真の敵は愛にあり

Emi 松原

文字の大きさ
上 下
57 / 83
グリーン王国へ

1-3

しおりを挟む


 すると、ブランがハッとした顔をした。
 きっと、ブランは何かが分かったんだ。
 教えてもらおうと思ったけれど、アマナがブランに向かって首を振った。
「コル、自分で少し考えてみて。答えは必ず教えてあげるから」
 俺は、少しムスッとした。
「アマナ、エミルさんに似てきたな」
 ちょっと皮肉を込めたつもりなんだけれど、アマナは笑った。
「そんなの、最高の褒め言葉じゃないの」
 俺は、内心どこか安心していた。
 考えることや、やることがあれば……少しは今の苦しみから逃れられる気がして。
 俺は必死で考えた。
 戦争で得をするということは、戦争がないと得をしないということだ。
 それって……。
「アマナ、もしかして、俺たちの精製する武器の、素材を作っている人かい?」
 俺がこれを思ったのは、あの三人組を思い出したからだ。あの三人は、野菜を精製するために、畑を作っていた。
 俺たちが武器を作るには、何処かにその素材がないといけないわけだから、その素材を作っているところは、とても儲かるはずだ。
「えぇ、その通りよ。戦争をするには、武器が必要。武器に使われる商人は、必ず儲かるわね。よく考えたわね、コル。じゃあ、もっと得する人がいることも分かるはずよ。今すぐにでなくても良い。ゆっくり考えて」
 アマナが、真剣に言った。そして、すぐに笑顔になった。
「コル、何も食べていないでしょう?私たち、勧誘者の立場を利用して、みんなで部屋で食事をとっていたの。さぁ、みんなもご飯にしましょう」
 明るいアマナの声に、これ以上何も教えてもらえないと察した俺は、大人しくアマナに従うことにした。

 それからグリーン王国に行くまでの日々は、あっという間に過ぎていった。
 ブランとモカは、俺の魔力消費や体調を気にしながらも、何事もなかったように一緒に合同訓練を行ってくれた。ラオンのことを消化しきっていない俺にとって、本当にありがたかった。
 アマナも、変わらぬ笑顔で俺たちを見守り、的確なアドバイスをくれた。夜には机に向かっていることがほとんどで、アマナはここまで来てもまだ努力を怠らないんだと思ったら、本当に尊敬したし、アマナという存在に感謝した。

 
 今、俺は、ブランとモカに見送られて……アマナ、エミルさん、シルクさん、そしてなんと……王族の……エリノア姫と一緒に、特別な馬車に乗っていた。
 緊張しない訳がない。王族の人間と同じ空間にいるなんて、いつ息をして良いかも分からない。アマナをチラリと見たけれど、さすがのアマナも緊張しているのが分かった。
「うふふ、エミルさん、可愛い後継者さんですね」
 突然のエリノア姫の言葉に、俺は反射的に背筋が伸びた。
 後継者……?俺は、周りからそんな風に見られているのか?
「そうでしょう。私が選んだ、自慢の後継者です」
 エミルさんが、ニヤリと笑って答えた。
 敬語のエミルさん……初めて見た。だって、俺たちのトップはエミルさんだから。俺たちは王族と関わることなんてないから、ついエミルさんより上の人はいないと思っていたけれど……。
「さて、今回の交渉ですが」
 エリノア姫が真面目な顔になった。
 俺は緊張が増したけれど、エミルさんは窓際に肘をついて、外を見ている。シルクさんは真剣にエリノア姫を見ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜

恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。 婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。 そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。 不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。 お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!? 死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。 しかもわざわざ声に出して。 恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。 けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……? ※この小説は他サイトでも公開しております。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

王女は城を追い出されました

三国つかさ
ファンタジー
エストラーダ王国は愚かな王族たちが国を支配している。そこへ異世界から聖女がやってきて、王女アイラは城を追われた。温室育ちでプライドの高いアイラは城の外で惨めに暮らしていく――???(

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

自然と世界は廻る

已己已巳己
ファンタジー
 2024年から遠く離れた時代で大戦争が起きた。  人々は進化の過程で自然を表す四元素を中心とした能力が発現するようになった。  郊外の廃れた集落で暮らす葉月彩里は、平和を望んでいた。仲間がいて、食料を調達して、みんなで集まって暗い夜を過ごす日々。そんなはたから見れば平和な生活を送っている彩里たちも、誰もが心にしまった真の平和を求めていた。  大戦争の引き金となった事件の起こる年に生まれた彩里たちは、それぞれが教育も食事も、安心さえもない生活を続けてきた。そんな中、村を離れた彩里の訪れる先々で知り合った集落の子らを集め、仲間となる4人と現在の地で過ごすことになった。そんな中、数年ぶりに大きな音を耳にした彩里は近辺の状況を確認しに足を運ぶ。  そこで出会った1人の少女をきっかけに、物語が始まる。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

Gate of World―開拓地物語―

三浦常春
ファンタジー
積みゲーを消化しようと思い立った「俺」が開いたのは、MMO開拓シミュレーションゲームだった。 その名も『Gate of World』。 いずれ来たる魔王討伐に向けて、「勇者」が立ち寄ることのできる村を作る――それが、このゲームの目的らしい。 みんなでワイワイ村作りを行うかと思いきや、放り込まれたのは何もない平野!? しかも初めてやって来た村人はニート!? さらに初心者狩りの噂もあって、まあ大変! 果たして「俺」は、個性豊かな村人達を率いて村を発展させることが出来るのか……! ―――― ★前日譚―これは福音にあらず―公開しました。とある少年による、誰にも知られることのない独白です。   →https://www.alphapolis.co.jp/novel/937119347/869708739 ★カクヨム、ノベルアップ+でも同作品を公開しています。

処理中です...