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真実を求めて
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過去・今・未来へ
「とにかく,オウキをとめなくちゃ。オウキに戦争なんておそろしいことさせたくないよ。」
ヒロトが言った。
「分かってるわよ。それは私たちも同じだもの。急ぎましょ。」
エリヤが言った。
小走りになる五人。
すると,森の先からざわざわと様々な声が聞こえてきた。
「憎しみに・・・たどりついた。」
ケントがぼそりとつぶやいた。
ふと前を見ると,ドワーフと思われる二人組が立っていた。
「お前達は,我々の仲間か?それとも敵か?」
ドワーフの一人が聞いた。
「俺達は・・・オウキを,ここに居る人間族の兄を止めに来た・・・・だが決して敵ではない。争いは,なるべくさけたい・・・。」
ジュライが言った。
「そうか。だが俺達はもう止まらない。進むがいい。そして実感すればいい。たった五人で,俺達をとめることなどできはしないだろうからな。」
そう言って,ドワーフは道をあけた。
ヒロト達は先に進んだ。そして,呆気にとられた。
そこには,多くの武装した種族が居た。そして間をとって大量の魔物。
「こんなに居たなんて・・・・・。憎しみがとらえやすいはずだ。」
ケントが言った。
ヒロトは必死で目を走らせてオウキを探した。
そして,ついに,中央の塔に立っているオウキを見つけた。
「オウキィィィィ!!」
ヒロトが叫んだ。
その瞬間,ざわめきが止んだ。
そこにいる全員が,ヒロトを見ていた。
「・・・・・ヒ・・・ロト・・・・?」
オウキは一瞬動揺したような顔をすると,ヒロトを見た。
「オウキ!!なにやってんだよ!急に居なくなって,わけわかんないメモと本だけ残して!!さぁ,帰ろう。戦争なんて,馬鹿なことしないでくれよ。」
ヒロトが叫んだ。
「・・・お前,その本の解読ができたのか?」
オウキが言った。
「あぁ。いろんな仲間の力を借りて,解読できた。そして人間族がどれだけ恐ろしいことをしたかも,オウキと僕は異母兄弟だったことも知った。」
「じゃあ,分かるだろう。俺の憎しみが。苦しみが。人間族なんか,居ない方がいいんだ。俺の母親の,俺の種族の命を奪った人間族。今ではすべてを機械に頼り,人と人との絆を忘れた人間族。人間族なんか,この世に必要ないんだ。俺は悪を裁くだけのことだ。」
ヒロトは下を向いた。
「そんなことないはずだ。」
ケントが言った。
「なんだと・・・?」
オウキがケントを見た。
「人間族が機械に頼っていることは知っている。だが,人と人との絆は失われてはいない。だからこそ,ヒロトは旅だったんだ。貴方を捜すために,危険な旅へと。」
オウキは黙ってケントを見ている。そして,ヒロトを見た。
「ヒロト。お前の仲間達と,今すぐここを去れ。俺は,俺にしかできないことをする。何を言われようと,人間族への憎しみは消えない。お前は,喜光王国で新しい仲間達と暮らしていけばいいんだ。ただ,それだけのことだ。」
ヒロトを見ているオウキ。
「嫌だ!!オウキと一緒じゃないと,僕は帰らない。必ずオウキを連れて帰る!オウキに,戦争なんて恐ろしいことさせない!!」
ヒロトもオウキを見ていた。
「・・・・じゃあ,力ずくで止めてみろ。剣を抜け,ヒロト。そして俺を殺せ。そうすれば戦争は回避される。・・・・そこまでの実力があればの話だがな。お前に剣を教えたのは俺だ。お前のくせはすべて分かっている。そして俺は俺の邪魔をするお前を殺す覚悟がある。それでも覚悟があるなら,かかってこい!」
そう言って,オウキは剣を抜いた。
「い,嫌だ!オウキと戦いたくなんかない。異母兄弟でも,ずっと一緒に暮らしてきた家族じゃないか。」
ヒロトが一歩後ずさった。
「では,どうするか?俺が,お前の仲間を殺してやろうか?そうすれば,お前もこの消えない憎しみが理解できるだろう。」
「なんでそんな酷いこと言うんだよ!!オウキは・・・オウキはそんな酷い人じゃない!!優しくて,笑顔が明るくて,俺を支えて側にいてくれたじゃないか・・・。」
「そんなこと昔の話だ。俺はある秋の日,この本を偶然部屋で見つけた。そしてなぜか文字が読めた。内容は・・・知ってのとおりだ。そして,俺は復讐者になった。さぁ話は終わりだ。俺と戦うか,引き返すか,選ぶんだ!!ヒロト!!」
「オウキの挑発に乗っちゃ駄目よ。何か方法があるはずよ。戦ったら,ヒロトの命が奪われてしまうわ。」
エリヤの言葉に,ケントがうなずいた。
群衆達は,黙って事の展開を見ている。
「俺の占いでは,ヒロトがオウキに勝つ確率は1%にも満たない。ヒロトが死んだら,俺達はまた別の憎しみを抱いてしまう。」
ケントが言った。
「ヒロトは,俺達の大事な仲間だ。ヒロトの大切な人との争いなんか見たくない。」
エイキも言った。
ヒロトは考えていた。1から考え直していた。オウキと暮らしていた機械帝国。オウキの居なくなった孤独感,さみしさ。真実を探すために旅に出たことの覚悟。仲間ができた嬉しさ。そして真実を知った苦しみ。・・・どうすれば,オウキを止められるか?
「早くしろ。決まらないのなら,こちらから攻撃をしかけて全員の命を奪うぞ。」
オウキが言った。
「・・・・・ジュライ,ケント,エイキ,そしてエリヤ。僕の仲間になって・・・いや,僕を仲間にしてくれてありがとう。真実も見つけられた。みんなに出会えて,本当によかった。そして何より,僕は旅が楽しかった。野宿していろんな事を話した夜,一人では進めない道も,みんながいたから進むことが出来た。だから・・・・最後に,僕を信じてほしい。これがみんなと話す最後かもしれない。」
ヒロトは四人を見ていた。
ヒロトの真剣で,そして覚悟に満ちた目。
四人はしばらくヒロトを見ていた。
「俺達は・・・いつだって・・・ヒロトを信じている・・・・。」
ジュライが言った。そして,ゆっくりと三人がうなずいた。
それを見ると,ヒロトは少し微笑んで,そして剣を抜いた。
オウキの方を見るヒロト。
「やっとやる気になったか,さぁ,かかってこい!!」
オウキが言った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ヒロトはオウキに向けて一直線に走り出した。
その場に居る全員が,その光景に釘付けになった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なにが起きているのか,理解するのに一瞬の時間がかかった。
ヒロトは,剣を投げ捨てていた。そして,思いっ切りオウキを抱きしめていた。
「ヒ・・・ロト・・・・お前・・・何を・・・・。」
動揺を隠せないオウキ。
「オウキ,会いたかった。やっと,やっとオウキを見つける事が出来た。オウキ,聞いてほしいことが沢山あるんだ。僕,一人で旅に出たんだ。それで喜光王国に行って,キシン様にヒントをもらって,仲間を集めたんだ。それで・・・それで・・・。」
ヒロトは泣いていた。
「真実を知ったとき,怖かった。人間族のしたことが。でも,だからって,復讐なんかしたらいけないよ。だって,憎しみを増やすだけじゃないか。また,仲間を失うかもしれないじゃないか。だから・・・だから・・・僕が全部受け止めるよ。オウキの憎しみも,苦しみも,悲しさも,全部僕が受け止めるから!!」
泣きながら,オウキを抱きしめたままヒロトが言った。オウキは動揺しながらも黙って聞いている。
その様子を見ていたエリヤが,ハープを組み立てた。エイキに目配せをして,エイキは笛をとりだす。そしてエリヤは歌い始めた。その場に居る,全員に向けて。
迫害戦争は様々なものを奪っていった
平和・愛・友・家族
残されたものは悲しみ,苦しみ,そして憎しみ
それでも私たちは立ち上がった
そして喜光王国,愛に満ちた国が生まれた
新しい友ができた,家族ができた
それでも,憎しみは消えることはなかった
過去を思い出すたびに苦しくなって涙の日々だった
今,また戦争をしたらどうなるだろう
人間族に復讐はできるかもしれない
けれど新しい友・家族,大切な人が死ぬかもしれない
憎しみは,憎しみしか生まれない
愛からは,愛が生まれる
この愛をなくしてはいけない
苦しいとき,悲しいとき,受け止めて支えてくれる人が必ずいる
そんな大切な人が,必ずいてくれる
少し顔をあげて,隣を見たら分かるはず
そこにいるのは,誰よりも大切な人のはず
大切な人を守るためにも,戦争なんて起こしてはいけない
エリヤの歌声に,全員が聞き入っていた。
すると,ケントが一歩前に出て杖を高くかかげた。
ケントが呪文を唱えると,少し大きめの,ピンクの花びらがそこにいる全員に降り注いだ。
ヒロトはそれがなんの花びらかすぐに分かった。喜光王国で花屋のノームにもらった,ピンクのチューリップ・・・・花言葉は『愛』
「オウキ・・・お前は・・・復讐者と言いながら,ヒロトにメモと本を残した。・・・・・それはオウキにとって,ヒロトが大切な・・・・兄弟だからだったからだ。そして残された本。・・・オウキ,お前の心のどこかに,ヒロトの迎えを待っていたのではないか・・・・?」
ジュライがオウキに言った。
「そんなこと・・・・・・」
オウキが口ごもった。
「オウキ,一緒に帰ろう。僕,過去を受け入れるよ。そして,今,この瞬間としっかり向き合うよ。オウキ,オウキの目の前にあるのは暗い未来なんかじゃない。明るい,暖かい未来だ。だって・・・誰よりも,オウキを想ってる僕がいるんだから。」
ヒロトが言った。
そして,周り全体を見渡した。武装していた種族達は,全員顔を上げていた。
よく見ると,隣の人と手を繋いでいたり,抱きしめあっている人も居る。
ほとんどの者が,涙を流していた。
エリヤの歌には力がある。そして絶え間なく降り注ぐピンクの花びら。ヒロトとオウキとのやりとり。
いつの間にか,憎しみは薄れていた。
「過去を受け入れ,今をしっかりと見据えた時,自然と未来は見えてくる。」
聞き覚えのある声を聞いて,全員がその声の方向を見た。
そこにいたのは,喜光王国国王,キシン様だった。そして何人かの白いマントを着た魔術師。その中の片隅に居たのは,ライトとアマキだった。
ライトとアマキが三人に駆け寄る。
「無事か?」
ライトがケントに聞いた。
「なんとかな。でも,なんでライトやみんながここに・・・。」
「お前達が心配でな。後を追いかけてたら,アマキとキシン様達と合流したんだ。」
ライトが言った。
「あたいは,一度オウキって奴と話がしたかったんだ。同じ魔族のハーフとして。」
アマキが言った。
そしてオウキを見た。
「おい,オウキ。あたいは,ドワーフと,魔族のハーフだ。魔族の血が流れていることを誇りに思っている。昔魔族は,魔物がむやみに人を襲わないように見張る役割を担っていた。魔族は,人を守る種族なんだ。だから,あたいは誇りに思っている。その力は,決して戦争に使う力ではない。人を,守るために使う力だ!!」
オウキはアマキを見ていた。ヒロトに抱きしめられたまま。
「人を・・・守る力・・・・。」
オウキがつぶやいた。
「オウキ,僕,この旅で,どれだけ他の人と関わる事が楽しいか知ったんだ。仲間ができる嬉しさを,知ったんだ。一緒に笑ったり,喧嘩したり・・・そんな一時が,きっと幸せっていうんだって思ったんだ。オウキと暮らしてたとき,気が付かなかったけど,僕は幸せだったんだ。大好きなオウキがいてくれたから・・・・・。人と人は,憎しみあうこともあるかもしれない,傷つけあうこともあるかもしれない。でも,そんな経験も全部大切な経験なんだって思えるようになったんだ。」
ヒロトはそう言うと,さらに強くオウキを抱きしめた。
「ヒロト・・・お前は,戦争を起こそうとしていた俺を・・・そのために酷いことをしてきた俺を受け入れるというのか・・・・?それでも,大好きだと言ってくれるのか・・・?」
オウキの言葉にヒロトは黙ってうなずいた。
そしてヒロトは体で感じた。オウキが,自分を抱きしめる感覚を。その暖かさを。
「さて・・・ここにいる皆の者。人間族と魔族のハーフ,オウキを筆頭に人間族に戦争をしかけようとしていたことは間違いないの?喜光王国と機械帝国は今平和条約で結ばれておる。それを,破ろうとした罪は重い。」
様子を見守っていたキシン様が,重々しい声で言った。
その場にいる全員が下を向いた。
「じゃが,戦争は起こらなかった。その前に,ヒロト達のやりとりを見て皆は愛の大切さに気が付いたはずじゃ。皆の者,顔を上げるのじゃ。」
一人,また一人とゆっくりと顔を上げた。
キシン様は,微笑んでいた。
「さぁ,帰ろうぞ。皆の帰る場所は必ず何処かにある。喜光王国では,どんな者でも受け入れる。一緒に,さらに愛の深い国を造っていこうぞよ。」
キシン様が言った。
その言葉を聞いて,エリヤが背筋を伸ばして言った。
「エルフ,ノームの皆,喜光王国に帰る道を選ばない者は,私たちのふるさとへ帰りましょう。私は,姫として妖精の国を,昔のように復興させなければいけないのだから。」
続いてアマキが声を張り上げた。
「ドワーフの岩山に帰ってくる者はどんな奴でも受け入れる。さっさと帰るぜ。」
そしてライトも声を張り上げた。
「荒れた高原に,もう一度魔術師の町が出来たらと思う。それに協力してくれる者は,俺と一緒に一から始めよう。」
「それ,いいな。俺も協力するよ。」
ケントが言った。ライトは少し微笑んだ。
そうしてゆっくりと,集まっていた者達は解散をはじめた。ほとんどの者が,誰かと手をつないだり,肩を組み合ったりしていた。
そしてその様子を見ていたヒロトは思った。旅は,終わったのだと・・・。
「とにかく,オウキをとめなくちゃ。オウキに戦争なんておそろしいことさせたくないよ。」
ヒロトが言った。
「分かってるわよ。それは私たちも同じだもの。急ぎましょ。」
エリヤが言った。
小走りになる五人。
すると,森の先からざわざわと様々な声が聞こえてきた。
「憎しみに・・・たどりついた。」
ケントがぼそりとつぶやいた。
ふと前を見ると,ドワーフと思われる二人組が立っていた。
「お前達は,我々の仲間か?それとも敵か?」
ドワーフの一人が聞いた。
「俺達は・・・オウキを,ここに居る人間族の兄を止めに来た・・・・だが決して敵ではない。争いは,なるべくさけたい・・・。」
ジュライが言った。
「そうか。だが俺達はもう止まらない。進むがいい。そして実感すればいい。たった五人で,俺達をとめることなどできはしないだろうからな。」
そう言って,ドワーフは道をあけた。
ヒロト達は先に進んだ。そして,呆気にとられた。
そこには,多くの武装した種族が居た。そして間をとって大量の魔物。
「こんなに居たなんて・・・・・。憎しみがとらえやすいはずだ。」
ケントが言った。
ヒロトは必死で目を走らせてオウキを探した。
そして,ついに,中央の塔に立っているオウキを見つけた。
「オウキィィィィ!!」
ヒロトが叫んだ。
その瞬間,ざわめきが止んだ。
そこにいる全員が,ヒロトを見ていた。
「・・・・・ヒ・・・ロト・・・・?」
オウキは一瞬動揺したような顔をすると,ヒロトを見た。
「オウキ!!なにやってんだよ!急に居なくなって,わけわかんないメモと本だけ残して!!さぁ,帰ろう。戦争なんて,馬鹿なことしないでくれよ。」
ヒロトが叫んだ。
「・・・お前,その本の解読ができたのか?」
オウキが言った。
「あぁ。いろんな仲間の力を借りて,解読できた。そして人間族がどれだけ恐ろしいことをしたかも,オウキと僕は異母兄弟だったことも知った。」
「じゃあ,分かるだろう。俺の憎しみが。苦しみが。人間族なんか,居ない方がいいんだ。俺の母親の,俺の種族の命を奪った人間族。今ではすべてを機械に頼り,人と人との絆を忘れた人間族。人間族なんか,この世に必要ないんだ。俺は悪を裁くだけのことだ。」
ヒロトは下を向いた。
「そんなことないはずだ。」
ケントが言った。
「なんだと・・・?」
オウキがケントを見た。
「人間族が機械に頼っていることは知っている。だが,人と人との絆は失われてはいない。だからこそ,ヒロトは旅だったんだ。貴方を捜すために,危険な旅へと。」
オウキは黙ってケントを見ている。そして,ヒロトを見た。
「ヒロト。お前の仲間達と,今すぐここを去れ。俺は,俺にしかできないことをする。何を言われようと,人間族への憎しみは消えない。お前は,喜光王国で新しい仲間達と暮らしていけばいいんだ。ただ,それだけのことだ。」
ヒロトを見ているオウキ。
「嫌だ!!オウキと一緒じゃないと,僕は帰らない。必ずオウキを連れて帰る!オウキに,戦争なんて恐ろしいことさせない!!」
ヒロトもオウキを見ていた。
「・・・・じゃあ,力ずくで止めてみろ。剣を抜け,ヒロト。そして俺を殺せ。そうすれば戦争は回避される。・・・・そこまでの実力があればの話だがな。お前に剣を教えたのは俺だ。お前のくせはすべて分かっている。そして俺は俺の邪魔をするお前を殺す覚悟がある。それでも覚悟があるなら,かかってこい!」
そう言って,オウキは剣を抜いた。
「い,嫌だ!オウキと戦いたくなんかない。異母兄弟でも,ずっと一緒に暮らしてきた家族じゃないか。」
ヒロトが一歩後ずさった。
「では,どうするか?俺が,お前の仲間を殺してやろうか?そうすれば,お前もこの消えない憎しみが理解できるだろう。」
「なんでそんな酷いこと言うんだよ!!オウキは・・・オウキはそんな酷い人じゃない!!優しくて,笑顔が明るくて,俺を支えて側にいてくれたじゃないか・・・。」
「そんなこと昔の話だ。俺はある秋の日,この本を偶然部屋で見つけた。そしてなぜか文字が読めた。内容は・・・知ってのとおりだ。そして,俺は復讐者になった。さぁ話は終わりだ。俺と戦うか,引き返すか,選ぶんだ!!ヒロト!!」
「オウキの挑発に乗っちゃ駄目よ。何か方法があるはずよ。戦ったら,ヒロトの命が奪われてしまうわ。」
エリヤの言葉に,ケントがうなずいた。
群衆達は,黙って事の展開を見ている。
「俺の占いでは,ヒロトがオウキに勝つ確率は1%にも満たない。ヒロトが死んだら,俺達はまた別の憎しみを抱いてしまう。」
ケントが言った。
「ヒロトは,俺達の大事な仲間だ。ヒロトの大切な人との争いなんか見たくない。」
エイキも言った。
ヒロトは考えていた。1から考え直していた。オウキと暮らしていた機械帝国。オウキの居なくなった孤独感,さみしさ。真実を探すために旅に出たことの覚悟。仲間ができた嬉しさ。そして真実を知った苦しみ。・・・どうすれば,オウキを止められるか?
「早くしろ。決まらないのなら,こちらから攻撃をしかけて全員の命を奪うぞ。」
オウキが言った。
「・・・・・ジュライ,ケント,エイキ,そしてエリヤ。僕の仲間になって・・・いや,僕を仲間にしてくれてありがとう。真実も見つけられた。みんなに出会えて,本当によかった。そして何より,僕は旅が楽しかった。野宿していろんな事を話した夜,一人では進めない道も,みんながいたから進むことが出来た。だから・・・・最後に,僕を信じてほしい。これがみんなと話す最後かもしれない。」
ヒロトは四人を見ていた。
ヒロトの真剣で,そして覚悟に満ちた目。
四人はしばらくヒロトを見ていた。
「俺達は・・・いつだって・・・ヒロトを信じている・・・・。」
ジュライが言った。そして,ゆっくりと三人がうなずいた。
それを見ると,ヒロトは少し微笑んで,そして剣を抜いた。
オウキの方を見るヒロト。
「やっとやる気になったか,さぁ,かかってこい!!」
オウキが言った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ヒロトはオウキに向けて一直線に走り出した。
その場に居る全員が,その光景に釘付けになった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なにが起きているのか,理解するのに一瞬の時間がかかった。
ヒロトは,剣を投げ捨てていた。そして,思いっ切りオウキを抱きしめていた。
「ヒ・・・ロト・・・・お前・・・何を・・・・。」
動揺を隠せないオウキ。
「オウキ,会いたかった。やっと,やっとオウキを見つける事が出来た。オウキ,聞いてほしいことが沢山あるんだ。僕,一人で旅に出たんだ。それで喜光王国に行って,キシン様にヒントをもらって,仲間を集めたんだ。それで・・・それで・・・。」
ヒロトは泣いていた。
「真実を知ったとき,怖かった。人間族のしたことが。でも,だからって,復讐なんかしたらいけないよ。だって,憎しみを増やすだけじゃないか。また,仲間を失うかもしれないじゃないか。だから・・・だから・・・僕が全部受け止めるよ。オウキの憎しみも,苦しみも,悲しさも,全部僕が受け止めるから!!」
泣きながら,オウキを抱きしめたままヒロトが言った。オウキは動揺しながらも黙って聞いている。
その様子を見ていたエリヤが,ハープを組み立てた。エイキに目配せをして,エイキは笛をとりだす。そしてエリヤは歌い始めた。その場に居る,全員に向けて。
迫害戦争は様々なものを奪っていった
平和・愛・友・家族
残されたものは悲しみ,苦しみ,そして憎しみ
それでも私たちは立ち上がった
そして喜光王国,愛に満ちた国が生まれた
新しい友ができた,家族ができた
それでも,憎しみは消えることはなかった
過去を思い出すたびに苦しくなって涙の日々だった
今,また戦争をしたらどうなるだろう
人間族に復讐はできるかもしれない
けれど新しい友・家族,大切な人が死ぬかもしれない
憎しみは,憎しみしか生まれない
愛からは,愛が生まれる
この愛をなくしてはいけない
苦しいとき,悲しいとき,受け止めて支えてくれる人が必ずいる
そんな大切な人が,必ずいてくれる
少し顔をあげて,隣を見たら分かるはず
そこにいるのは,誰よりも大切な人のはず
大切な人を守るためにも,戦争なんて起こしてはいけない
エリヤの歌声に,全員が聞き入っていた。
すると,ケントが一歩前に出て杖を高くかかげた。
ケントが呪文を唱えると,少し大きめの,ピンクの花びらがそこにいる全員に降り注いだ。
ヒロトはそれがなんの花びらかすぐに分かった。喜光王国で花屋のノームにもらった,ピンクのチューリップ・・・・花言葉は『愛』
「オウキ・・・お前は・・・復讐者と言いながら,ヒロトにメモと本を残した。・・・・・それはオウキにとって,ヒロトが大切な・・・・兄弟だからだったからだ。そして残された本。・・・オウキ,お前の心のどこかに,ヒロトの迎えを待っていたのではないか・・・・?」
ジュライがオウキに言った。
「そんなこと・・・・・・」
オウキが口ごもった。
「オウキ,一緒に帰ろう。僕,過去を受け入れるよ。そして,今,この瞬間としっかり向き合うよ。オウキ,オウキの目の前にあるのは暗い未来なんかじゃない。明るい,暖かい未来だ。だって・・・誰よりも,オウキを想ってる僕がいるんだから。」
ヒロトが言った。
そして,周り全体を見渡した。武装していた種族達は,全員顔を上げていた。
よく見ると,隣の人と手を繋いでいたり,抱きしめあっている人も居る。
ほとんどの者が,涙を流していた。
エリヤの歌には力がある。そして絶え間なく降り注ぐピンクの花びら。ヒロトとオウキとのやりとり。
いつの間にか,憎しみは薄れていた。
「過去を受け入れ,今をしっかりと見据えた時,自然と未来は見えてくる。」
聞き覚えのある声を聞いて,全員がその声の方向を見た。
そこにいたのは,喜光王国国王,キシン様だった。そして何人かの白いマントを着た魔術師。その中の片隅に居たのは,ライトとアマキだった。
ライトとアマキが三人に駆け寄る。
「無事か?」
ライトがケントに聞いた。
「なんとかな。でも,なんでライトやみんながここに・・・。」
「お前達が心配でな。後を追いかけてたら,アマキとキシン様達と合流したんだ。」
ライトが言った。
「あたいは,一度オウキって奴と話がしたかったんだ。同じ魔族のハーフとして。」
アマキが言った。
そしてオウキを見た。
「おい,オウキ。あたいは,ドワーフと,魔族のハーフだ。魔族の血が流れていることを誇りに思っている。昔魔族は,魔物がむやみに人を襲わないように見張る役割を担っていた。魔族は,人を守る種族なんだ。だから,あたいは誇りに思っている。その力は,決して戦争に使う力ではない。人を,守るために使う力だ!!」
オウキはアマキを見ていた。ヒロトに抱きしめられたまま。
「人を・・・守る力・・・・。」
オウキがつぶやいた。
「オウキ,僕,この旅で,どれだけ他の人と関わる事が楽しいか知ったんだ。仲間ができる嬉しさを,知ったんだ。一緒に笑ったり,喧嘩したり・・・そんな一時が,きっと幸せっていうんだって思ったんだ。オウキと暮らしてたとき,気が付かなかったけど,僕は幸せだったんだ。大好きなオウキがいてくれたから・・・・・。人と人は,憎しみあうこともあるかもしれない,傷つけあうこともあるかもしれない。でも,そんな経験も全部大切な経験なんだって思えるようになったんだ。」
ヒロトはそう言うと,さらに強くオウキを抱きしめた。
「ヒロト・・・お前は,戦争を起こそうとしていた俺を・・・そのために酷いことをしてきた俺を受け入れるというのか・・・・?それでも,大好きだと言ってくれるのか・・・?」
オウキの言葉にヒロトは黙ってうなずいた。
そしてヒロトは体で感じた。オウキが,自分を抱きしめる感覚を。その暖かさを。
「さて・・・ここにいる皆の者。人間族と魔族のハーフ,オウキを筆頭に人間族に戦争をしかけようとしていたことは間違いないの?喜光王国と機械帝国は今平和条約で結ばれておる。それを,破ろうとした罪は重い。」
様子を見守っていたキシン様が,重々しい声で言った。
その場にいる全員が下を向いた。
「じゃが,戦争は起こらなかった。その前に,ヒロト達のやりとりを見て皆は愛の大切さに気が付いたはずじゃ。皆の者,顔を上げるのじゃ。」
一人,また一人とゆっくりと顔を上げた。
キシン様は,微笑んでいた。
「さぁ,帰ろうぞ。皆の帰る場所は必ず何処かにある。喜光王国では,どんな者でも受け入れる。一緒に,さらに愛の深い国を造っていこうぞよ。」
キシン様が言った。
その言葉を聞いて,エリヤが背筋を伸ばして言った。
「エルフ,ノームの皆,喜光王国に帰る道を選ばない者は,私たちのふるさとへ帰りましょう。私は,姫として妖精の国を,昔のように復興させなければいけないのだから。」
続いてアマキが声を張り上げた。
「ドワーフの岩山に帰ってくる者はどんな奴でも受け入れる。さっさと帰るぜ。」
そしてライトも声を張り上げた。
「荒れた高原に,もう一度魔術師の町が出来たらと思う。それに協力してくれる者は,俺と一緒に一から始めよう。」
「それ,いいな。俺も協力するよ。」
ケントが言った。ライトは少し微笑んだ。
そうしてゆっくりと,集まっていた者達は解散をはじめた。ほとんどの者が,誰かと手をつないだり,肩を組み合ったりしていた。
そしてその様子を見ていたヒロトは思った。旅は,終わったのだと・・・。
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