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もう一つの覚悟の魔法
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しおりを挟むだけれど、エミルさんのいつになく真剣な顔に、俺は何も聞けずに、黙って頷いて先を待った。
「じゃあ、この魔方陣の作り方を教える。上手く作れるようになったら、あの木にぶつけてみろ。それで私が判断する」
エミルさんはそう言うと、俺に魔方陣の作り方を教え始めた。
俺は、それを真剣に聞いた。そして、実践した。
最初は魔方陣が上手く作れず、何度もエミルさんに怒られた。エミルさんは厳しかったけれど、とても的確なアドバイスをくれて、段々と魔方陣は形になってきた。
だけれど、エミルさんとタツさんのものに比べると、かなり小さい。
「最初から私たちのような魔方陣ができるとは思うな。あれは経験だ。向こうのちびも、いきなりでかいものは作れないはずだ」
向こうのちび……きっとエミルさんは、ラオンのことを言っているのだろう。エミルさんは、この魔方陣で俺とラオンがぶつかることを想定しているんだ……。
俺は気を引き締めて、また魔方陣を作る訓練をした。
戦場で使えるように、エミルさんの攻撃を避けながら魔方陣を作る訓練もした。
エミルさんの攻撃は相変わらず滑らかな動きで、思わず見入ってしまいそうになるところだった。
気がついたら、夜になっていた。ヨネルさんと、ブランとモカが、戻ってきた。
「……どうだ?」
ヨネルさんが、エミルさんに聞いた。
エミルさんは、ヨネルさんに向かって黙って頷くと、俺たちの方を見た。
「もう帰るには遅いだろう。うちに泊まっていけ。姉さんがいるけれど、人が多く来れば喜ぶだろう」
エミルさんの言葉に、俺たちは驚いたけれど、確かにもう今日のトロッコ列車はないかもしれない。俺たちは、エミルさんに頭を下げた。そしてエミルさんに連れられて、小さな家に行った。
「姉さん、ただいま。ヨネルと……後輩を連れてきたよ」
エミルさんとヨネルさんに続いて、俺たちは家に入った。
質素な部屋の奥にベッドがあり、そこに、痩せ細った女の人が、上半身を起こして、笑顔で俺たちを見ていた。
「まぁ!エミルが、ヨネル以外を連れてくるなんて初めてだわ。初めまして。エミルとテルの姉の、ミリです。何もない所だけれど、ゆっくりしていってね」
ミリさんが、とても優しい笑顔で言った。
エミルさんが、俺たちを座らせてくれて、料理を作り始めた。
ヨネルさんも手伝っている。
ミリさんも、俺たちのところに来て、嬉しそうに座った。
「エミル、厳しすぎない?怖いでしょう?許してあげてね」
ミリさんが、俺たちに話しかけてくれた。
だけれど、俺の胸は何故か落ち着かなかった。だって……ミリさんは、普段ここで一人で住んでいる。それに……エミルさん達の地位が落とされたのは、ミリさんの婚約者がレッド王国の人間だったからのはずだ……。ミリさんが、この戦争に何も思わないはずがない。どんなに苦しい気持ちで、エミルさんを戦場に送っているんだろう。考えただけで、苦しくなった。
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