真の敵は愛にあり

Emi 松原

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※※※


「エミル、ちょっと良いか?」
 特別騎士団専用寮の近くの芝生で、シルクがスタスタと歩くエミルに声をかけた。
「何?」
 エミルが振り返る。
 シルクは、何かを言いたそうに、下を向いた。
「その……体の調子はどうだ?」
「別に。いつもと変わらないけれど」
「やっぱり……俺がもう一つの覚悟の魔法を……」
 シルクの言葉に、エミルがいつものシルクを真似るように、ため息をついた。
「何度同じ話をさせるの?この魔法は、古代魔法をアレンジして新しく作り出したもの。使い続けるとどうなるか、私たちで試すしかない。万が一、私がこの魔法に飲まれるか、命を失ったとき、特別騎士団の団長になれるのはシルクしかいない。それに、エリノア姫とのやり取りも、私だからできるんだ。そんなことが言いたくて引き留めたのなら、これ以上何も言うことはないね」
 そう言うと、エミルはまた前を向き、歩き出そうとした。
「違う!そんなことが言いたいんじゃないんだ……」
 シルクの言葉に、エミルは背中を見せたまま立ち止まって聞いている。
「エミル……。俺、やっぱり……お前が好きだ。あの日、お前に別れを告げたことを本当に後悔している。どうか……少しでも俺に対して気持ちが残っていたら、やり直して欲しいと思っている!」
「あの日、私たちは終わったんだよ」
 エミルはシルクの方を向かずに、静かに言った。
「シルク……あなたは、私より、上流貴族という地位を選んだ。あなたの両親から強く言われたのは知ってる。あなたが逆らえる状況じゃなかったのも知ってる。あなたの夢は、上流貴族でないと叶えることが難しいことも知ってる。だけれど、あなたは、私を選ばなかった。それだけは事実。今更私を選んだところで、何が変わるの?」
「俺が、一番近くでお前を支えたい。ヨネルとは……いつだってお前を取り合ってきた。お前がどちらを選んでも、俺たちがお前を支えたい想いは変わらない」
 真っ直ぐとエミルの背中を見て、シルクが言った。
「それはそれは……私は良い人に愛してもらえたね。だけれど、私が望む形で戦争が終わったらどうするつもり?あなたはあなたの夢へと進む道に戻るはずでしょ」
「だが、そうなれば、お前もヨネルも、上流貴族に戻れるはずだ」
「私は上流貴族に戻る気なんてない」
 エミルが、少し冷たい声で言った。
「私は、特別騎士団団長を続ける。仮にこの場所がなくなったら、姉さんのいる村にヨネルと一緒に住む。上流貴族は……あなたの両親も含めて、戦争が始まったとき、地位を失うことを恐れて、私たちを生け贄のように国に差し出して遠ざけた。忘れない。あの時のあの人達の目。あんな場所に、戻ろうとは思わない」
 エミルが、歩き出そうとした。
「待ってくれ!これだけ……。お前の本音が聞きたい。お前は、もう俺を、親友以上に見ることはできないか!?」
 エミルは足を止めて、シルクの方を振り返った。
 向かい合わせになって、見つめ合う二人。
「私が、あなたと別れた辛さからという理由だけで、ヨネルの恋人になったと思う?私がなんの覚悟もなしに、ヨネルを受け入れたと思っているの?それが全ての答えよ」
 エミルの言葉に、シルクは何も言わない。
「特別騎士団庭園より召喚」
 エミルが魔方陣から白くて小さな花を取り出すと、シルクに向かって投げた。
 コブシ。花言葉は、《友愛》。
「私、庭園に寄って帰るから、先に寮に戻ってて」
 去って行くエミルに、シルクは何も言えず立ち尽くしていた。


 エミルは歩いて特別騎士団専用の庭園に行った。
「盗み聞きなんて、趣味わるーい!!」
 庭園に立っていたヨネルに、エミルが飛びついた。
「……お前を迎えに行ってただけだろ。俺だって好きで隠れたんじゃねぇよ」
 エミルを受け止めながら、ヨネルが少し乱暴な声で言った。
「なんか、不機嫌?」
 エミルが、ヨネルの首に両腕を回したまま、ヨネルの顔を覗き込んだ。
 ヨネルが、エミルを抱き上げる。
「……不機嫌にもなるだろ。俺を交渉に行かせないようにしてるのはお前だろ。黙って待ってるのも辛いんだぞ。心配もしてる。挙げ句の果てにシルクとのあんな会話を聞いたら不機嫌にならない方がおかしいだろ」
「だって……交渉にヨネルが行ったら、必ずあいつが何かに利用してくるじゃん。そんなことされたら、私我慢できないよ」
 エミルがムスッとした顔でヨネルを見た。
「それに、シルクとの会話は私から持ち出した話題じゃないしー」
 エミルが頬を膨らまして、ヨネルの青い瞳を見つめた。
「……分かってるよ。お前の想いも、シルクの想いも。……体の調子はどうだ?」
 ヨネルがエミルを抱きしめながら聞いた。
「うん……ちょっと疲れちゃってるけれど、まだ魔力供給してもらってないし、しょうがないかな。大丈夫、ここまで歩いて帰ってきたんだから」
 エミルが笑って言った。
 ヨネルは、黙ってエミルにキスをした。
 月明かりが、二人を照らしていた。
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