真の敵は愛にあり

Emi 松原

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チームの結成

1-3

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「はわぁぁぁ!う、打たないでくださぁい!怪しいものじゃありませぇん!」
 女の人が、膝をつき、半泣きになって両手を挙げる。アマナより少し濃い水色で、ふんわりとした髪の毛を、二つに結んでお下げにしている。いつもアマナを見ているせいだろうか、その女の人が、子供のように見えた。
 アマナが、魔法銃を魔方陣の中に戻す。
「手荒なまねしてごめんなさいね。こうでもしないと、出てきてくれないと思ったから。私たちがここに来るのを見たあなたが、隠れるのが見えたの。コル、立たせてあげて」
 アマナに言われたとおり、俺は女の人に手を差し出した。
「あ……ありがとうございますっ……見られていたのですねっ……はわっ!?車椅子の女の人と、男の人っ……もしかして、あなた達は勧誘者さんですかっ!?」
 女の人は俺の手を取って立ち上がったけれど、その時に俺の胸のフジの花を見て、アマナを見ると、俺の手を離して後ずさった。
「えぇ、そうよ。私はアマナ。後方支援部隊に入ったわ。勧誘者はコル。アタッカーよ。そして、ここにいるのがブラン。コルとチームを組んでくれたシューター。今、あと一人、ヒーラーを探しているの」
 アマナが、笑って説明する。その姿を見て、やっぱりアマナは凄いと思った。
「あっ、あのっ、私はっ、モカと言いますっ!ヒーラーですっ!突然皆さんが来たのが見えて、ビックリして、つい隠れてしまいましたっ……」
 モカさんが、下を向いた。
「あら、突然お邪魔したのは私たちだから。でも、どうして隠れたの?あなたはヒーラーでしょ?ここで訓練していてもおかしくないじゃないの」
 アマナが、少し優しい声で聞いた。俺とブランは、顔を見合わせた。ここは、アマナに任せた方が良さそうだ。俺たちは、同じことを思っていたようで、お互い頷いた。
「あの……私っ……貴族の出身でっ……」
 モカさんが、下を向いたまま、絞り出すような声で言った。
「なるほど、そういうことね。安心して。私たち、勧誘者よ?あなたを、ひがむような目で見たりしないわ」
 アマナが優しい声で言うと、モカさんに近づいて、手を握った。
 一瞬で状況を把握するアマナ。ずっと見ていても、本当に凄い。でも、どういう意味だろう。俺は、困惑した表情でブランを見た。ブランも何かを理解したようで、俺の耳元でささやいて教えてくれた。
「貴族から騎士団に入るのは珍しいことだ。地位だけで見たら、貴族の方が上だろう。誰もが、計算外だと思うはずだ。貴族から見たら、地位を自分で落とすなんて考えられないだろうし、ここの人間は、貴族ってだけで疎む奴もいるだろう。だけれど、そんなことすぐに計算できることなのに、どうして彼女は騎士団に……」
「今ね、コルとブランとチームを組んでくれる、コルの夢に向かって、ブランの見たい景色に向かって、一緒に歩いてくれるヒーラーを探しているの。モカちゃん、あなたはどうして貴族からここに?」
 アマナが、モカさんの手を握ったまま、優しく問いかける。
「あのっ……私はっ……そのっ……」
 モカさんが、ゆっくりと話し出した。
「まだ戦闘区域が決まる前のことなのですがっ……レッド王国の魔獣が現れるとっ、いつも騎士団の人がすぐに来てくれてっ……それでっ……シルクさんがっ、いつも指揮をとっていてっ……。私、シルクさんのこと、知っているんですっ。お話ししたことはないですけど、シルクさんは上流貴族ですからっ……。そんなシルクさんが、指揮をとっているのがかっこよくてっ……それでっ……」
 モカさんの顔が、少し赤くなる。
「私っ、シルクさんのそんな姿が見たくてっ、逃げ遅れて、大怪我を負ったことがあるんですっ。その時、シルクさんは、すぐに私のところに来て、治療してくれたんですっ」
 顔を赤くしていたモカさんだけれど、突然真剣な目になって、俺たちを見た。
「その時に、思ったんですっ!貴族は、戦闘に重きを置いていませんっ。戦うのは、騎士団と庶民だという考え方があるのですっ。だけれど、シルクさんは、いつでも戦っていますっ!そして、私を助けてくれましたっ!私も、シルクさんのようになりたいと思いましたっ!ヒーラーは、その場で指示を出したりっ、後ろで戦う部隊ですっ。だけれど、いつでも人を助ける、そんな部隊だと思ったのですっ!私も、人を助けられるような、そんなシルクさんのように、なりたいと思ったのですっ!」
 モカさんが言った。
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