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告げられた計画・最後の覚悟の呪文
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しおりを挟むそして次の日の朝、俺たちは、部隊ごとに分かれて整列していた。
第一騎士団団長も、何も聞かされていないようだ。俺たちの横に、並んでいた。
特別騎士団の人たちが、歩いてきた。全員の緊張が高まる。
エミルさんが、全員の前に立った。
「今日は、重要な発表がある。ついに、この戦争が終わる時がきた」
エミルさんの言葉に、一気に周りがざわついた。
「五日後、我々ブルー王国と、レッド王国は、戦闘開始から、どちらかの国が敗北を認めるまで、戦闘を続ける。戦闘終了の鐘も、無視して良い。最後の戦いだ。昨日の夜、両国王は、これを承諾した。……つまり、どちらかの騎士団が、最後の一人になるまで戦いが続くと思え。勿論、死人が出てもおかしくない」
エミルさんが、厳しくて怖い声で言った。
騎士団員達は、誰もが怯えているのが分かった。
当たり前といえば当たり前だ。ほとんどの騎士団員は、入ったときから戦闘区域と戦闘時間が定められていて、死人も出ていないのだから。
「この最後の戦いにあたって、部隊の構成を少し変える。詳細は、後ほどシルクが作った資料を配付させる。ここでは重要な変更だけを伝える。今ここで、コルのチームを、第一騎士団、第一部隊へと昇格させる。理由は言わなくても分かるだろう。《赤い旋風》を倒さない限り、戦争は終わらない。今あいつとやり合えるのは、コルのチームだけだからだ。今日は通常通り戦闘が行われる。明日から、最後の戦いの日まで、戦闘自体が休みになることになった。自分の命が、最後の戦いの後にあると思うな。家族、恋人に会いたい者は会いに行け」
エミルさんはそう言うと、全員を見渡した。
そして、俺と目が合った。
「この後、コルのチームは、私たちとの会議に参加しろ。確実に《赤い疾風》を倒すために。分かったな」
「はい!」
俺たち四人は、同時に返事をした。
どちらかが、敗北になるまで戦闘が続くということに、違和感はあった。だってそれは、双方が納得する形なんかにならないはずだからだ。
だけれど、エミルさんが、特別騎士団の人たちが、意味もなく行動する人ではないことは、今までの行動でよく分かっていた。だから、俺はこの後の会議で、本当のことを教えてもらえると信じていた。だからこそ、動じずに返事ができた。
「じゃあ、後は、資料を見て最後の戦いについて把握しておくことと、……命をかける覚悟をしておけ。以上だ。コルのチームは全員着いてこい」
エミルさんが、俺たちに合図をすると、歩き出した。
俺たちは、特別騎士団の人たちについて行った。
後ろから、騎士団員のざわめきの声が聞こえてきた。最初は、このざわめきが気になってしょうがなかったけれど、今はなんとも思わない。俺は、進むだけだ。
特別騎士団専用寮に、俺たちは連れて行かれた。
初めて面談した場所とは違う場所に連れて行かれて、その扉の前の文字を見て驚いた。
特別騎士団談話室……ここは、特別騎士団の人たちのプライベートの部屋のはずだ。
ハヤテさんが、扉を開けてくれた。
そして、俺たちを中に入れてくれた。そこに居た人物に驚いた。
テルさんが、笑って待っていたのだ。
「ここら辺に座ってくつろいでくれ」
シルクさんが、指示をしてくれた。ブランとモカが、俺以上に緊張しているのが分かる。当たり前だ。二人は、特別騎士団の人全員と同時に対面したことはないのだから。
アマナだけが、緊張していなかった。そうだよな、アマナは一人で話しに来たことがあるのだから。
特別騎士団の人たちが次々に座る。
エミルさんが、座ったヨネルさんの膝を枕にして、ゴロリと横になった。
シルクさんが、その隣の椅子で、大きくため息をついた。
「エミル、後輩達の前くらいしっかりしてくれ」
「だってー、なんかアマナ以外の三人が緊張しているようだし?リラックスって大事じゃない」
シルクさんが、またため息をついて俺たちを見た。
「すまんな、エミルは気にしないでくれ」
俺たちは黙って頷いた。
「なんだか、初めて面談したときとは二人とも顔つきが全然違うねー。成長が見られて、お兄さん嬉しいなー」
ハヤテさんが穏やかに言った。
あの日が、遙か遠くに感じる。あの日から、本当に色々あった。あの後、ブランとモカと出会って、チームになった。ラオンに出会って、あの三人に再会した。もう一つの覚悟の魔法を教えてもらって、苦しくて、悩んだ。平和交渉に行って、ティーサ女王の言う愛が信じられなくなった。双方の納得する形で戦争を終わらせようとするエミルさんに、特別騎士団の人たちに、全力で協力したいと思った。
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