真の敵は愛にあり

Emi 松原

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もう一つの覚悟の魔法

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「ここが……きっと、《新しい歴史》をつくっていく場所になる」
 テルさんの言葉の意味は分からなかったけれど、なにかとても大事な場所ということは、テルさんの顔を見て分かった。
 アマナは、相変わらず真剣にメモをとっていて、テルさんに色々と質問をしていた。

 しばらくして、俺たちはテルさんにお礼を言うと、アマナが行きたいと言う、次の場所に向かうことになった。
 アマナによると、この前の文の相手に会いに行くらしい。
 トロッコ列車の中で、今度はアマナが説明してくれた。
 これから行くところは……この国で、一番地位の低い人たちが住む場所。
 つまり……エミルさんのお姉さんが住んでいたり、戦争のせいで、地位を奪われた人たちが住んでいる場所ということだ。
 どうして、アマナはそこに行こうとするんだろう。
 文の相手とは誰だろう。
 俺たちは、何もアマナに聞くことはできず、黙ってついて行った。
 トロッコ列車を降りると、文を見ながら方角を指示するアマナの車椅子を押しながら、小さな村へと入った。
 そこには、小さな家が沢山建っていた。
 とても静かで……なんというか、活力が感じられない。
「あ、あそこのお店よ!」
 アマナの言葉に、俺はそのお店に向かい、扉を開けた。
「いらっっしゃ……」
 店の主が、驚いた顔をして固まった。
 俺も、驚いて固まった。
「こんにちは。お久しぶりね」
 アマナだけがニコニコして笑っている。ブランとモカは状況が分からないだろう。
 そこに居たのは……学校で騎士団をかけて決闘した、あの三人組だったのだ。
「文、ありがとう。あなた達が今やっていることを、実際に見たくて」
 アマナの言葉に、俺と三人は、ハッとした。
「アマナ、どういうことだい……?」
 ニコニコしているアマナに、俺は聞いた。
「それは、これから三人に説明してもらうんじゃないの」
 アマナの言葉に、あの三人組が頷いた。
 決闘したときが、もう遙か遠くに感じる。
 こいつらが、あの威張り散らしていた三人組だとは思えない。それくらい、雰囲気が変わっていて、丁寧に俺たちを案内してくれた。
「俺たち……あの決闘に負けて、学校を卒業してから、三人で話し合ったんだ。それで、エミルさんに言われたことや……コル、君が夢に向かって歩く姿を見て、俺たちにできることは何か考えたんだ」
 三人のうちの一人、俺とぶつかり合った、あの日のアタッカーが奥の扉を開けた。
 そこには、見たことのない武器が沢山並んでいた。
「俺たち、自分たちができることを探して、この村に来たんだ。そしたらさ、自分たちがいかに恵まれていて、生活にしても、教育にしても不自由していなかったかを目の当たりにしたんだ。それなのに威張り散らしていた自分たちが恥ずかしくなった。それで……。この村の子供達は、満足に食事がとれなかったり、しっかりと魔力供給が行われていなかったりするせいで、基礎魔力が低い。だから、少ない魔力でも精製できて、扱いやすい武器を造っているんだ。後、この店の裏で畑も作っている。エミルさんが、花を精製して花束にするだろう?それを応用して、畑でとれた野菜を精製して、村の人に配っているんだ」
 あの日、アマナを打ったシューターが言った。
「この村でも、騎士団は子供達の憧れだからさ。生まれた場所で、夢を諦めないといけないのが嫌だと思ったんだ。……文は、謝罪の意味を込めて送ったんだ」
 扉を開けた奴が言った。
「エミルさんとヨネルさんが、時々この村に来て、子供達に勉強や、戦闘を教えているんだ。それも、手伝わせてもらっている。確か、今日も来るはずなんだけれど……」
「えぇ、あなた達の文で知っているわ。文を見たときも思ったけれど、実際に見たら素晴らしいと思うわ」
 アマナの言葉に、三人は、複雑そうに笑った。
 ブランとモカは、興味津々で店のものを見ていた。
「この花は?」
 アマナが、店の棚に飾られている花束を指さして言った。
「あ、エミルさんが、初めてこの店に来たときに、精製してくれたんだ」
「アヤメ。花言葉は、《よい便り》。ね」
 変わらず、笑うアマナ。
 少しの間、沈黙が訪れた。俺は、心の整理が追いつかなかった。
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