真の敵は愛にあり

Emi 松原

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グリーン王国へ

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 目が覚めると、そこにはアマナの顔があった。
「アマナ……?」
 そうつぶやいた俺に、アマナの優しい笑顔が返ってきた。
「えぇ、そうよ。私よ」
 俺は、体を起こそうとした。だけれど、力が思うように入らない。アマナがすぐに手を伸ばして、俺を支えてくれた。
 部屋を見て、俺は驚いた。
 ブランとモカが、布団を敷いてその上に寝ていた。
「ブラン……モカ……どうして」
「あなたを心配しているからに決まっているでしょう。……少しは落ち着いたかしら」
 アマナが、俺の体に手を置いたまま言った。
 俺は、黙って頷いた。沢山寝たからだろうか。俺は、俺を保っていられた。
「アマナ、エミルさんは、ずっと……もう一つの覚悟の呪文をタツさんと使い続けているんだよな。俺、一回だけでこんなになったのに……ずっと……戦争を終わらせるために」
 アマナが、優しく俺を抱きしめてくれた。
「エミルさんがノートに書いていてくれたことなんだけれど……この魔法は、使いこなせるようになると、流し込みたいものを重点的に流せるようになるらしいわ。だから、大将戦とは、誰にも分からないように、エミルさんがレッド王国のタツさんと、戦争を終わらせるために話し合う場だったのよ」
 俺は、黙って頷いた。何故か、涙が出てきた。
「ん……寝てしまっていたか」
「コルっ……!大丈夫ですかっ……?」
 ブランとモカが目を覚まして、俺を見て言った。
 俺は、黙って頷いた。
「コル、ゆっくりで良いから、聞かせてちょうだい。あなたに何があったのか。理論だけでは分からない、現場で感じたあなたの気持ちを」
 アマナの言葉に、俺はアマナを見た。全てを受け入れるというアマナの意志が伝わってくる。どうして、アマナはこんなに強いんだ。
 次に、ブランを見た。俺と目が合うと、力強く頷いてくれた。
 モカも、ぶんぶんと首を縦にふっている。
「俺……戦争を終わらせるのに、ブルー王国のことしか考えていなかった。だから、どうすれば良いのか、何も分からなかったのかもしれない……」
 ぽつり、ぽつりと俺は言葉を紡いだ。
 今思えば、エミルさんは俺の覚悟を、段階を追って見ていてくれたのだと思う。俺はどこでくじけてもおかしくなかった。騎士団に入る前の決闘の時も、騎士団に入ってからの勧誘者としての周りの目も、チームを組むときも、合同訓練で新人なのに第一騎士団を相手に訓練していたことも、そして……ラオンと刃を交えた日々も。
 俺は自分に何が起こったのか、何を見たのか、一つ一つ三人に説明した。
 アマナはいつものようにメモをとらずに、じっと俺を見て話を聞いてくれた。
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