真の敵は愛にあり

Emi 松原

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終わらせる準備

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 次の日からも、俺は変わらず戦場に立ち、ラオンと刃を交えた。
 もうお互い、殺そうという意志はなかったから、周りに本気でやり合っていると思わせながら会話をすることが多くなった。
「なぁ、お前、知ってるか?俺たちの国の境界線に、遺跡発掘しているチームがあるらしいんだ。俺たち二つの国が、歴史解明という名目で、一緒に調査しているらしい」
 ラオンが、俺の胸に向かって短剣を振りかざしながら言った。
「あ、それなら、一度みんなで見に行ったよ。アマナが行きたいって言ってさ。あそこ、今、元特別騎士団の、エミルさんの実の弟のテルさんが指揮をとっているんだ。なんだかよくわからないけれど、凄かった。アマナは何か分かっていたみたいだけれど。それがどうかしたのかい?」
 俺はスピアを回してラオンの短剣をはじくと、そのまま喉元を狙った。
 周りから見たら、いつどちらかが死んでもおかしくないように見えるだろう。だけれど俺たちは、何度もぶつかる中で、お互いの力量をちゃんと分かっていた。
 俺のピアスの通信も、ブラン、モカ、アマナにしか聞こえないようにしているから、俺たちがこんな会話をしているなんて誰もわからないはずだ。
 ラオンが、俺のスピアを受け止めて、はじき返す。
「タツさんに聞いたんだよ。具体的に、これから俺たちはどうするのかって。そしたら、あの場所が一番の要になるから、今はその時に備えて作戦を立てている時期だって言われたんだ。あの場所から、タツさん達の納得する連絡が入ったら、一気に世界は動き出すって言われた」
 ラオンが飛び上がって、俺の頭に向かって蹴りをいれてくる。
 俺はしゃがんで避けると、スピアを回して柄でラオンの片足を止める。
「そういえば、テルさんが、新しい歴史をつくるとか言ってた気がする……」
 ラオンが空中で一回転するのを狙って、俺はスピアを振り上げた。
 ラオンの短剣がそれを受け止める。
「じゃあ、そいつから、その歴史を変える連絡が来たら、一気にことは動き出すってことだろうな。それまで俺たちはここで遊んでるしかないってか」
 俺はスピアを回して、ラオンの体を狙った。飛び上がって避けるラオン。
「遊んでるわけじゃないよ。こうやって情報交換ができるじゃないか」
 俺がそう言った瞬間、俺とラオンは同じ方向に吹き飛ばされた。
 エミルさんとタツさんの、大将戦が始まったのだ。
「もう一つの覚悟の魔法……あんなに毎日使っていたら、本当に死んでしまうんじゃないかな……?毎日使う必要なんて……」
 尻餅をついたまま、俺はつぶやいた。
「俺たち以外への、ただの見せものだろ。あれをやらないと、他の馬鹿達が、余計な詮索してくるんだろ」
 ラオンも俺の隣で膝を立てて座って大将戦を見ていた。
 俺は、複雑な気持ちになった。
 エミルさんとタツさんは、毎日あんなに負担がかかることをしているのに、俺たちには待つことしかできない。
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