか人気が全然なく,少し不気味な所だ。細い道で、周りは森になっていた。
「あたいさ、冬美が自分から一人でこの場所に来たとは思えないんだ。だってあいつ恐がりだし・・・」
秋美が周りを見渡しながら言った。
「けど、この道をしばらく抜けたら陰の妖精が多く暮らす月の村があるわ。普段はまぁまぁ妖精達も通っているし・・・そこに行こうとしたんじゃない?」
夏美が道の先を見ながら答える。
「陽の妖精と、陰の妖精は暮らすところが違うの?」
夢華が聞いた。
「最近はあんまりどちらも関係なくなったんだけどね。私たちの家があるのは、太陽の村っていうの。神秘の泉を挟んでこの道を行った向こうの村は月の村。神秘の泉がいわゆる中間部分かな。」
夏美が振り返って答えた。
「くっそ・・・気配もなんも感じやしねぇ・・・」
秋美がつぶやいた。
その時。
【ガサッ・・・・】
ほんの微かに草が揺れる音がした。
「夢、あたいらの後ろに。」
秋美が小声で夢華に言った。
音がした方向を向き、三人が夢華を守る形で立っている。
四人に緊張が走った。
【ガサッ、ザッザッ】
音が近づいてきた。
意を決したように秋美が叫んだ。
「誰だ!?そんな所で何している!?」
音が止まった。
が、それもつかの間にまた動き出したようだ。
目の前の草が揺れた。
夢華はとっさに地面に落ちていた棒を拾い上げた。妖精相手には意味ないかもしれないけど・・・・ないよりはいい。
四人は身構えた。
【ザッ!!!】
人影が現る。
その瞬間、春美がすばやく呪文を唱えた。
「大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。ミツバチの、針を用いて我らを守れ。春使わし我の名は、桜の花びら春美なる!!」
呪文が終わると同時に、目の前の木から何か落ちた。かなり大きい、蜂の巣だ。巣の中から一斉にミツバチが飛び出し、人影に襲い掛かった。
「いて!!!痛いって!!俺!!!!草多だ!!!!!!!」
人影が叫ぶ。
「えっ・・・!?ごめんなさい!終結!!!」
ミツバチの大群が消えた。そこには、大量に刺された様子の草多が立っている。
「まぎらわしーんだよ!!」
秋美が叫ぶ。その声には安堵感が含まれていた。
「わりぃ!ちょっと森の奥まで行って手がかりを探してたんだ。そしたら話し声がしたから戻ってきただけなんだよ。」
草多が涙目で言った。
「ホントにごめんなさい。神秘の泉が近いわ。行きましょう。」
春美が草多に言った。
「こいつが紛らわしいんだから、あやまる事ねぇよ。」
歩きながら秋美が春美に言った。
神秘の泉に到着した。
草多が水を飲み回復している間、その横に四人は休憩がてら座り込んだ。
「だいたい、一言声をだしたら攻撃なんかしなかったのに。」
秋美は草多をまだチクチクと攻撃している。
「まぁまぁ、何事もなかったんだからよかったじゃないの。」
夏美が言う。
「冬美が消えた森の中を、今まで仕事の合間に少しずつ調べてたんだ。人間界に仕事で行けなくなったから、あと数日で全部調べ終わる予定。・・・今の所なんの手がかりもないけどさ・・」
草多が説明した。
「草多は冬美Loveだもんねぇ~??」
夏美がニヤニヤしながらちゃかしだした。
「な・・・・何いってんだよ!!」
「そうだったのか??」
秋美が驚いたように聞いた。
「秋美は恋愛音痴なのよ。こんなに必死になるんだもの。恋以外にありえないって!」
夏美はかなり楽しそうだ。
「冬美さんってそんなにかわいいの?」
夢華が加わる。
「な・・・・誰があんなうるさいし我が儘な奴・・・」
草多は顔を真っ赤にしてしどろもどろしている。今にも逃げ出しそうだ。
「そのへんでやめてあげたら?」
と言いつつ春美も聞きたそうにニコニコしている。
「あ~もう!こんな時にそんな話は・・・!」
草多は何とかこの話をやめようとしている。
「あら、こんな時だから笑顔が必要なんじゃない?それに愛って強いしいいものだと思うけどな~」
夏美は強い・・・秋美が敵に回したくないと言った理由がわかったわ。と夢華は思った。
「冬美さんって、どんな人なんですか?」
夢華がみんなに訪ねた。
「髪がけっこう長くて、銀色だ。身長も高いな。あたいらの中ではずば抜けた力を持ってる。かなりの気分屋なんだけどな。」
秋美が答えた。
「お・・・俺はそろそろ。ま、みんな無理しないようにな。」
「ちょおっと~~仕事はないはずよ?逃げる気??」
夏美は色端会議をする主婦のようだ。
草多が立ち上がった。
「栄枝さん達と会議だよ。ホントに・・・」
夢華は、口に出さなかったが草多は将来奥さんの尻に敷かれるタイプだなと思っていた。
「チェッ。ま、また森の中うろつくんなら気を付けなさいよ。」
夏美が言った。
「草多こそ無理は禁物よ」
春美が声をかける。
「了解。ではまた。」
草多の姿は見えなくなった。
「そういえばさ、春美、水が入れられる瓶もってるか??」
三人になったとき、秋美が春美に尋ねた。
「何本かあるけど?」
「今から何が起こるか分からないから、携帯して神秘の水を持っておきたいと思ってさ。あたいだけじゃなくて、みんなも。」
「ん~。あ、ちょうど四本あるわ。一人一本。」
鞄の中を見ながら春美が言った。全員が瓶を受け取り、水を入れて蓋をする。
「使うことがなければ一番なんだけどね・・・」
その瓶を鞄に戻しながら春美が言った。
「ま、用心にこしたことはないわ。」
夏美は肩から掛けている小さいポーチにしっかりしまい込んでいた。
「この水が秋美を救ってくれたんだし・・・」
夢華がポケットに入れながら言った。あの時この水を持ってなかったと思うと・・・身震いする。
「用意周到!!」
秋美もポケットに入れている。
「なんでも気やがれ!!」
秋美はやる気満々だ。
「さぁ、私たちももう少し調べましょうか。」
夏美が立ち上がった。
四人はまた月の村への道を進んでいった。
夜
なんの収穫もないまま、四人は帰宅した。
歩き回ったせいで全員ヘトヘトだ。
口数も少ないままに、四人は眠りについた。
桜が声をかけた。
「ふむ・・・大聖堂は・・・ちとバタバタしてるからのう。学校を、わし直属の部隊,種子蕾隊〈しゅしつぼみたい〉の本部にしようかの。海起、学校に連絡を。」
「はい」
海起の姿が一瞬にして見えなくなった。
「さてさて、みなのもの、学校に行くでな。」
大精霊様の声に、一行は学校に向けて歩き出したぎ。
何か警告があったのだろうか。いつのまにか誰一人として、外に出ている妖精は居なかった。
学校に到着した。
麻美と有樹が一室で待っていた。何があったかは聞いたようだ。
「さて、こんな事になってしまったから、信頼できるメンバーで解決に導かなければのう。そのための大精霊直属メンバー・・・種子蕾隊じゃ。内密にの。なぜこんなことになったのかくわしく分からないからのう。わしは疑うのは好かんが・・・のう・・・」
大精霊様が全員に言った。
しばらくすると、何人ものメンバーが集まってきた。
その中には、睡蓮や草多の姿もあった。
「夢華のために主な精霊・妖精の自己紹介でもしようかのう。夢華よ、万が一何かあったときはこのメンバーを頼るのじゃ。桜、秋美、春美、夏美、麻美、有樹、海起は知っておるの?そのほかのメンバー、自己紹介じゃ。」
大精霊様が明るく言った。
「あの・・・あと、睡蓮と草多は知ってます。」
夢華が言った。
「ほう、ではそのほかの諸君。お願いするでの。」
大精霊様が部屋を見回した。
端っこに座っていた男性が立ち上がった。髪は濃い緑色をしている。瞳も緑だ。細めの体だがしっかりと立っている。
「栄枝〈えいき〉です。草・木の妖精をまとめている精霊です。陽の者です。よろしく。」
優しい笑顔に,優しそうな声をしている。
次の人は群青色の髪をした男性だ。がっちりとした体型をしている。
「有水〈うすい〉です。川や海、泉など水に関わる妖精をまとめる精霊をしています。陰の者です。」
人前に立つのが苦手なのか、早口で言い終わるとすぐに座った。
すごく落ち着いていて、おっとりとした感じの女性が立ち上がった。髪は綺麗な、睡蓮よりも濃い紫色で肩より少し長めのストレートだ。
「水仙〈すいせん〉と言います。睡蓮達みたいな水辺の花を仕切っています陰の精霊です。よろしくお願いします。」
続いて立ち上がった女性は、髪の毛が黄色い。落ち着いているがその瞳には無邪気な子供を思わせるものがあった。
「蒲公英〈たんぽぽ〉と申します。陸地の花の精霊です。ちなみに陽の精霊です。よろしくね。」
目が大きくて、誰よりもかわいい精霊が立った。オレンジ色の髪をしている。
「食べ物の花・・・って言ったらわかりやすいかな?リンゴの花や大根の花などの妖精を取り仕切っている蜜柑〈みかん〉です。陽の者です。」
そのほか何人かの精霊の自己紹介が終わった。色々ややこしいので、夢華は全員を覚えられなかった。うっすらと顔は覚えて居る気がするのだが・・・。
「これで精霊は全員かの??夢華に関わっていない妖精の自己紹介は今日はやめとくかの。人数が多すぎるでな。それにあまり妖精を危険なことにかり出させるのも気が進まないしのう・・」
大精霊様が言った。
「さてさて、皆に集まってもらったのは知っての通りじゃ。ゲートが封じられ、秋美が襲われた。もしや冬美が居なくなったのも関係しとるのかもしれないのう。最近、陰の妖精の一部が動いているとは聞いていたが・・・証拠はないが、関係性は否定できない。・・・おっと、夢華や。あと一部の妖精達よ。勘違いしないでおくれ。陰も陽も差別してはならん。陰の者には多少感情的な者が多いだけじゃ。動いておる者の中には、陽の妖精の目撃もある。」
大精霊様は一人一人の顔を見ながら続けた。
「精霊の目撃や関与している情報がないのが唯一の救いじゃ・・・まだわからんがの。とにかく我らは団結が必要じゃ。根本的原因を見つけ、解決しなくてはのう。わしは争いが嫌いなんでの」
「大精霊様。」
蒲公英が言った。
「向こうが何が目的なのかはわかって居るのですか?」
「想像はしておる。じゃが、想像だけで動いてはならぬからの・・・情報を待つのじゃ。話すときが来たら伝えるでの。」
「今、人間界に居る妖精達はどうしましょう?むやみにゲートに近づけさせるのは危険かと・・・」
蒲公英が続けた。
「そうじゃのう。自分の持ち場で待機じゃ。自分の下に着いている妖精がどんな状況かはあるていど精霊はわかるじゃろう?・・・妖精は、自分の担当の場所に居ると自然と力が上がる・・・大丈夫じゃろう。今、妖精が危険な目にあっていたり怪我をしている感じが皆するかの??」
有水が目をつむりながら答えた。
「多少ですが・・・川の下流を担当している妖精が弱っている気がします。しかしほかの妖精が居る感じはしないので、このこととは関係ないと思いますが・・・」
「そうか・・・有水よ。その妖精には少し持ち場を離れ、別の場所に行って休むよう伝えるのじゃ。持ち場に長時間妖精が居なかったら川が死んでしまうでの、少しの間じゃ。」
「わかりました。」
有水は目を閉じたまま言った。
「なにしてるの??」
夢華が秋美に小声で聞いた。
「あぁ、精霊は自分が受け持ってる妖精がどんな状況か大まかに感覚でわかるんだ。大怪我したときや、弱ってるときとかな。だから、あたいが怪我したときも桜がすぐキャッチした。逆に、精霊の言葉とかは精霊が強く思って受け持ちの妖精に念を飛ばせば伝わるんだ。その念を飛ばすにはすごい力がいるから、あたいらには難しいんだけどな。」
「へぇ・・・じゃあ、その念で冬美さんを探せないの?」
「桜が試したみたいだけど・・・応答なし。怪我してたりする感覚はないらしいけど・・・故意に連絡をシャットダウンしてるのかもしれない。シャットダウンされたらどうにもならないんだ。人間界に例えると・・・ほら、携帯電話の電源って切ったらどうにもならないだろ?同じさ。」
「ん~~私携帯持ってないよ・・・」
「・・・すまねぇ。まぁ、シャットダウンするのにも念を飛ばすほどじゃないが力がいるんだけどな・・・冬美はそれくらいの力持ってるし、もしかしたら別の奴がしてるのかもしれないし・・・」
そんな話をしている間に有水の目が開いた。
「終わりました。」
有水が言った。
「うむ。さてさてとにかく今日は皆に注意を促せたかったのじゃ。今から何が起こるかわからん。多くの妖精は人間界に残っておる。気を付けるのじゃ。皆で情報を集めようぞ。・・・だが、無理はしないでほしいのう。」
大精霊様は最後の言葉を秋美を見ながら言った。
「ひとまず今日は解散じゃ。仕事は個々に依頼するぞよ。また招集をかけるでの。」
その言葉にみんなガヤガヤと立ち去っていった。
(なんか大変な事になっちゃったな・・・周りの足手まといにはなりたくない。)
夢華は思った。
「さぁ、私たちも帰りましょうか。」
春美が声をかけた。
夢華は立ち上がりながら周りを見た。睡蓮はとっくに帰ったようだ。草多は栄枝と話している。
「大丈夫。なんとかなるよ。」
夏美が秋美、夢華に向けて言った。
四人はうなずきあった。
また朝が来た。
安全を考え、秋美の家に春美・夏美は泊まっていた。麻美と有樹は学校もあるため自分の家だ。
これからどうなるのだろう・・・。そんな不安な気持ちを抱きながら夢華は平然を装っていた。
「私、冬美が最後に目撃された所に行ってみようと思うんだ。」
朝食を食べた後,突然夏美が切り出した。
「・・・私も考えてはいたけど・・・危険よ??」
春美が真剣な目で言った。
「わかってる。けど、精霊様達が必死で情報を集めているのに妖精だけ守られてるなんて私・・・イヤだ。何かしたい。力だって・・・種子蕾隊のメンバーなんだから・・」
「夏美・・・」
「あたいも夏美に賛成だな。あたいらなら・・・冬美が残した痕跡を見つけられるかもしれない。もし連れ去られたなら、あいつは何かを残しているはずだ。」
秋美が言った。
「けど、夢ちゃんを連れて行くのは危険すぎすじゃない?私たちに何かあっても自己責任だけど、夢ちゃんは私たちが巻き込んでしまったんだから・・・。」
春美が心配そうに言った。
夢華は考えていた。
そして、なんとなく考えがまとまったところで口を開いた。
「あたし・・・行く。行きたい。私は自分で望んでこの世界に来たんだから、私だって自己責任よ。この世界に来ることは、自分で決めたんだもの。」
夢華は続けた。
「危険かもしれないし、私は妖精じゃないから何が起こるかわからないし足手まといかもしれない。けど・・・私はみんなの力になりたい。とにかく、自分で決めたの!!自己責任じゃない人なんて居ないわ。」
自分の気持ちを言葉で説明するのは難しかった。だが三人には夢華の言葉にできない気持ちがしっかりと伝わったようだ。
「わかったわ・・・みんなで行きましょう。」
春美が頷きながら言った。
冬美が最後に目撃されたのは、神秘の泉よりもう少し進んだ所だった。妖精の国全体が警戒態勢に入っているせいか人気が全然なく,少し不気味な所だ。細い道で、周りは森になっていた。
「あたいさ、冬美が自分から一人でこの場所に来たとは思えないんだ。だってあいつ恐がりだし・・・」
秋美が周りを見渡しながら言った。
「けど、この道をしばらく抜けたら陰の妖精が多く暮らす月の村があるわ。普段はまぁまぁ妖精達も通っているし・・・そこに行こうとしたんじゃない?」
夏美が道の先を見ながら答える。
「陽の妖精と、陰の妖精は暮らすところが違うの?」
夢華が聞いた。
「最近はあんまりどちらも関係なくなったんだけどね。私たちの家があるのは、太陽の村っていうの。神秘の泉を挟んでこの道を行った向こうの村は月の村。神秘の泉がいわゆる中間部分かな。」
夏美が振り返って答えた。
「くっそ・・・気配もなんも感じやしねぇ・・・」
秋美がつぶやいた。
その時。
【ガサッ・・・・】
ほんの微かに草が揺れる音がした。
「夢、あたいらの後ろに。」
秋美が小声で夢華に言った。
音がした方向を向き、三人が夢華を守る形で立っている。
四人に緊張が走った。
【ガサッ、ザッザッ】
音が近づいてきた。
意を決したように秋美が叫んだ。
「誰だ!?そんな所で何している!?」
音が止まった。
が、それもつかの間にまた動き出したようだ。
目の前の草が揺れた。
夢華はとっさに地面に落ちていた棒を拾い上げた。妖精相手には意味ないかもしれないけど・・・・ないよりはいい。
四人は身構えた。
【ザッ!!!】
人影が現る。
その瞬間、春美がすばやく呪文を唱えた。
「大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。ミツバチの、針を用いて我らを守れ。春使わし我の名は、桜の花びら春美なる!!」
呪文が終わると同時に、目の前の木から何か落ちた。かなり大きい、蜂の巣だ。巣の中から一斉にミツバチが飛び出し、人影に襲い掛かった。
「いて!!!痛いって!!俺!!!!草多だ!!!!!!!」
人影が叫ぶ。
「えっ・・・!?ごめんなさい!終結!!!」
ミツバチの大群が消えた。そこには、大量に刺された様子の草多が立っている。
「まぎらわしーんだよ!!」
秋美が叫ぶ。その声には安堵感が含まれていた。
「わりぃ!ちょっと森の奥まで行って手がかりを探してたんだ。そしたら話し声がしたから戻ってきただけなんだよ。」
草多が涙目で言った。
「ホントにごめんなさい。神秘の泉が近いわ。行きましょう。」
春美が草多に言った。
「こいつが紛らわしいんだから、あやまる事ねぇよ。」
歩きながら秋美が春美に言った。
神秘の泉に到着した。
草多が水を飲み回復している間、その横に四人は休憩がてら座り込んだ。
「だいたい、一言声をだしたら攻撃なんかしなかったのに。」
秋美は草多をまだチクチクと攻撃している。
「まぁまぁ、何事もなかったんだからよかったじゃないの。」
夏美が言う。
「冬美が消えた森の中を、今まで仕事の合間に少しずつ調べてたんだ。人間界に仕事で行けなくなったから、あと数日で全部調べ終わる予定。・・・今の所なんの手がかりもないけどさ・・」
草多が説明した。
「草多は冬美Loveだもんねぇ~??」
夏美がニヤニヤしながらちゃかしだした。
「な・・・・何いってんだよ!!」
「そうだったのか??」
秋美が驚いたように聞いた。
「秋美は恋愛音痴なのよ。こんなに必死になるんだもの。恋以外にありえないって!」
夏美はかなり楽しそうだ。
「冬美さんってそんなにかわいいの?」
夢華が加わる。
「な・・・・誰があんなうるさいし我が儘な奴・・・」
草多は顔を真っ赤にしてしどろもどろしている。今にも逃げ出しそうだ。
「そのへんでやめてあげたら?」
と言いつつ春美も聞きたそうにニコニコしている。
「あ~もう!こんな時にそんな話は・・・!」
草多は何とかこの話をやめようとしている。
「あら、こんな時だから笑顔が必要なんじゃない?それに愛って強いしいいものだと思うけどな~」
夏美は強い・・・秋美が敵に回したくないと言った理由がわかったわ。と夢華は思った。
「冬美さんって、どんな人なんですか?」
夢華がみんなに訪ねた。
「髪がけっこう長くて、銀色だ。身長も高いな。あたいらの中ではずば抜けた力を持ってる。かなりの気分屋なんだけどな。」
秋美が答えた。
「お・・・俺はそろそろ。ま、みんな無理しないようにな。」
「ちょおっと~~仕事はないはずよ?逃げる気??」
夏美は色端会議をする主婦のようだ。
草多が立ち上がった。
「栄枝さん達と会議だよ。ホントに・・・」
夢華は、口に出さなかったが草多は将来奥さんの尻に敷かれるタイプだなと思っていた。
「チェッ。ま、また森の中うろつくんなら気を付けなさいよ。」
夏美が言った。
「草多こそ無理は禁物よ」
春美が声をかける。
「了解。ではまた。」
草多の姿は見えなくなった。
「そういえばさ、春美、水が入れられる瓶もってるか??」
三人になったとき、秋美が春美に尋ねた。
「何本かあるけど?」
「今から何が起こるか分からないから、携帯して神秘の水を持っておきたいと思ってさ。あたいだけじゃなくて、みんなも。」
「ん~。あ、ちょうど四本あるわ。一人一本。」
鞄の中を見ながら春美が言った。全員が瓶を受け取り、水を入れて蓋をする。
「使うことがなければ一番なんだけどね・・・」
その瓶を鞄に戻しながら春美が言った。
「ま、用心にこしたことはないわ。」
夏美は肩から掛けている小さいポーチにしっかりしまい込んでいた。
「この水が秋美を救ってくれたんだし・・・」
夢華がポケットに入れながら言った。あの時この水を持ってなかったと思うと・・・身震いする。
「用意周到!!」
秋美もポケットに入れている。
「なんでも気やがれ!!」
秋美はやる気満々だ。
「さぁ、私たちももう少し調べましょうか。」
夏美が立ち上がった。
四人はまた月の村への道を進んでいった。
夜
なんの収穫もないまま、四人は帰宅した。
歩き回ったせいで全員ヘトヘトだ。
口数も少ないままに、四人は眠りについた。
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ファンタジー
エルトランド王国の次期王妃であったアカーシャ・オルトリンデは、未来予知によって国中の人心掌握していく神託の巫女、ストレリチア暗殺計画を企てた罪で死刑宣告を言い渡される。
婚約者であった王子やかつての仲間たちに見捨てられ、牢獄でただ死を待つだけの存在に成り下がったアカーシャだったが、ある日、そんな彼女の前に仇敵ストレリチアが現れる。
ストレリチアはアカーシャを煽り立てると、怒り狂う彼女に、条件付きで刑を死刑から流刑へと変えることを提案してくるのだが、その条件とは、アカーシャが必死で積み上げてきた魔導の根源、魔力を貪り続ける指輪をはめることだった。
苦心の末、このままでは死にきれないと考えたアカーシャはその条件を飲み、道案内として遣わされた奴隷、カラスと共に敵国オリエントへと流刑に処されることとなった。
東国オリエントにて、ストレリチアに反旗を翻すため力を整えることを決めたアカーシャは、カラスと共に名前を変えて現地の自警団に所属するのだが、そこでの戦いは、やがて、かつての母国、エルトランドとの戦争に発展していって…。
人を恨むことでしか咲き続けることのできない、復讐を唄う黒い百合の戦いが幕を開ける。
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