真の敵は愛にあり

Emi 松原

文字の大きさ
上 下
59 / 83
グリーン王国へ

1-5

しおりを挟む


 俺たちが連れて行かれたのは、お城の最上階にある部屋だった。
 まだ、レッド王国のユウト王子と、タツさん、ラオンは来ていない。
「では、皆さまが集まるまでしばらくお待ち下さい」
 グリーン王国の従者さんはそう言うと、部屋に俺たちを残して出て行った。
 俺は、思わず広い窓に近づいた。
 そこは、グリーン王国を一望できるのではないかというくらい高い場所で、窓から見える景色も新鮮そのものだった。
 俺たちの国と、全然違う。家が、木でできていないのだから。それに、二階以上の家なんて初めて見た。
「珍しいだろ」
 ハッとして見ると、エミルさんが隣に立っていた。
「体の調子は?」
 窓の外を見たまま、エミルさんは俺に聞いてきた。
「大丈夫です。二日くらい体が重くて、横になるとすぐ寝てしまっていたのですが、今はなんともありません」
「そうか。ここから見える世界、どう思う?」
 突然、エミルさんに聞かれて、俺は戸惑った。どう思うか……?俺は、もう一度窓の外を見た。全てがブルー王国と違う、ここから見える世界を。
「どう……なんでしょう。全部がブルー王国と違いすぎて、不思議な感じです。ブルー王国にはこんなに高い位置から町を見渡せる場所なんてないかもしれないですし……。だけれど……」
「だけど?」
「俺は、ブルー王国の建物の方が好きです。ここから見える色は全部同じで……。ブルー王国のように、もっと色々な色にしないのかなと思いました」
 これは、俺の正直な感想だった。
 ブルー王国の家は、屋根の色を見れば誰の家か分かるくらい、沢山の色がある。だけれど、ここから見える建物の色は全部灰色で、どの建物がなんなのか、区別ができない。
 くくくと、エミルさんが笑った。そして、そのまま俺を見た。
「今日、お前は、私以外の誰に何を問われても、発言しなくて良い。ただここにいて、しっかりと見ておくこと。……向こうのちびと顔を合わせるのは辛いだろうが、乗り越えなければいけない壁だ。分かったな」
 エミルさんの言葉に、俺は黙って頷いた。
 そのまま、俺はエミルさんに指示された席に座って、その時を待った。

 部屋の中に、俺たちと、レッド王国の国王の息子、ユウト王子、タツさんとラオン、そして……グリーン王国のティーサ女王に、ティーサ女王の沢山の護衛の騎士団の人がいた。
 俺とラオンは、一瞬目が合ったけれど、すぐにお互いそらしてしまった。
「では、平和交渉を始めましょう。今日は、両国の後継者の方がいらっしゃると聞いています。この話し合いで、ますます平和に近づけることでしょう」
 ティーサ女王が、柔らかな声で言った。 
 この人が、ティーサ女王。グリーン王国は閉鎖的だから、ほとんど知らないけれど、この人が、戦闘時刻と場所を定める提案をしたことだけは知っている。
 そのおかげで、一般の人の被害はなくなったし、俺たち騎士団も、休む時間がしっかりとれている。愛の女王と呼ばれるのも分かる気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。 妹のマリアーヌは王太子の婚約者。 我が公爵家は妹を中心に回る。 何をするにも妹優先。 勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。 そして、面倒事は全て私に回ってくる。 勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。 両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。 気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。 そう勉強だけは…… 魔術の実技に関しては無能扱い。 この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。 だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。 さあ、どこに行こうか。 ※ゆるゆる設定です。 ※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

デブの俺、転生

ゆぃ♫
ファンタジー
中華屋さんの親を持つデブの俺が、魔法ありの異世界転生。 太らない体を手に入れた美味いものが食いたい!と魔力無双 拙い文章ですが、よろしくお願いします。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」 ※カクヨムにも投稿始めました!アルファポリスとカクヨムで別々のエンドにしようかなとも考え中です!  カクヨム登録されている方、読んで頂けたら嬉しいです!! 番外編も投稿したいのですが、完結にしたものを一回解除して投稿して良いものなのでしょうか…。

王命って何ですか?

まるまる⭐️
恋愛
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

処理中です...