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グリーン王国へ
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しおりを挟む「事前に送られてきた資料によると……簡単に言うと、両国の防御力をもっと上げるべきだということです。……人が傷つかないように」
エリノア姫が最後の言葉を言った瞬間に、エミルさんが鼻で笑った。
「エミル!!」
シルクさんが怒ったように言ったけれど、エミルさんは怖い笑みを浮かべて、外を見ている。
「良いんですよ、シルクさん。我が国は、もっとヒーラーへの魔力供給を行うべきだということと、盾の製造に力を入れるべきだと書いてありました。レッド王国に関しては、防御力の強い魔獣を召喚するために、さらに広い魔獣の森を使うべきだと」
エリノア姫が、そこまで言うと、エミルさんを見た。
「この要求、どう思う?コル、アマナ」
エミルさんが、挑発的な笑顔で俺たちを見た。
俺は何も答えられるわけがない。まず、意味をキチンと理解できているかさえ分からないのだから。エミルさんもそれが分かっていたのだろうか。俺よりも、アマナの方を楽しそうに見ている。
「……この要求を飲んだら、防御力が強くなるのは事実だと思います。戦うことを優先するのであれば」
アマナが、いつもよりも震えた声で、だけれどしっかりとエミルさんを見て言った。
俺はアマナの言葉に何か引っかかったけれど、話についていけていないのが本音だ。
エミルさんは、満足そうに笑った。
「どうですか?私の選んだ後継者。とっても優秀でしょう?」
エリノア姫に向かってニヤリと笑いながら、エミルさんが言った。
「えぇ。素晴らしいですわ、アマナさん」
「こ……光栄です!」
アマナが、緊張して声が裏返るなんて、初めてだ。
だってアマナは、特別騎士団の人に対しても堂々としていたんだから。それだけ凄い人と俺たちは、同じ交渉の場に行こうとしている。
エミルさんは、怖い笑顔のまま、外を見ているし、シルクさんは真剣な顔で資料らしき紙の束を読んでいる。頼りのアマナも緊張している。
ヨネルさんがいないのが不思議だったけれど、もしかしたら覚悟の魔法と関係があるのかな……そんなことをぼんやりと思っていたら、馬車が止まった。
グリーン王国の、お城の敷地内に到着したらしい。
俺は、アマナを抱えて馬車から下ろしながら、アマナの体の震えを感じた。巨大な魔獣に迫られてもこんなに震えなかったアマナが震えている。
何か安心できることを言いたかったけれど、俺にその余裕がないのも事実だった。
「わぁ……!?」
アマナを車椅子に座らせて、周りを見た俺は、思わず変な声が出てしまった。
グリーン王国のお城を守っている騎士団だと思われる人たちの服装が、俺たちと全く違ったからだ。
魔力がかかった制服の上に、盾や武器で使われている素材だと思われるもので作られたと思われるものを、頭と胸に身につけている。重くないのだろうか。手に持っている武器も、見たことがない。魔法銃の銃口がもの凄く大きくなっていて、でも魔法銃の形をしていない。あれはどんな武器なんだろう?
「さっさと行くよ」
エミルさんに促されて、俺はアマナの車椅子を押してエミルさんの後を追った。
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