真の敵は愛にあり

Emi 松原

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もう一つの覚悟の魔法を使う

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「ア……アマ……ナ…………??」
 俺は、絞り出すように声を出した。
「えぇ、コル、私よ。アマナよ」
「アマナ……アマナ……!!俺、どうしたら良いんだ!!助けてくれ!!お願いだ、どうか俺の見たものを全て消してくれ!!」
 俺のパニックは収まっていなくて、必死で叫んでいた。
「大丈夫、大丈夫よ、コル。落ち着いて。私は……私たちは、ここにいるわ。コルの側にいるわ。だから大丈夫よ」
 アマナが、俺を力強く抱きしめたまま、優しい声で俺に声をかけ続けてくれた。いつものように、安心できる、優しい声で。
「もしラオンを殺したら、ラオンの妹はたった一人になってしまう!それに!!ラオンも俺も…………俺たち、友達だと思ったんだ!!おかしいのは分かってる!敵国で、戦っている相手にそんな感情を抱くなんて、いけないことも分かってる!!でも、でも、でも!俺はラオンを殺せないよ!!」
 俺は泣きながらアマナにしがみついた。
 アマナは片手でしっかりと抱きしめながら、俺の頭を撫でてくれた。
 この感覚、俺を何よりも安心させる、アマナの手。
 俺はただただ子供のように泣きじゃくった。


※※※


「お兄ちゃん?どうしたの!?」
 レッド王国の小さな町の郊外の花屋の二階で、リーシャが驚いた声を上げた。
 兄のラオンが、今までにないくらい、疲れた顔をして帰ってきたのだから。
「……ちょっと休みを言い渡されてな」
「お兄ちゃん……」
 リーシャは何も言えない。兄が自分の為に戦場に立っていることを知っているから。
 だけれど、こんな兄を見るのは初めてだ。
「なぁ。リーシャ」
「なに?お兄ちゃん」
「……俺、初めて友達ってやつができたのかもしれない」
「えっ……?」
 それは喜ばしいことだ。兄には、今まで一度も友達がいなかったから。
「それで、初めての友達を、俺は殺さないといけないんだ」
 ラオンが笑った。固まるリーシャ。
 そのままラオンは、外のベランダへと出た。
 そして、大きな声で笑い出した。
「俺は、俺は、初めてできた友達を、この手で殺さないといけないんだ」
 小さな声でつぶやいて、大きな声で笑い続けるラオン。
 その頬を、涙がつたった。
 リーシャは、そんな兄の後ろ姿を悲しそうに眺めていた。

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