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グリーン王国へ
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しおりを挟むすると、ブランがハッとした顔をした。
きっと、ブランは何かが分かったんだ。
教えてもらおうと思ったけれど、アマナがブランに向かって首を振った。
「コル、自分で少し考えてみて。答えは必ず教えてあげるから」
俺は、少しムスッとした。
「アマナ、エミルさんに似てきたな」
ちょっと皮肉を込めたつもりなんだけれど、アマナは笑った。
「そんなの、最高の褒め言葉じゃないの」
俺は、内心どこか安心していた。
考えることや、やることがあれば……少しは今の苦しみから逃れられる気がして。
俺は必死で考えた。
戦争で得をするということは、戦争がないと得をしないということだ。
それって……。
「アマナ、もしかして、俺たちの精製する武器の、素材を作っている人かい?」
俺がこれを思ったのは、あの三人組を思い出したからだ。あの三人は、野菜を精製するために、畑を作っていた。
俺たちが武器を作るには、何処かにその素材がないといけないわけだから、その素材を作っているところは、とても儲かるはずだ。
「えぇ、その通りよ。戦争をするには、武器が必要。武器に使われる商人は、必ず儲かるわね。よく考えたわね、コル。じゃあ、もっと得する人がいることも分かるはずよ。今すぐにでなくても良い。ゆっくり考えて」
アマナが、真剣に言った。そして、すぐに笑顔になった。
「コル、何も食べていないでしょう?私たち、勧誘者の立場を利用して、みんなで部屋で食事をとっていたの。さぁ、みんなもご飯にしましょう」
明るいアマナの声に、これ以上何も教えてもらえないと察した俺は、大人しくアマナに従うことにした。
それからグリーン王国に行くまでの日々は、あっという間に過ぎていった。
ブランとモカは、俺の魔力消費や体調を気にしながらも、何事もなかったように一緒に合同訓練を行ってくれた。ラオンのことを消化しきっていない俺にとって、本当にありがたかった。
アマナも、変わらぬ笑顔で俺たちを見守り、的確なアドバイスをくれた。夜には机に向かっていることがほとんどで、アマナはここまで来てもまだ努力を怠らないんだと思ったら、本当に尊敬したし、アマナという存在に感謝した。
今、俺は、ブランとモカに見送られて……アマナ、エミルさん、シルクさん、そしてなんと……王族の……エリノア姫と一緒に、特別な馬車に乗っていた。
緊張しない訳がない。王族の人間と同じ空間にいるなんて、いつ息をして良いかも分からない。アマナをチラリと見たけれど、さすがのアマナも緊張しているのが分かった。
「うふふ、エミルさん、可愛い後継者さんですね」
突然のエリノア姫の言葉に、俺は反射的に背筋が伸びた。
後継者……?俺は、周りからそんな風に見られているのか?
「そうでしょう。私が選んだ、自慢の後継者です」
エミルさんが、ニヤリと笑って答えた。
敬語のエミルさん……初めて見た。だって、俺たちのトップはエミルさんだから。俺たちは王族と関わることなんてないから、ついエミルさんより上の人はいないと思っていたけれど……。
「さて、今回の交渉ですが」
エリノア姫が真面目な顔になった。
俺は緊張が増したけれど、エミルさんは窓際に肘をついて、外を見ている。シルクさんは真剣にエリノア姫を見ていた。
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