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告げられた計画・最後の覚悟の呪文
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しおりを挟むそして今、俺は、俺たちのチームは、ここにいる。
「アマナ、今、皆にどこまで話しているんだい?」
シルクさんが、アマナに聞いた。
「テルさんが、魔力の泉を探している、ということまで話しました。レッド王国のラオンも、テルさんの歴史発掘で動きがあったら、世界が動き出すと知っています」
ハッキリとしたアマナの答えに、シルクさんが満足そうに頷いた。
「アマナ、本当にエミル姉様みたい。必要な時に、的確に情報を与えてる」
フユさんが、無表情で淡々とアマナに向かって言った。
アマナが、嬉しそうに微笑んで頭を下げた。
「じゃあ、話が早いね。俺たち発掘部隊は、魔力の泉を見つけたよ。そして、実用化もできるようにした。今は、グリーン王国に感づかれないように、発掘部隊で隠してある」
テルさんが、笑顔で言った。
俺たちは、黙って聞いた。
「最後の戦いについてだ。これは、あえてグリーン王国の定めを破り、無理矢理戦争を終わらせるという情報をグリーン王国に流して、ティーサ女王がどういう動きに出るか見る為に作ったシナリオだ。一切何も動かないということは考えられない。勿論、この日で戦争を終わらせるつもりだ。この資料を見てくれ」
シルクさんが、俺たちに資料をくれた。
「パターンをいくつか考えてある。上から順に、実現がしやすいものになっている。下に行くほど実現は困難になるが、双方が納得する形で戦争を終わらせるという、理想の形には近づく。どのパターンになってもすぐに動いて、指示が出せるようにしっかりと覚えておいてくれ」
俺は、資料に目を通していった。
凄い、こんなに何パターンも予測できるなんて……。
そして、最後の一番実現が困難で、だけれど一番双方が納得して戦争を終わらせられるであろうパターンを見たときに、俺の目が止まった。
「これは……本当に、グリーン王国が、こんなことをする可能性があるんですか」
思わず、声が出ていた。
俺を見たエミルさんが、起き上がった。
「深く愛を語るティーサ女王だ。そのパターンが起きても、私は驚かないね」
真剣に、エミルさんが俺を見た。その声には皮肉が混じっている。
「だけれど、もし、このパターンになったら……エミルさんとヨネルさんが危険すぎますよね。……それに……」
俺は言おうか戸惑った。皆が命がけで行うこのパターンに、私情を挟んで良いのか分からなくて。
「言ってみな。予想はできてるから」
エミルさんの言葉に、俺はエミルさんを真っ直ぐに見て言った。
「この、最後のパターンになった時、アマナの位置が危険すぎます」
「そうだな。だけれど、そのパターンになった時、この国に安全な場所なんてなくなるんだよ。その時に、アマナは隠れて守られていたいかのか?」
エミルさんの言葉に、アマナは首を振った。
「いいえ、私は、この場所でこの役目を果たしたいです」
俺は下を向いた。アマナならそう言うと分かっている。だけれど、アマナが危険にさらされるのは本当に嫌なんだ。
「コル、あなた、一緒に決闘したときに分かってくれたと思っていたんだけれど。まだ、私は守られるだけの存在だと思っているの?」
アマナが、少し怒ったように言った。
「違う……。アマナが誰よりも強いのも、その場での判断が一番できるのも知ってる。だけれど、もしこの最後のパターンになったら、俺はその時、アマナの側にいられない。それが嫌なだけなんだ……」
小さく、だけれど全員に聞こえる声で、俺は言った。
シルクさんが、俺を真っ直ぐに見ていた。
「俺も、嫌だよ。エミルをこんな危険に晒すのは」
「えっ……」
シルクさんの言葉に、俺は思わずシルクさんの顔を見た。
「ずっと思っていた。俺が代わりにもう一つの覚悟の魔法を使いたいと。その最後のパターンになった時も、エミルの役を俺がやりたいと。だけれど、俺は、エミルの覚悟を知っている。今、俺にできることは、誰も失うことなく、この戦争を双方が納得する形で終わらせるためには、誰を何処に配置するのがそれぞれの力を一番出せるのか、その場所を任せられる力があるのは誰だってことなんだ」
シルクさんが、真剣に俺を見ていた。そこには、エミルさんが持っている覚悟とは、また違う覚悟を感じた。
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