真の敵は愛にあり

Emi 松原

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勇気と覚悟

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「アマナ、どうしよう……。勝てるわけないよ、こんな戦い」
 闘技場の控え室で、俺はアマナに言った。
 十五分後に、決闘が開始される。それまで、新しい武器を精製したり、作戦を立てても良いと、エミルさんに告げられたのだ。
「コル、落ち着いて。あなたは落ち着けば、あの三人くらい一人で倒せる実力があるわ」
 アマナが、落ち着き払って言った。どうして、落ち着いていられるんだ。
「だけど、アマナが……。それに俺は、戦争を止めたくて騎士団に入りたいんだ。こんな戦いがしたいんじゃないんだ」
「コル、あなたまで、私を甘く見ているの?私、嬉しいわ。コルが騎士団に入ったら、離ればなれになると思っていたのに、一緒に騎士団に入れるかもしれないのだから。このチャンス、逃せない。ねぇ、コル。私、あなたの優しいところが大好きよ。だけど、自分の想いを貫く為には、戦わないといけない時だってあると思うの」
 アマナが、力強く言った。
「良いこと言うじゃないか」
 扉の方から声がして、振り向くと、エミルさんがニヤリと笑って立っていた。
 後ろにはヨネルさん。シルクさんの姿は見えない。
 俺たちは、慌てて頭を下げる。
「頭、あげな。私は、六年前にお前達を見てから、必ず騎士団に入れたいと思っていた。お前達は、私が騎士団に入る上で、一番求めるものを持っている。それが、今でも変わっていないと思いたい。それを、この決闘で見せて欲しい。コル、志望書に書いてあった、お前の夢を見た。その夢を叶えるためには、綺麗事だけで叶えられるか?騎士団に入る以上、必ずレッド王国と戦うんだ。お前の、夢に対する覚悟を見せてみろ」
 俺は何も答えられずに、エミルさんの言葉を聞いていた。そう、騎士団に入るということは、レッド王国と戦うということだ。それも、こんな決闘じゃなくて、命をかけて。それが、戦争だ。俺の願いは戦争をなくすこと。だけれど、そのために戦争をしに行くようなものなんだ。争いが嫌いだなんて、綺麗事を言っていてもどうしようもないことが、俺の胸に突き刺さった。
「特別騎士団庭園より召喚。精製魔法発動。来い」
 青い魔方陣がエミルさんのそばに広がり、エミルさんは白くて小さな花が沢山ついた小さな花束を手に取った。
 精製魔法は、俺たちの魔力や実力に合わせて、俺たちが頭で望んだものを別空間で精製できる。それを召喚することで、こちらの空間に召喚して、使うのだ。エミルさんは今、別の場所にある花を召喚すると同時に、精製した。凄い魔力と技術だ。
 そして、その小さな花束を、俺に差し出した。
 黙って頭を下げて、受け取る。
 それを見ると、エミルさんは、俺の肩をポンッと叩き、ヨネルさんと共に控え室を出て行った。
「タイムの花束ね、花言葉は……」
 アマナの言葉に、俺が続ける。
「《勇気》…………」
 エミルさんが、何を伝えたいのか、分かる気がした。
 今の俺に、一番足りないものが、何なのか。
 俺は、花束を握りしめて、アマナを見た。
「アマナ、俺、戦うよ。だけれど、あの三人を相手に、アマナを守りながら戦うのは難しい。どうしたら良いと思う?」
「コル。私は守って欲しいなんて、一言も言ったことないわ。私に戦術を考えさせて。そして、必ず勝ちましょう。必ず、二人で騎士団に入りましょう。……エミルさん達も含めて、全員を、驚かせてやりましょう」
 アマナが力強い声で言った。
 俺は、アマナを見つめて、大きく頷いた。



※※※
 闘技場の観覧席で、エミル、ヨネル、シルクは座ってその時を待っていた。
 エミルは、機嫌が良さそうに座っている。
「エミル、勝手なことをやり過ぎだぞ。コルとアマナが騎士団にとって必要なものをもっているのは、俺たち全員一致で認めてる。だけれど、もしあの三人が勝ったら、どうするつもりなんだ?」
 シルクが、少し怒ったように、エミルに向かって言った。
 エミルは、表情を変えない。
「これで勝てないようなら、今の実力はそこまでだってことじゃない。正規の騎士団の試験を受ければ良い。道はいくらでもある。あの三人が入ることになったら?戦う覚悟というものを、私が責任もって教えてやるよ」
 エミルが、暗く微笑んだ。
「……言っても無駄だ。……好きにさせとけ」
 ヨネルが、無表情のまま言った。
 そんなヨネルを見て、シルクは何か言いたそうな顔をしたが、黙って視線を移すと、闘技場を見つめた。
 そろそろ時間だ。
「さぁ、この六年で、何を得たのか、見せて貰おうじゃない」
 エミルが楽しそうに身を乗り出した。
 シルクが、わざと聞こえるようにため息をついたが、エミルはそれを無視した。

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