共に生きるため2

Emi 松原

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~キャンドル~

「由岐さん、準備は完璧に整いました。さぁ、今からが始まりです!!扉を厳重にチェックしてください。」
守我の言葉に、無言で従う由岐。
「それでは、スタートです。今からこの世界のトップに立つのは、この私です・・・・・。」
そう言うと守我は、本物の兵器の発射ボタンを押した・・・・・。

兵器が他国に向けて飛んでいく。

標的となった国は、レーダーによりその兵器を感知していた。
即座に打ち落としミサイルが発射される。
しかし守我の予想通り、その軌道は兵器から大きくずれていた。
このまま打ち落としミサイルがこの国に近づいたら、守我が二発目を発射する・・・・。
計画に狂いはなかった・・・はずだった。


大精霊様と種子蕾隊のメンバーは、とある岬に立っていた。
大精霊様は海を見つめ、その後ろの少し離れたところで全員が並んで立っている。
大精霊様が振り返ると、全員を見つめた。
「さぁ、皆の者。別れの時が来たの。・・・桜。」
「はい。」
桜が一歩前に出た。
「そなたは、子供のころから誰よりも思いやりをもち、決断力に長けている。じゃから、そなたをわしの後継者に選んだのじゃ。大精霊として、この国の長として・・・妖精界を、頼んだぞ。」
「・・・・・はい。」
頷くと、後ろに下がる桜。
「有水。」
「はい。」
一歩前に出る有水。有水はもう泣いていなかった。力強く、大精霊様を見据えていた。
「学生の頃から、責任感が強く、しっかりしていたのがそなたじゃった。・・・氷河のことで、もう自分を責めるでない。・・・未来の若者を頼んだぞ。今のそなたは、海起のお父様と匹敵する、偉大な精霊じゃ。」
「分かりました。」
頭を下げて、静かに下がる有水。
「栄枝」
「・・・・はい」
ゆっくりと前に出る栄枝。
「穏やかで、部下想いで・・・・人の笑顔を見るのが大好きなのがそちじゃ。その優しさゆえ、部下のことで、氷河のことで・・・自分を責め続けていた。もうよいのじゃよ。そちは、多くの妖精に慕われておる。その優しい笑顔を、絶やさないでおくれ。」
「・・・・・・ありがとうございます。」
またゆっくりと栄枝は後ろに下がった。
「蒲公英。」
「はい・・・。」
「そなたは、誰よりも人のサポートがうまい。いつでも常に,後ろを向けばそちが居てくれたの。・・・これからも、大切な人を支え、共に生きていくのじゃ・・・。」
「・・・・」
無言で泣きながら頷く蒲公英。
「水仙。」
水仙は無言で前に出た。
「表舞台で活躍することは少ないそちじゃが、いつも裏で走り回り、必要な情報は必ずそろえてくれていたの。裏方がしっかりとしていてくれるから、皆行動できるのじゃよ。」
水仙は黙って頭を下げた。
「蜜柑。」
「はい!!」
「精霊の中で誰よりも小柄で、走り回っていてくれたの。そなたの明るい笑顔は、妖精界の誇りじゃ。」
「ありがとうございます!」
蜜柑は泣きながら、だがにっこりと微笑んだ。
「海起。」
「はい。」
しっかりした足取りで、前に進む海起。
「いつも真面目で、周りをしっかり観察しておる。精霊の器の持ち主じゃ。・・・自分に素直になり、しっかり進んでいくのじゃよ。」
「はい。」
海起は大精霊様に、少しだけ微笑んだ。

「鈴蘭。」
「・・・はい。」
鈴蘭は静かに泣いていた。
「学生時代から礼儀正しく、努力家で、しっかりと自分の意思をもっていたの。辛い思いを経験しながらも、よくここまで頑張ってくれたの。」
微笑む大精霊様。
「大精霊様・・・わたくし、もう二度とあんな馬鹿な考えはおこしません・・・。必ず、人間と共存します」
頷く大精霊様。
「再雪。」
「はい。」
再雪が前に進む。
「おとなしく見えるそなたじゃが、夏美と本当によく喧嘩してたのう・・・。それが今や、雪の妖精をまとめるチームリーダーじゃ。よく成長してくれたの。」
「・・・・はい。」
再雪の目が潤む。
そのまま再雪は後ろへ下がった。
「睡蓮。」
「はい」
睡蓮が飛び上がった。
「種子蕾隊の中で一番小さく、いつも飛び回って働いてくれたの。水仙のサポートができるのは、そちしかおらんぞ。自信を持つのじゃ。」
「ありがとうございます。」
飛びながら下がる睡蓮。
「大樹。」
「はい。」
「学生時代から成績優秀で、頭の回転が速く、皆の司令塔だったの。苦手な実技も努力で乗り越えてきた。妖精という自由な立場を好み、自分らしく生きておるの。そちはそのままでいいのじゃよ。」
歯を食いしばり、頭を下げる大樹。
「水湖。」
水湖も無言で進み出た。
「学生時代、テストなどの勉強面ではいつも大樹にサポートしてもらっておったの。じゃが、幻術の腕は誰よりもよい。この戦争を止められる架け橋になるのは、そなたしかいないのじゃよ。」
「・・・・頑張ります。」
後ろに下がる水湖。
「草多。」
「はい。」
しっかり前を見て進む草多。
「大切なものを守るため、必死になれるそなたじゃ。木葉と樹里のことは、そなたのせいではないぞ。・・・・これからは、冬美のサポートとして大聖堂で働くのじゃ。・・・いつも影で頑張っていたそなたじゃから、今から、幸せになるのじゃよ。」
しっかりと、草多は頷いた。
「春美。」
「・・・・はい。」
春美は涙を流していた。
「おっとりしていて、皆の仲介役を見事に務めてくれておる。そちにはしっかりと力がある。学生時代から自信のないそなたじゃが、自分に自信を持つのじゃ。そなたは十分に、教師になれる器をもっておるよ。」
春美は大精霊様を見た。そして、ゆっくりと頷いた。
「夏美。」
「はい。」
「学生時代から元気がよく、よく喧嘩もしておったが、きちんと仲直りができる子じゃったの。冷静に話し合いができるそちは、今からどんどん伸びていくでな。」
「・・・頑張ります・・・。」
夏美はそう言うと涙を流した。
「・・・・・秋美。」
「・・・・・・なんだよ。」
秋美も泣いていた。
「学生時代から冬美と共に一番手を掛けさせられたのう。それが今では・・・しっかりと後輩のサポートをして、立派に秋の妖精を努めておる。そちの前向きで行動力があるところは、何にも変えがたい大事なものじゃ。・・・・わしが亡き後も、それだけは忘れるでないぞ。」
大精霊様が微笑んだ。
「じじい・・・・本当にごめん。あたい・・・あたい、絶対にじじいに恥ずかしくないように頑張るから。」
大精霊様が、優しく頷いた。
「冬美。」
「はい。」
「妖精の中でずば抜けて力が強い反面、よく学校も仕事もさぼっておったのう。そんなそちも今日から精霊として、皆をまとめていくのじゃ。わしが選んだ、立派な精霊じゃ。ジェネレーションのことで、もう悩むでない。・・・草多との結婚式に出てやれなくてすまなかったの・・・。」
冬美はしっかりと大精霊様を見て、頭を下げた。
そして後ろに下がる。

大精霊様がまた全員を見つめた。
そしてそのまま後ろを向き、海を見つめた。

最新兵器が、流れ星のように空の彼方へ消えていく・・・・・。

大精霊様は、静かに目を閉じた。


それは,妖精達も精霊達も聞いたことのない呪文だった。
古い妖精界の言葉で聞き取ることはできないが,暖かさが妖精・精霊達を包み込んだ。
妖精・精霊達の頭の中に,キャンドルの効果によって大精霊様の気持ちが,大精霊様の生きてきた人生が流れ込んでくる。

全員,静かに目を閉じてその感覚に体を預ける。

全員の頭の中に,今の人間界からは想像もできないほどの自然が浮かび上がってきた。
そのまま,その場に居るかのような感覚におちいっていく。

「はるか昔,わしがまだ子供だったころ・・・。人間界は,表世界。妖精界は裏世界と呼ばれていた。人間はまだ少なく,表世界には自然が栄え,わしらは皆幸せであった。」

大精霊様の声が聞こえる。

「いつの間にか,人間の数は増えていき,長い時間をかけ自然は減っていった。我々もいつのまにか人間界・妖精界という言葉を使うようになっていた。」

大精霊様の少し切なく悲しい気持ちが,種子蕾隊の心に流れ込んだ。

「そんな中,わしは木と共に生きる中で幾多もの経験をし,精霊となった。その頃から年々多くの仲間が死んでいった。辛かったのう・・・悲しかったのう・・・。じゃが,そんなわしらの心を慰め,癒し,新たなる希望の力を与えてくれたのが新たな命の誕生であった。」

子供の頃の桜,有水,栄枝達の姿が,頭に浮かぶ。
桜の閉じた目から,涙が流れ出た。

「新たな命は,すくすくと成長し,妖精学校へ行き,学び,新たな道へと進んでいった。多くの妖精・精霊達が死んでいく反面,また多くの命が生まれ,育っていった。」

秋美達の姿も,頭の中で映し出された。

「わしは,この長い年月,多くのことを見てきた。多くのことを学んできた。苦しみも,悲しみも,喜びも,すべてが今のわしであるために必要なものであった。後悔も多く,今になっても悔やまれることは数知れない。今,ついに終わりを迎える。」

大精霊様の気持ちは穏やかだった。

「妖精も,人間も,生き物はすべて・・・始まりがあり,終わりがある。年月は違うが,必ず死を迎える。生きることは,それだけでも大きな意味がある。終わりがあることを知っているからこそ,生きる意味を問い,深く生きることができるのじゃ。」

大精霊様の言葉が終わった。
種子蕾隊が目を開けると,大精霊様はまた古い言葉の呪文を唱えていた。

全員,大精霊様から少しも目をそらさなかった。
自分たちが生まれ,育っていくところをいつも笑顔で見守り,後ろから支えていてくれていた大精霊様。
今,その命は終わろうとしている。
大精霊様の心,意志,行動はすべて次の世代へと引き継がれていく。
何よりの大精霊様の生きた証が,次の世代の妖精達である。
今からは,自分たちが大精霊様のように下の世代を育み,世界を作っていかなくてはならない。


長く,ゆっくりとした呪文が終わった。


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