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ホールケーキは特別なもの
しおりを挟むいっとくさんが広島にやってきて、私の2回目の誕生日が過ぎた。
私の誕生日は1月の16日。お正月の忙しさが過ぎて、忙しい日々に戻っていく境の辺りにあるこの日は、昔から友人と時間が合わないことが多かった。
もっと言えば、私は子供の頃からの家庭環境の影響で、自分の誕生日がとても嫌いだった。
誕生日前は精神的にも肉体的にも体調が悪くなるくらいに。
さて、そんな暗い話は置いておいて。
いっとくさんがやってきて一度目の誕生日は、入籍後すぐの頃だ。
千葉にいる時から、誕生日ケーキはどれが良いかと探してくれていたいっとくさん。
これは? これは? と様々なURLが送られてきていた。
私はその中でも、ガトーショコラの上にクリームが可愛く乗っていて、ピンクのチョコレートが散りばめられたものに一目惚れをして、これが良い!! といっとくさんにウキウキで伝えたのだ。
その数日後、いっとくさんから、
「ケーキのプレートってなんだ?」
と聞かれ、
「お誕生日おめでとうとか書いてあるチョコのじゃない?」
と何気ない会話があったのだが、別にその時は何気ない会話の中だったので、この人はケーキのプレートを知らないのか、年代かな? などとちょっと失礼なことを考えた。
さて迎えた誕生日。
解凍されたケーキには、チョコレートのプレートがついていた。
そこには
(えみ お誕生日おめでとう)
の文字。
嬉しくて嬉しくて、私は記憶にある誕生日ではじめて大はしゃぎをした。
さらにロウソクがついていて、はしゃぎながらロウソクを立てると、いっとくさんが火をつけてくれ、電気を消した。
その瞬間、嬉しくて嬉しくて涙が溢れ出した。
自分でもどうしたのかわからない。
いっとくさんは大慌てだ。
そんなこんなでロウソクを吹き消し、チョコレートはカリウムが高いのでいっとくさんには少しだけ切り分け、自分のを切り分けようとした時
「これは全部えみのだ。えみの為のものだからそのままかぶりつけ!」
と言われ、その通りにした。
今まで感じたことのない、幸福感で満たされる。
あぁ、これは私の為にいっとくさんが用意してくれた、私のホールケーキなのだと。
ホールケーキとは、あまり食べる機会がないものだと個人的に思う。
少なくとも私は、クリスマスと誰かの誕生日に食べたくらいだし、そもそもホールケーキは一人で食べるものでもないので、
「私だけのケーキ!」
とはなかなか思えない。
それが、
「私の為の私だけのホールケーキ」
を食べたのだ。
翌年の2回目の誕生日前も、いっとくさんは私用のケーキを探していて、二人で色々見ていた。
私はまた、ガトーショコラが食べたく、いっとくさんとサイトを見ていたら、ガトーショコラの上にクリーム、その上にアイシングクッキーが乗っているとても可愛いケーキを発見。2回目の誕生日ケーキはそれにした。
ロウソクはついてなかったので、いっとくさんが仕事前に100均で買ってきてくれたのがまた嬉しい。
そして、見事にまた泣いた。
ホールケーキは、特別なのだ。
最近は一人でも食べられる大きさのホールケーキも売っている。
切り分けられた三角のケーキもタルトも大好きだが。
やっぱりホールケーキは特別。別もの。幸せである。
そしてこの2回の誕生日で、私の一番好きなケーキは胸を張ってガトーショコラだと言うようになったのだが。
いっとくさんは、私が元々ガトーショコラが好きなのだろうと、深く考えていないのであった。
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