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もう一つの覚悟の魔法を使う
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しおりを挟む「ア……アマ……ナ…………??」
俺は、絞り出すように声を出した。
「えぇ、コル、私よ。アマナよ」
「アマナ……アマナ……!!俺、どうしたら良いんだ!!助けてくれ!!お願いだ、どうか俺の見たものを全て消してくれ!!」
俺のパニックは収まっていなくて、必死で叫んでいた。
「大丈夫、大丈夫よ、コル。落ち着いて。私は……私たちは、ここにいるわ。コルの側にいるわ。だから大丈夫よ」
アマナが、俺を力強く抱きしめたまま、優しい声で俺に声をかけ続けてくれた。いつものように、安心できる、優しい声で。
「もしラオンを殺したら、ラオンの妹はたった一人になってしまう!それに!!ラオンも俺も…………俺たち、友達だと思ったんだ!!おかしいのは分かってる!敵国で、戦っている相手にそんな感情を抱くなんて、いけないことも分かってる!!でも、でも、でも!俺はラオンを殺せないよ!!」
俺は泣きながらアマナにしがみついた。
アマナは片手でしっかりと抱きしめながら、俺の頭を撫でてくれた。
この感覚、俺を何よりも安心させる、アマナの手。
俺はただただ子供のように泣きじゃくった。
※※※
「お兄ちゃん?どうしたの!?」
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兄のラオンが、今までにないくらい、疲れた顔をして帰ってきたのだから。
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リーシャは、そんな兄の後ろ姿を悲しそうに眺めていた。
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