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ロリータ少女と戦姫
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戦国時代も悪くない?
次の日、私は城の人たちへのお披露目ということで昨日より豪華な着物を着せられていた。
動きにくいし、重たいけれど、すごく綺麗で何度も鏡を見直した。髪の毛も時代に合わせてゆってもらい、化粧もしてもらう。
コスプレをしているようで楽しかったけれど、これは現実で今から私は姫としてしばらく生きていかないといけないんだ・・・。
そう思ったらまた気持ちが落ち込んだ。
私は呑気なのが幸いしたのか、昨日から楽しんだり落ち込んだり忙しい。
そのまま聖花さんと女中さんに連れられて、私は大きな部屋の前に連れていかれた。
「志乃様、緊張なさらず、堂々と立っていてください。受け答えはわたくしがいたします。どうか心配なさらずに。」
聖花さんが微笑んで言った。
私はうなずくと深呼吸した。
扉が開かれた。
・・・・時代劇みたい・・・・。
そんなことを考えてしまった。
みんな昔の服・・・この時代の服を着ていて頭を下げて座っている。
私は聖花さんに促されて、家臣さんたちの前を歩いた。
そのまま繁蔵様の隣に座らされた。
反対側には美弥姫がいた。
美弥姫は威厳がすごくて、とても怖い感じがして、昨日話した美弥姫と同一人物には思えなかった。
「皆、このおなごが我が側室に入った志乃だ。志乃はここから遠くの国からやってきた。この場所で分からないことも多いだろう。よくしてやってくれ。」
繁蔵様が笑顔で言った。
「ははっ!」
家臣さんたちが一斉に言って頭を低くした。
すごい迫力・・・・・。
私は戸惑ったけれど、じっと座っておとなしくしていた。
「お疲れさまでした。この後はどうしますか?お休みになられますか?」
部屋を出た後、聖花さんに聞かれた。
どうすると言われても・・・どうしよう・・・・。
迷っていると、美弥姫の声がした。
「志乃姫!今から新しい着物を仕立ててもらうんだ。お前も一緒に来ないか?好きな柄に、お針子に言えば飾りもつけてもらえるだろう。」
美弥姫の言葉に私の胸が高鳴った。
楽しそう!
「うん。連れて行って。」
私はすぐに笑って美弥姫に言った。
聖花さんは部屋に戻っていき、私は美弥姫と一緒にお針子さんたちがいる部屋に向かった。
部屋に入るとすぐ、私の目の前には色とりどりの布が並べられた。
「わぁ・・・。」
思わず感嘆の声がもれる。
「すごいだろう?これも繁蔵様の手腕のおかげだ。繁蔵様あってこそ、私たちの生活が成り立ち、城下の者たちの生活が潤うのだ。」
美弥姫が得意げに言った。
「まぁ、美弥様、それに志乃様ですね。とてもお可愛い。私たちお針子が着物の作り甲斐があります。どうぞ、着物に関しては何なりとお申し付けください。」
お針子さんの一人が言った。
私はまず布から見せてもらった。
どれも色鮮やかで、現代のような派手さはないけれどそれ以上になんだか深い柄をしていて、全部が可愛くて綺麗でなかなか決まらない。
「私はこの布と、あとこの布の二枚を足してくれ。それから、帯はこの布がいいな。戦に着ていくものだ。強くつくってくれ。丈もいつも通り短く。動きやすいのが一番だ。そうだな・・・後は目立つ髪飾りがあればいいんだが・・・・。」
美弥姫はテキパキとお針子さんに指示をだしている。
それにしても美弥姫はすごいな・・・・。
布を二つ足してもらうなんて、私には想像できなかった。
奇抜。異端児・・・・。
現代の私と美弥姫は、同じような立場なのかもしれない。
だけど違うのは、美弥姫はお姫様で強くて誰にも文句を言われていないように見える。
私は・・・・・。
「志乃様?」
女中さんの言葉で我に返った私は、また布を眺めた。
不安だったけれど、並べられた布を見ていると元気が出てきて、私は深く考えずに青色の鮮やかな布で着物をつくってもらうことにしたのだった。
「志乃姫、私の公務は今日、あまりない。城下へ連れて行ってやろう。」
美弥姫が私の手を引きながら言った。
「うん。ありがとう。」
私は美弥姫に笑いかけるとその後を追った。
「美弥様、志乃様、城下へ行かれるなら籠を用意・・・・・。」
話を聞いていた家臣さんが言ったけれど、美弥姫がそれを遮った。
「いい。二人で歩いていく。志乃姫も大丈夫だよな?」
「うん・・・じゃなくて・・・・・・はい。大丈夫です。」
私はどんな顔をしていいのか分からず、うつむきながら言った。
「それは失礼しました。」
家臣さんが下がる。
「じゃあ行くぞ!」
美弥姫について、私は城を出た。
「すごい・・・・。本当に時代劇だ・・・・。」
城下に連れてきてもらった私が一番に思ったことだった。
ビルもない。マンションもない。おしゃれなお店もない。
だけど人がにぎわっていて、あちこちに露店が出ている。
子供たちも走り回っていて、とても賑やかだ。
私はうきうきしながら、美弥姫の後ろをついて歩いた。
私が目をとめた露店を、美弥姫も一緒に見てくれる。
「美弥姫様!」
「美弥姫様よ!」
「美弥姫様、今回の戦でも戦果をあげられたと聞きました!」
街の人々が、美弥姫に近づいて声をかけてきた。
「あぁ!ありがとう。これも全て繁蔵様のはからいのもと。この城下は我が桜野城が必ず安泰にさせることを約束しよう。」
「さすが美弥姫様!」
城下の人たちが興奮したように言った。
すごいな・・・美弥姫、人気なんだ・・・・。
「そうだ。このものを紹介しておこう。繁蔵様の側室に入った志乃姫だ。皆、仲良くしてやってくれ。志乃姫は遠くの国からきた。勝手がわからないだろうから、よろしく頼む。」
美弥姫の言葉に私は慌てて頭を下げる。
「志乃姫様、なんて可愛いお方!」
「いつでもうちの店にいらしてください!」
人々に声をかけられて・・・私は正直少し優越感に浸ってしまった。
まるで夢の世界のようで・・・。
その後、美弥姫が好きだという飾り物を売っている露店をのぞいて、私たちはお城へと戻った。
お城に戻った私たちは、私の部屋でまた喋っていた。
すると、どこからか林之助さんが現れた。
「美弥様、正道様から文を預かっております。」
「分かった。」
美弥姫は文を受け取ると、その場で開いて読み始めた。
「林之助、確かに受け取ったと伝えてくれ。」
「御意。」
そういうと林之助さんはまた姿を消した。
「志乃姫、正道からだ。何かわかったのかもしれない。今日の夜、あの天狗岩の前で待つと書かれていた。」
「本当!?」
私は思わず身を乗り出した。
もしかして、帰る方法が見つかったのかな?
だけど・・・・。
今日の城下町の出来事を思い出す。
ここでは、こんなきれいな着物を着られて、城下町の人たちにも歓迎された。
正直、今は不安よりも楽しさの方が勝っていた。
「志乃姫、何を考え込んでいる?」
「あ・・・あの・・・もし帰れたらどうしようかなって・・・・。」
「故郷に帰るんだ。嬉しいだろう。」
「うん・・・でも・・・私、ここで側室をしているほうが楽しいかもしれない・・・。」
「なぜだ?」
不思議そうにする美弥姫。
私は、美弥姫に本音を言うことにした。
「あのね・・・美弥姫は、奇抜で異端児って呼ばれているって言ってたよね?私も、故郷で同じようなことを言われているんだ。奇抜で変わった子って・・・・。私、ただ自分が好きな恰好をしてるだけなのに・・・。それにね、将来のことも決めてないし・・・。」
「将来?」
「うん。自分が何になりたいのか、何がしたいのか分からないの。」
「おなごが、なりたいものを決められるのか?」
「えっ・・・・・?」
美弥姫の言葉に驚いて、私は美弥姫を見た。
「・・・・この時代は将来とか考えないの・・・?」
「そうだな・・・。皆生まれながらの家業がある。特におなごは自分で将来を決めようにも選択肢は少ない。私は繁蔵様にたまたま見染められた、例外中の例外だ。」
「そうなんだ・・・・。」
私はどう反応していいか分からず、下を向いた。
「お前も、奇抜と言われているのか。」
「うん・・・・。」
「そうか。いつの時代になっても、奇抜とは生きにくいものなのだな。」
「・・・美弥姫も、生きにくいの・・・?」
「私は繁蔵様に命を捧げた身。生きやすさなど求めていない。だが、女の私が戦に出向き戦果をあげ、繁蔵様の悲願を叶えようとしていることに反発するもののほうが多い。」
「どうして・・・?みんなあんなに美弥姫を慕って・・・・。」
「城下のものはな。だが、家臣たちの半数は繁蔵様のやり方に納得していないだろう。」
「そんな・・・・。」
「繁蔵様は戦がお嫌いでな。今ある領地である城下が栄えればいいと思っていらっしゃる。だが、領地を広げ桜野城の名をあげたいと思うものが多いのは当然と言えよう。しかし私は繁蔵様のそんなお心を慕っている。それに、奇抜と呼ばれても私が好きななりをして女でありながら戦に出向けるのも、全て繁蔵様のおかげだ。」
「・・・・・・。」
私はまた何も言えなくなった。
現代とここはやっぱり違いすぎる。
だけど、美弥姫は反発が多い中繁蔵様のために想いを貫き通している。それに自分の好きな恰好もしている。
本当に、心が強い人だな・・・私なんて、お母さんと加奈にちょっと言われただけでへこんじゃうのに・・・。
加奈・・・・・。
「そういえば、美弥様と正道さんってどういう関係なの?」
加奈のことを思いだしたら、ずっと気になっていた疑問も思い出した。
「正道と?正道は敵将の一人だ。」
「敵・・・・。でも、仲がよさそうに見えたよ・・・?」
「そうか?そういう志乃姫には、国に友はいるのか?」
「うん!加奈っていう親友がいるよ。」
「昔からの友か?」
「そうだね。幼馴染だよ。」
「同じ家のものか?」
「同じ家・・・・・・?違うよ。だって私は桜野で加奈は梅田だから・・・・・・あっ!」
思わず言ってしまった!
ややこしいことになりそうだから、苗字は言わなかったのに・・・!
「桜野・・・?梅田・・・・?」
美弥姫が不思議そうな顔をしている。
これは正直に言うしかないか・・・・。
「えっと・・・私たちの時代には女にも苗字があって・・・・。私は桜野志乃で、親友は梅田加奈っていうの・・・。でも、ここのお城と関係しているかは分からないよ。」
「ほう。面白いな。おなごに家の名がつけられるのか。」
「うん。私たちの時代ではそれが当り前だよ。」
「そうか・・・。しかし家同士の争いが大変ではないのか?」
「家同士の争い・・・・?」
ドラマとかでよく見る、お金持ちの人とかの争いのことかな?
あと嫁姑問題とか?
「・・・・私たちには家の争いなんてないかな・・・。あ、でも加奈とは喧嘩はしょっちゅうだよ。」
「家の争いがないのか!しかし、お前の時代では仲たがいをしても友でいられるのか?」
「えっ・・・・うん・・・・・・。」
「切りあうことはないのか?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことしたら犯罪だよ!」
「じゃあ、仲たがいしたらどうなるんだ?」
「それは・・・・普通に謝って仲直りして終わりだけど・・・・。」
「何!?仲たがいしても、謝るだけで元の関係に戻れるのか?」
「うん・・・・この時代は違うの・・・?」
私の言葉に、初めて美弥姫の顔が曇った。
「そうだな・・・・。この時代、主君が全てだ。」
そう言った美弥姫の顔は、どこか遠くを見つめていた。
夜になって、私と美弥姫は天狗岩に向かった。
美弥姫の手には本物の刃がついたなぎなた。
話に行くんじゃないの・・・・?
そう思ったけれど、何も言えなかった。
天狗岩の前にはすでに正道さんがいた。
すると、美弥姫がなぎなたをかまえ一直線に正道さんにむかう。
「正道、覚悟!」
美弥姫がなぎなたを振った。
それを刀で受け止める正道さん。
二人はまた刃を交えた。
昨日もそうだった。
二人は本気だ。
話に来たんじゃないの!?
私はその場に立ちすくんだ。
「正道、何かわかったそうだな?」
なぎなたを振りながら美弥姫が言った。
「あぁ。過去の天狗岩についての文献を片っ端から読んだ。」
なぎなたを払いながら正道さんが言った。
「この天狗岩は、元々神隠しばかりしていた天狗を陰陽師が封印した岩らしい。しかし封印した後も年に何度かは神隠しが絶えない場所だそうだ。しかし志乃のように連れてこられたという人物は一人もいなかった。」
「そうか。では神隠しから帰ってきたものは?」
「それなんだが、何人もの子供が同じ場所で見つかっている。封社山(ふうしゃざん)・・・通称、あやかしの山と呼ばれるあの山の中だ。」
「なに!?あの山は山全体に結界が張られ、多くのあやかしを外に出さないようにしていると聞いているが・・・。それに、人は誰も近づかないだろう。」
二人は真面目な話をしながらも刃をまじえている。
いったい、この二人はなんなの・・・?
「あの山に行けば何かわかるのではと思ったが、なんせ相手はあやかし。陰陽師の手配をしようかとも思ったが、俺たちの目的は志乃を帰すこと・・・。それは陰陽師の仕事ではないだろう。だが行く価値はあるのではないか。どう思う、美弥。」
正道さん、こんな短期間でそんなに調べてくれたんだ・・・。
「そうだな。行かねば何もわかるまい。しかし、我らの城は戦が迫っている。桜野と梅田は協定を結んでいる。今回の戦は回避できないものだ。そうだろう?」
「その通りだ。だからこそ、早く志乃を帰してやらないと。俺たちは互いの主君の為に命を捧げている。だが志乃は違う。ここで命を落とさせるわけにはいかないだろう。」
「さすが正道、話が分かるやつだな。で、封社山にはいつ行けばいい?」
「焦るな。この戦の軍議に区切りがつくまでは難しいだろう。それに、俺も同行させてもらう。短い人生の中、こんなに面白いことがあるとは思わなかった。」
正道さんの言葉に、二人の手が止まった。
「そうだな。繁蔵様の為戦いそして散る。それが私、戦姫の美弥だ。だが志乃姫の話は、聞いていて飽きぬ。まるで私も友を得たようだ。私の人生が色濃くなったことに間違いはない。」
美弥姫の言葉に正道さんがふっと笑った。そして私を見る。
「ということだ。封社山に行く日取りは俺が決める。それまでは美弥のもとで過ごしてくれ。」
「あの・・・その山はどこに・・・?」
「後ろを向いてみろ。ここから見える、あの大きな山だ。」
正道さんに言われるがまま私は後ろを向いた。
山はすぐに分かった。とても大きくて、夜だからか不気味に木が揺れている。
でも・・・。
私は現代を思い出していた。
現代では、あの山はなくなっている・・・・・。
ここから現代で見える景色。
それは開発されて住宅地になった街並みだ。
ショッピングモールもあって、加奈とよく遊びに行く。
・・・・・・・。
ここから見えるお城、山、木・・・。
確かにここにあるのに、未来ではなんの面影もなくなってしまうんだ・・・。
私は黙って山を見つめていた。
加奈は、桜野城と梅田城は立派なお城だったけれどこの時代では小さかったと言った。
だけど私にはとても大きくて・・・・。
沢山の人がいて・・・・・。
「志乃姫、帰るぞ。」
美弥姫の声に我に返った私は、慌てて正道さんに頭を下げると美弥姫を追いかけた。
次の日、私は城の人たちへのお披露目ということで昨日より豪華な着物を着せられていた。
動きにくいし、重たいけれど、すごく綺麗で何度も鏡を見直した。髪の毛も時代に合わせてゆってもらい、化粧もしてもらう。
コスプレをしているようで楽しかったけれど、これは現実で今から私は姫としてしばらく生きていかないといけないんだ・・・。
そう思ったらまた気持ちが落ち込んだ。
私は呑気なのが幸いしたのか、昨日から楽しんだり落ち込んだり忙しい。
そのまま聖花さんと女中さんに連れられて、私は大きな部屋の前に連れていかれた。
「志乃様、緊張なさらず、堂々と立っていてください。受け答えはわたくしがいたします。どうか心配なさらずに。」
聖花さんが微笑んで言った。
私はうなずくと深呼吸した。
扉が開かれた。
・・・・時代劇みたい・・・・。
そんなことを考えてしまった。
みんな昔の服・・・この時代の服を着ていて頭を下げて座っている。
私は聖花さんに促されて、家臣さんたちの前を歩いた。
そのまま繁蔵様の隣に座らされた。
反対側には美弥姫がいた。
美弥姫は威厳がすごくて、とても怖い感じがして、昨日話した美弥姫と同一人物には思えなかった。
「皆、このおなごが我が側室に入った志乃だ。志乃はここから遠くの国からやってきた。この場所で分からないことも多いだろう。よくしてやってくれ。」
繁蔵様が笑顔で言った。
「ははっ!」
家臣さんたちが一斉に言って頭を低くした。
すごい迫力・・・・・。
私は戸惑ったけれど、じっと座っておとなしくしていた。
「お疲れさまでした。この後はどうしますか?お休みになられますか?」
部屋を出た後、聖花さんに聞かれた。
どうすると言われても・・・どうしよう・・・・。
迷っていると、美弥姫の声がした。
「志乃姫!今から新しい着物を仕立ててもらうんだ。お前も一緒に来ないか?好きな柄に、お針子に言えば飾りもつけてもらえるだろう。」
美弥姫の言葉に私の胸が高鳴った。
楽しそう!
「うん。連れて行って。」
私はすぐに笑って美弥姫に言った。
聖花さんは部屋に戻っていき、私は美弥姫と一緒にお針子さんたちがいる部屋に向かった。
部屋に入るとすぐ、私の目の前には色とりどりの布が並べられた。
「わぁ・・・。」
思わず感嘆の声がもれる。
「すごいだろう?これも繁蔵様の手腕のおかげだ。繁蔵様あってこそ、私たちの生活が成り立ち、城下の者たちの生活が潤うのだ。」
美弥姫が得意げに言った。
「まぁ、美弥様、それに志乃様ですね。とてもお可愛い。私たちお針子が着物の作り甲斐があります。どうぞ、着物に関しては何なりとお申し付けください。」
お針子さんの一人が言った。
私はまず布から見せてもらった。
どれも色鮮やかで、現代のような派手さはないけれどそれ以上になんだか深い柄をしていて、全部が可愛くて綺麗でなかなか決まらない。
「私はこの布と、あとこの布の二枚を足してくれ。それから、帯はこの布がいいな。戦に着ていくものだ。強くつくってくれ。丈もいつも通り短く。動きやすいのが一番だ。そうだな・・・後は目立つ髪飾りがあればいいんだが・・・・。」
美弥姫はテキパキとお針子さんに指示をだしている。
それにしても美弥姫はすごいな・・・・。
布を二つ足してもらうなんて、私には想像できなかった。
奇抜。異端児・・・・。
現代の私と美弥姫は、同じような立場なのかもしれない。
だけど違うのは、美弥姫はお姫様で強くて誰にも文句を言われていないように見える。
私は・・・・・。
「志乃様?」
女中さんの言葉で我に返った私は、また布を眺めた。
不安だったけれど、並べられた布を見ていると元気が出てきて、私は深く考えずに青色の鮮やかな布で着物をつくってもらうことにしたのだった。
「志乃姫、私の公務は今日、あまりない。城下へ連れて行ってやろう。」
美弥姫が私の手を引きながら言った。
「うん。ありがとう。」
私は美弥姫に笑いかけるとその後を追った。
「美弥様、志乃様、城下へ行かれるなら籠を用意・・・・・。」
話を聞いていた家臣さんが言ったけれど、美弥姫がそれを遮った。
「いい。二人で歩いていく。志乃姫も大丈夫だよな?」
「うん・・・じゃなくて・・・・・・はい。大丈夫です。」
私はどんな顔をしていいのか分からず、うつむきながら言った。
「それは失礼しました。」
家臣さんが下がる。
「じゃあ行くぞ!」
美弥姫について、私は城を出た。
「すごい・・・・。本当に時代劇だ・・・・。」
城下に連れてきてもらった私が一番に思ったことだった。
ビルもない。マンションもない。おしゃれなお店もない。
だけど人がにぎわっていて、あちこちに露店が出ている。
子供たちも走り回っていて、とても賑やかだ。
私はうきうきしながら、美弥姫の後ろをついて歩いた。
私が目をとめた露店を、美弥姫も一緒に見てくれる。
「美弥姫様!」
「美弥姫様よ!」
「美弥姫様、今回の戦でも戦果をあげられたと聞きました!」
街の人々が、美弥姫に近づいて声をかけてきた。
「あぁ!ありがとう。これも全て繁蔵様のはからいのもと。この城下は我が桜野城が必ず安泰にさせることを約束しよう。」
「さすが美弥姫様!」
城下の人たちが興奮したように言った。
すごいな・・・美弥姫、人気なんだ・・・・。
「そうだ。このものを紹介しておこう。繁蔵様の側室に入った志乃姫だ。皆、仲良くしてやってくれ。志乃姫は遠くの国からきた。勝手がわからないだろうから、よろしく頼む。」
美弥姫の言葉に私は慌てて頭を下げる。
「志乃姫様、なんて可愛いお方!」
「いつでもうちの店にいらしてください!」
人々に声をかけられて・・・私は正直少し優越感に浸ってしまった。
まるで夢の世界のようで・・・。
その後、美弥姫が好きだという飾り物を売っている露店をのぞいて、私たちはお城へと戻った。
お城に戻った私たちは、私の部屋でまた喋っていた。
すると、どこからか林之助さんが現れた。
「美弥様、正道様から文を預かっております。」
「分かった。」
美弥姫は文を受け取ると、その場で開いて読み始めた。
「林之助、確かに受け取ったと伝えてくれ。」
「御意。」
そういうと林之助さんはまた姿を消した。
「志乃姫、正道からだ。何かわかったのかもしれない。今日の夜、あの天狗岩の前で待つと書かれていた。」
「本当!?」
私は思わず身を乗り出した。
もしかして、帰る方法が見つかったのかな?
だけど・・・・。
今日の城下町の出来事を思い出す。
ここでは、こんなきれいな着物を着られて、城下町の人たちにも歓迎された。
正直、今は不安よりも楽しさの方が勝っていた。
「志乃姫、何を考え込んでいる?」
「あ・・・あの・・・もし帰れたらどうしようかなって・・・・。」
「故郷に帰るんだ。嬉しいだろう。」
「うん・・・でも・・・私、ここで側室をしているほうが楽しいかもしれない・・・。」
「なぜだ?」
不思議そうにする美弥姫。
私は、美弥姫に本音を言うことにした。
「あのね・・・美弥姫は、奇抜で異端児って呼ばれているって言ってたよね?私も、故郷で同じようなことを言われているんだ。奇抜で変わった子って・・・・。私、ただ自分が好きな恰好をしてるだけなのに・・・。それにね、将来のことも決めてないし・・・。」
「将来?」
「うん。自分が何になりたいのか、何がしたいのか分からないの。」
「おなごが、なりたいものを決められるのか?」
「えっ・・・・・?」
美弥姫の言葉に驚いて、私は美弥姫を見た。
「・・・・この時代は将来とか考えないの・・・?」
「そうだな・・・。皆生まれながらの家業がある。特におなごは自分で将来を決めようにも選択肢は少ない。私は繁蔵様にたまたま見染められた、例外中の例外だ。」
「そうなんだ・・・・。」
私はどう反応していいか分からず、下を向いた。
「お前も、奇抜と言われているのか。」
「うん・・・・。」
「そうか。いつの時代になっても、奇抜とは生きにくいものなのだな。」
「・・・美弥姫も、生きにくいの・・・?」
「私は繁蔵様に命を捧げた身。生きやすさなど求めていない。だが、女の私が戦に出向き戦果をあげ、繁蔵様の悲願を叶えようとしていることに反発するもののほうが多い。」
「どうして・・・?みんなあんなに美弥姫を慕って・・・・。」
「城下のものはな。だが、家臣たちの半数は繁蔵様のやり方に納得していないだろう。」
「そんな・・・・。」
「繁蔵様は戦がお嫌いでな。今ある領地である城下が栄えればいいと思っていらっしゃる。だが、領地を広げ桜野城の名をあげたいと思うものが多いのは当然と言えよう。しかし私は繁蔵様のそんなお心を慕っている。それに、奇抜と呼ばれても私が好きななりをして女でありながら戦に出向けるのも、全て繁蔵様のおかげだ。」
「・・・・・・。」
私はまた何も言えなくなった。
現代とここはやっぱり違いすぎる。
だけど、美弥姫は反発が多い中繁蔵様のために想いを貫き通している。それに自分の好きな恰好もしている。
本当に、心が強い人だな・・・私なんて、お母さんと加奈にちょっと言われただけでへこんじゃうのに・・・。
加奈・・・・・。
「そういえば、美弥様と正道さんってどういう関係なの?」
加奈のことを思いだしたら、ずっと気になっていた疑問も思い出した。
「正道と?正道は敵将の一人だ。」
「敵・・・・。でも、仲がよさそうに見えたよ・・・?」
「そうか?そういう志乃姫には、国に友はいるのか?」
「うん!加奈っていう親友がいるよ。」
「昔からの友か?」
「そうだね。幼馴染だよ。」
「同じ家のものか?」
「同じ家・・・・・・?違うよ。だって私は桜野で加奈は梅田だから・・・・・・あっ!」
思わず言ってしまった!
ややこしいことになりそうだから、苗字は言わなかったのに・・・!
「桜野・・・?梅田・・・・?」
美弥姫が不思議そうな顔をしている。
これは正直に言うしかないか・・・・。
「えっと・・・私たちの時代には女にも苗字があって・・・・。私は桜野志乃で、親友は梅田加奈っていうの・・・。でも、ここのお城と関係しているかは分からないよ。」
「ほう。面白いな。おなごに家の名がつけられるのか。」
「うん。私たちの時代ではそれが当り前だよ。」
「そうか・・・。しかし家同士の争いが大変ではないのか?」
「家同士の争い・・・・?」
ドラマとかでよく見る、お金持ちの人とかの争いのことかな?
あと嫁姑問題とか?
「・・・・私たちには家の争いなんてないかな・・・。あ、でも加奈とは喧嘩はしょっちゅうだよ。」
「家の争いがないのか!しかし、お前の時代では仲たがいをしても友でいられるのか?」
「えっ・・・・うん・・・・・・。」
「切りあうことはないのか?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことしたら犯罪だよ!」
「じゃあ、仲たがいしたらどうなるんだ?」
「それは・・・・普通に謝って仲直りして終わりだけど・・・・。」
「何!?仲たがいしても、謝るだけで元の関係に戻れるのか?」
「うん・・・・この時代は違うの・・・?」
私の言葉に、初めて美弥姫の顔が曇った。
「そうだな・・・・。この時代、主君が全てだ。」
そう言った美弥姫の顔は、どこか遠くを見つめていた。
夜になって、私と美弥姫は天狗岩に向かった。
美弥姫の手には本物の刃がついたなぎなた。
話に行くんじゃないの・・・・?
そう思ったけれど、何も言えなかった。
天狗岩の前にはすでに正道さんがいた。
すると、美弥姫がなぎなたをかまえ一直線に正道さんにむかう。
「正道、覚悟!」
美弥姫がなぎなたを振った。
それを刀で受け止める正道さん。
二人はまた刃を交えた。
昨日もそうだった。
二人は本気だ。
話に来たんじゃないの!?
私はその場に立ちすくんだ。
「正道、何かわかったそうだな?」
なぎなたを振りながら美弥姫が言った。
「あぁ。過去の天狗岩についての文献を片っ端から読んだ。」
なぎなたを払いながら正道さんが言った。
「この天狗岩は、元々神隠しばかりしていた天狗を陰陽師が封印した岩らしい。しかし封印した後も年に何度かは神隠しが絶えない場所だそうだ。しかし志乃のように連れてこられたという人物は一人もいなかった。」
「そうか。では神隠しから帰ってきたものは?」
「それなんだが、何人もの子供が同じ場所で見つかっている。封社山(ふうしゃざん)・・・通称、あやかしの山と呼ばれるあの山の中だ。」
「なに!?あの山は山全体に結界が張られ、多くのあやかしを外に出さないようにしていると聞いているが・・・。それに、人は誰も近づかないだろう。」
二人は真面目な話をしながらも刃をまじえている。
いったい、この二人はなんなの・・・?
「あの山に行けば何かわかるのではと思ったが、なんせ相手はあやかし。陰陽師の手配をしようかとも思ったが、俺たちの目的は志乃を帰すこと・・・。それは陰陽師の仕事ではないだろう。だが行く価値はあるのではないか。どう思う、美弥。」
正道さん、こんな短期間でそんなに調べてくれたんだ・・・。
「そうだな。行かねば何もわかるまい。しかし、我らの城は戦が迫っている。桜野と梅田は協定を結んでいる。今回の戦は回避できないものだ。そうだろう?」
「その通りだ。だからこそ、早く志乃を帰してやらないと。俺たちは互いの主君の為に命を捧げている。だが志乃は違う。ここで命を落とさせるわけにはいかないだろう。」
「さすが正道、話が分かるやつだな。で、封社山にはいつ行けばいい?」
「焦るな。この戦の軍議に区切りがつくまでは難しいだろう。それに、俺も同行させてもらう。短い人生の中、こんなに面白いことがあるとは思わなかった。」
正道さんの言葉に、二人の手が止まった。
「そうだな。繁蔵様の為戦いそして散る。それが私、戦姫の美弥だ。だが志乃姫の話は、聞いていて飽きぬ。まるで私も友を得たようだ。私の人生が色濃くなったことに間違いはない。」
美弥姫の言葉に正道さんがふっと笑った。そして私を見る。
「ということだ。封社山に行く日取りは俺が決める。それまでは美弥のもとで過ごしてくれ。」
「あの・・・その山はどこに・・・?」
「後ろを向いてみろ。ここから見える、あの大きな山だ。」
正道さんに言われるがまま私は後ろを向いた。
山はすぐに分かった。とても大きくて、夜だからか不気味に木が揺れている。
でも・・・。
私は現代を思い出していた。
現代では、あの山はなくなっている・・・・・。
ここから現代で見える景色。
それは開発されて住宅地になった街並みだ。
ショッピングモールもあって、加奈とよく遊びに行く。
・・・・・・・。
ここから見えるお城、山、木・・・。
確かにここにあるのに、未来ではなんの面影もなくなってしまうんだ・・・。
私は黙って山を見つめていた。
加奈は、桜野城と梅田城は立派なお城だったけれどこの時代では小さかったと言った。
だけど私にはとても大きくて・・・・。
沢山の人がいて・・・・・。
「志乃姫、帰るぞ。」
美弥姫の声に我に返った私は、慌てて正道さんに頭を下げると美弥姫を追いかけた。
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