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チームの結成
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「…………ん…………」
「…………起きたか」
特別騎士団専用寮のヨネルの部屋のベッドの上で、エミルは目を開いた。ヨネルは、机に座って書類の整理をしている。
「私……また……戦闘中に意識失った……?」
「…………正確には、戦闘禁止時間になってからだ。戦闘区域の外までは、歩いていた。団員には元気に見られているだろ。…………心配するな」
ヨネルが、エミルに向かって淡々と言う。だが、そこにはいつものような無口さは減っていて、言葉の中に優しさが混じっている。
「…………来て。体、まだあんまり動かない」
エミルが、ヨネルを見た。
ヨネルは黙って、エミルの側に行き、エミルを座らせる。そのまま、自分の胸に体を預けさせた。
「…………」
エミルが、ふぅっと何かを吐き出すようにため息をついた。
「…………お前に負担がかかりすぎだ」
エミルの背中に手を回しながら、ヨネルが言った。
「……これは、私じゃないとできないことだから」
「…………悪い」
「何が?」
「…………俺に、覚悟の魔法さえかかってなければ」
「仕方ないよ。覚悟の魔法がかかってるヨネルと、フユとハヤテ兄さんには、この役目はさせられない。万が一、《印》が反応してしまったら……そんなこと、考えたくない。シルクは後方で指示を出して貰わないといけないし」
エミルが、ヨネルの背中に手を回す。ヨネルは一度手を離すと、エミルを抱き寄せて、自分の膝の上に座らせる。
その時、部屋がノックされた。
「エミル、起きたのか?音がしたから。入っても良いか?」
シルクの声がする。
「どうぞ」
自分の部屋のように答えるエミル。
シルクが部屋に入ってきた。二人の姿を見ても、何も言わないし動じていない。
「大丈夫か?」
シルクが、エミルを見ながら言った。
「大丈夫。まだ、フユとハヤテ兄さん起きてるかしら?早いうちに、情報を共有しておきたい」
「あぁ、談話室で待ってる。ただ、もう少し休め。まだ時間はある。俺が来たのは、お前が喜ぶかもしれないと思った書類が届いていたから、見せに来ただけだ」
そう言うと、シルクは書類をエミルに渡す。ヨネルが黙って、覗き込む。
「……やってくれるじゃない」
エミルはそう言うと、ニヤリと笑った。無理していつものように笑う顔から目を背けるように、シルクが言葉を発した。
「その三人のチームは決定だ。後は、アマナの進言書。俺たちは、面白いと思っている。普段、後方支援部隊が戦闘に直接出ることはないが、早い情報共有ができるという点で、この方法も実験的に一部取り入れてみても良いんじゃないかというのが俺たちの意見だ。もちろん、後方支援部隊は極秘事項を知る場合もあるから、全チームを対象にというわけにはいかないかもしれないが」
シルクの言葉に、エミルが、楽しそうに笑う。
「コルがリーダー、これは想定内。だけど、この二人を選ぶとはね。……ブランの兄のことは今でも覚えている。それに、モカじゃん。シルクにぞっこんの」
笑いながらシルクを見たエミルだが、シルクは何かを考えるように目を逸らす。
「実力は申し分ない。それに、全員向上心が高くて、志も強く持っている。良いじゃん。楽しくなってきた。それに、アマナは本当に期待に応えてくれるね。この三人に、後方支援部隊のサポートがついたら、もっと楽しくなりそうだ。まだ一日しか経っていないのに、特別騎士団に進言書を、それも完璧に仕上げてくるなんて、前代未聞だ。実力と共に度胸もある。最高じゃない。このチームの所属、私の好きにさせてもらえない?」
「……そう言うと思った」
シルクが、ため息をついた。
「フユとハヤテさんは、所属に関しては口を出さないし、ヨネルはどう?」
「…………好きにしろ」
いつものような無表情で淡々とした声に戻ったヨネルが言った。
「……じゃあ、談話室に行こう。今日の情報共有、しておきたいから」
エミルが立ち上がろうとしたが、ヨネルが無言でエミルを抱き上げて立ち上がった。
何も言わず、歩き出すヨネル。
シルクが、複雑な表情になる。一瞬ヨネルとシルクの二人は目が合ったが、二人は何も言わず、談話室へと向かった。
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