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もう一つの覚悟の魔法
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しおりを挟む「姉さん、余計なこと言わなくていいよ。それに、前に私が持ってきた食材、食べてないもの多過ぎ。ちゃんと食べてってあれだけ言ってるのに」
エミルさんの口調がいつもより優しい。いや、これがエミルさんの本来の姿なのかもしれない。エミルさんが、料理を机の上に置いていく。
ミリさんの笑顔が曇った。
「だって……あの人を想ったら、何もできないのよ……。エミル、ごめんね。エミルとテルに全部押しつけて」
ミリさんの言葉に、俺は心臓を捕まれたような感覚がした。
「押しつけられてるなんて思ったことないって、何度言ったらわかってくれるの。それに、この戦争は、私が必ずお互いが納得する形で終わらせてみせる。必ず、姉さんの幸せを取り戻す。だから姉さんは、ここで待っててくれたら良いの」
エミルさんの言葉に、俺は思わずエミルさんを見た。
確かに今エミルさんは言った。
この戦争は、《お互いが納得する形で》終わらせると……。
俺は、アマナの為に、ブルー王国の大事な人たちを守る為に戦争を終わらせたいとしか考えたことがなかった。そう、レッド王国の人も、苦しんでいるはずなのに。ミリさんが婚約者と離ればなれになっていることも、ヨネルさんの両親が幽閉されているということも知ったのに、俺はレッド王国のことを少しも考えてなかった。
エミルさんの夢は、俺の遙か先を行っているように思えた。そして何故か、ラオンの顔が浮かんだのだった。
食事の後、俺たち四人は二階に案内されて、小さな部屋で、四人で布団を並べて寝ることになった。四人で寝るのは初めてだ。
ブランとモカが、ヨネルさんとの訓練がどれだけ凄かったか話してくれていた。ヨネルさんは口数は少ないけれど、的確にブランとモカの弱点を狙ってきたそうだ。
俺も感じたことを話そうとしたのだけれど……どうしてだろう、瞼が凄く重い……。
※※※
「……コル、寝てしまいましたねっ、余程疲れたのですねっ」
モカが、小さな声で、寝息を立てているコルを見ながら言った。
「あのね……コルがここまで疲れている原因……それとこれから何が起きるのか、二人には話しておこうと思うの。どこかで時間を作ろうと思っていたんだけれど、コルが丁度寝てくれたから……。これからコルが直面することに、二人が動じないように。そして、私と一緒にコルを支えて欲しいから」
アマナが、いつになく真剣に、ブランとモカを見て言った。
「これから何が起きるのか……もう一つの覚悟の魔法のことだな?」
ブランの言葉に、アマナが頷いた。
「あの魔法を使うには、普段使っている魔力よりも大量の魔力を消費する。だからコルはこんなに疲れて寝てしまった。それは、体にも負担をかけるということだから……。だから、コルがこの魔法を使うときには、モカちゃん、絶対にコルの魔力供給を切らさないようにお願いするわ」
アマナの言葉に、モカも真剣な顔で頷いた。
「この魔法をあれだけの大きさで続けているエミルさんは、心身にとんでもなく負担がかかっているはず。だけれど……魔力供給をシルクさんが行うと考えたら、他の人はあの魔法を使えない。……《印》が反応する可能性があるから」
ブランが顔をしかめた。
「……計算外の魔法だったようだな……詳しく教えてくれるかい?」
ブランの言葉に、アマナが頷いた。
「コルには、まだ詳しく教えないで。エミルさんが教えなかったことには、きっと意味がある。私、なんとなく分かる。一番最初は、何も知らないでこの魔法は使った方が躊躇しないはずだから……」
アマナの言葉に、ブランとモカが姿勢を整えた。
「あのね、このもう一つの覚悟の魔法はーーーーーー」
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