真の敵は愛にあり

Emi 松原

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もう一つの覚悟の魔法を使う

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 ということは、俺の全ても、ラオンに流れ込んでいることになる。
 俺には両親がいないこと。正確には、俺はアマナの家の前に捨てられていたこと。アマナの両親は、足の動かないアマナには俺がいることは良いことだろうと、アマナとなんの区別もせずに育ててくれたこと。だけれど、アマナの両親は、流行病にかかって、二人とも病院で死んでしまったこと。アマナの両親が残してくれたお金のおかげで、俺たちはここまで来れたこと。そして俺が初めて特別騎士団のエミルさんを見たときに持った夢。
(俺は……ラオンを殺したくない。エミルさんの言う、双方が納得する形で、この戦争を終わらせる方法を考えたい)
 俺は、ラオンに伝わるように念じた。
【そんなの無理に決まってるだろ。戦争が双方が納得する形で終わるなんて、ありえない】
(難しいのは分かってる。だけど、やっぱり俺は君を殺せない。それに……君の妹さんを苦しめたくない)
 この魔法では、嘘はつけないのだろう。勝手に流れていき、流れ込んでくる。
【そんなこと言いやがって……俺も俺の妹も、お前の守りたい者の敵だぞ】
(敵だとしても、同じ心を持っている!)
【こんなに全部さらけ出されたのはお前が初めてだ。もしかしてこれがーーーー】

 突然、俺たちの魔方陣が爆発した。
 俺たちにこの魔法が扱えるのは、今はここまでのようだ。
 世界が一気に戦場へと戻った。そして俺は、知らない間に後ろに吹き飛ばされていた。
 誰かが、俺の体をしっかりと受け止めた。
「ブラン……」
 ブランが、俺をしっかりと受け止めて、足を踏ん張っていた。
「俺……俺……」
 何か言おうと思うのに、何も言えない。力も入らなくて、立つことすらできない。
「今は何も言わなくて良い。もう一つの覚悟の魔法がなんなのかは……アマナから聞いている」
 ブランはそう言うと、俺を抱え上げた。そうか、アマナもブランもモカも、この魔法がなんなのか知っていたのか……それなら……あんし……。
 俺の意識は、そこで途絶えた。


 幼いラオンが、泣きじゃくる妹、リーシャの手を握っていた。ラオンの両親が死んだ日だ。ラオンの両親は英雄とされた。強い魔獣を操り戦ったことに関して。そして、周りは二人を哀れみの目で見ていた。特にラオンに対して。
「あんなに才能溢れた両親の子供なのに、あの子の魔獣を操る能力は、一般以下らしいわよ……」
「ブルー王国に生まれたら良かったのにねぇ……」
 向けられる、目、目、目。
 そして、ラオンの気持ちーーーーーー


「うわぁぁぁぁぁ!!」
 耐えられなくて叫び声を上げた瞬間、誰かが俺をしっかりと抱きしめた。
 ここは……?俺の……部屋……。この感覚は、アマナ……?
 どうやら俺は、ベッドの上で叫んで飛び起きたらしい。それをアマナが痛いほどの力で抱きしめていた。ブランとモカも、側にいた。モカは涙目だった。
 俺がそれを把握して、思考が戻ってきたと思った瞬間、俺の頭の中に、あの映像が流れ込んできた。夢にまで見る、ラオンの過去に、気持ちに、爆破する前にラオンから流れ込んできたーーーー【友達】という言葉が。自分で制御できない。受け止めきれない。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
 俺は、叫んだ。叫ぶことで、この記憶から逃れられるのではないかと思って。何度も何度も、声を上げた。
 逃げようとした。逃げ場なんてどこかわからないけれど。だけれど、逃げられなかった。俺の体をガッチリと抱きしめている手があったから。
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