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勇気と覚悟
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「そろそろ時間ね」
アマナの声に、俺は黙って頷いた。そして、エミルさんから貰った花束をみつめると、大事に机の上に置いておく。
「じゃあ、コル、作戦通りにいきましょう。あなたを信じているわ」
アマナは、直前になっても平常心で笑っていた。その笑顔を見たときに、俺は、なぜアマナが騎士団に勧誘されたのか、分かった気がした。知識が豊富なだけじゃない。アマナには、自分の心を曲げない強い芯と、度胸がある。そんなアマナを守る為に、今の俺に必要なもの。やらなくてはいけないこと。夢を叶える為の、最初の試練だ。
「行こう、アマナ。俺も、アマナを信じてる」
俺は、アマナの車椅子を押して、闘技場の中へと入っていった。
闘技場の中で、俺たち二人と、相手の三人は向き合って立っていた。
立会人は、校長先生となった。
睨み合う、俺たち。だけれど、向こうが余裕の表情をしているのが分かった。
「ルールは授業と同じ。全員が戦闘不能になった時点で、残った方の勝利。命に関わる攻撃だとみなしたら、私が止めに入る」
校長先生の言葉に、俺たちは無言で頷いた。
「では……始め!!」
校長先生の声と共に、俺たち全員が、武器召喚の呪文を唱えた。
「武器精製、召喚魔法、来い!」
青い魔方陣から、素早く武器をとる俺。自分の背丈よりも長い、スピア。エミルさんに憧れて、この六年間、この武器を改良しながら愛用してきた。アタッカーの武器だ。
「武器精製、召喚魔法、来て!」
青い魔方陣から、アマナのシューターの武器が飛び出すのが見えた。アマナはこの六年で、シューターとヒーラーの腕を磨いていた。
相手は、アタッカーの短距離用の武器が二人、シューターの武器が一人だ。
一斉に俺たちに襲いかかってくる。
アマナが、その場で魔法銃を撃った。すぐ側まで迫っていた一人に命中して、一人が後ろに飛んだ。だがすぐに立ち上がる。その顔は、怒りで満ちていた。
俺は、相手のシューターの攻撃を避けて、アタッカーと武器を交える。そこに、アマナに飛ばされた、相手のもう一人のアタッカーが参戦する。一対二だ。
だけれど、俺は一歩も引かなかった。自分の想いを貫く為に、ここから逃げるわけにも、引くわけにもいかない。
ずっと、エミルさんの滑らかな動きを、頭の中で反復して、訓練してきた。それは、もう体が覚えている。俺は、二人相手に、長いスピアを回し、相手からの攻撃を受け止め、はじいてく。
「キャッ!!」
【ドン】と音がして、アマナが相手のシューターに吹き飛ばされた。アマナは動きながら戦えない。シューターにとっては、的のようなものだ。
吹き飛ばされたアマナを見たが、今俺がやるべきことは、アマナに駆け寄ることじゃない。目の前の相手を、倒すことだ。
俺は、戦争をなくしたい。その為に戦うなんて、矛盾してる。騎士団に入って戦うなんて、真逆を行っていると思われるだろう。だけれど、これが俺の出した答えだ。俺は、必ず騎士団に入ってみせる。覚悟を新たにした俺は、両足に力を入れた。
ぶつかり合う武器の音。そして飛んでくるシューターの魔力の玉。
俺は、全てを受け止め、跳ね返していく。
一対三だ。だけれど、何故だろう。全く怖くない。
徐々に俺の魔力は減っていき、体力も削られる。
それでも俺は、一歩たりとも引かない。
この状態が続けば、時間の問題で俺は負ける。
相手にもそれが分かっているのだろう。余裕の笑みで攻撃を繰り返してくる。
そうーーーーこの状態が、続けばだ。
【ズドン】
「うわぁぁぁ!?」
重量のある音と共に、シューターが吹き飛ばされて、闘技場の壁に叩きつけられた。
【ズドン】
「な、なんだ?どこから!?ぎゃぁぁぁ!」
続けて、もう一人が吹き飛ばされる。
アマナが火力重視の重い魔法銃を放ったのは、アマナの木の車椅子が転がっている闘技場の反対側。相手が目もくれなかった、後ろ側。
俺が三人を引きつけている間に、アマナはそこまで転がって行ったのだ。泥だらけになっているアマナが、うつ伏せになり、大きな魔法銃を向けている。
アマナを、いや、俺たちを侮っていた三人は、アマナが転がって移動しているのに気がつかなかった。
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