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突然の来訪者
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しおりを挟む「面白いことやってんな。そこのお嬢さんが騎士団に志望してくれたら、こっちとしては嬉しいんだけど」
女の人の、面白がるような声がした。どこかで聞いたことのある声。
「あぁ!?」
三人の声と同時に、全員一斉に女の人の方向を見て、そして一瞬にして固まった。
そこには、特別騎士団団長のエミルさんが立っていたのだ。相変わらず長い髪を高い位置で結んでいて、腰まで長い深い青色の髪。つり目できつい目をしている。そして、頭には花の髪飾りに、腕、首に沢山の石の装飾品をつけている。そのすぐ後ろには、紫色の短い髪を無造作に遊ばせて、左目を包帯で覆っている、雰囲気が怖い男の人と、エミルさんと同じ真っ青の、短い髪で、とても背が高く優しい顔をした男の人。エミルさんのチームの、シューターのヨネルさんと、ヒーラーのシルクさんだ。エミルさんはオールラウンダーだけれど、普段はアタッカーをしているとアマナから聞いたことがある。
俺たちはしばらく固まった後、一斉に膝を立ててお辞儀をした。勿論、俺はアマナを抱えて、二人でお辞儀をする。
「久しぶりだね、お二人さん」
エミルさんが、俺とアマナに言った。
エミルさん、六年も前の、それもあの一瞬のことを、覚えていてくれたのか?
「覚えていて頂けるなんて、光栄です。あの時は、助けて頂いて本当にありがとうございました」
戸惑っている俺をよそに、アマナが頭を下げたまま言った。
アマナ、一瞬で現状を把握して、挨拶を返せるなんて、凄いな……。
「さて、今日は、あんた達二人に用事があってきたんだけれどね。これは面白いものが見られそうだ。そう思わない?ヨネル、シルク」
「……好きにしろ」
エミルさんの言葉に、ヨネルさんがぶっきらぼうに返す。
「エミル、俺たちはちゃんとした目的があって来たんだぞ」
シルクさんが、エミルさんをたしなめた。
少しムスッとするエミルさん。
俺たち二人に用事……特別騎士団が自ら……?なんのことだろう。もしかして、六年前のことが何か関係しているのか?いや、それはおかしい。六年もたっているんだ。しかも俺たちはただ、助けられただけなのだから。わざわざ出向く用事なんてないはずだ……。
戸惑って、混乱していると、教師達が慌てて集まってきて、頭を下げた。
どうやら、教師達は、エミルさん達が来ることを知っていたようだ。
「さて、ちょうどここに二人ともいるから、ここで喋ってもいいかしら?」
エミルさんが、少し挑発的に言った。
教師達は、すぐに同意する。
エミルさんが、俺たち二人の前に立った。
どうしていいか分からなくて、緊張して頭を下げている俺。アマナも、珍しく緊張しているのが、支えている体から伝わってくる。
「私は、勧誘に来た。コル、アマナ、お前達二人を騎士団に入れたい。入団試験抜きで、私の権限で騎士団に入れるようにする。どうだ?コルは、騎士団の志望書を出していただろう。悪い話じゃないと思うんだけど」
エミルさんが、ニヤリと笑った。
俺は、アマナと顔を見合わせた。
勧誘だって……?
そういえば、アマナから聞いたことがある。時々、特別騎士団が自ら騎士団に勧誘する者がいる。その人達は、大きな成果を騎士団で残している。そして、特別騎士団の中で最年少のフユさんとテルさんも、エミルさんが特別騎士団に入れたはずだ。
でも、なんで俺たちが……?しかも、アマナまで。アマナは、足が動かない。それは、騎士団として戦うことに向いていないはず。それなのに、どうして……?
俺が混乱している間に、アマナは頭で整理ができたらしい。頭を下げたまま、言葉を紡ぎ始めた。
「勧誘して頂き、光栄です。ですが、私はこの通り足が動きません。騎士団で役に立てるとは、到底思えません」
「あんたには、騎士団で直接戦えとは言わない。……と言っても、シューターとヒーラーの才能はあるみたいだけれど。あんたの成績、テストでの論文を読んだ。あんたには、後方の、作戦の戦術を立てたり、情報を集めてまとめて、騎士団全体に指示を出す、騎士団を後ろで支える後方部隊に入って欲しいんだ」
エミルさんの言葉に、俺たち二人は何も言えなくなって、ただただ二人で顔を見合わせた。
「こんなに光栄な話はない。コルは志望書を出していたし、もちろんお受けするよな」
教師の一人が言った。
「そんな用事で来たんだけれど、面白いものを見てね。あんた達三人も、騎士団志望を出してたな」
エミルさんが、俺たちを蹴っていた三人に言った。固まる三人。
「そうだな……今から、学校の戦闘訓練用の闘技場を使って、あんた達三人対、この二人で、決闘してもらおうか。もし、三人が勝てたら、その場で、二人の代わりに、騎士団への入団を認めてやっても良い」
エミルさんが、少し不気味に笑った。
三人の表情が晴れやかになる。当たり前だ。向こうは三人。しかも、実力は口だけじゃない。それに比べて、こちらは二人。しかもアマナは……。
「エミル、そんな勝手なこと……」
シルクさんが、エミルさんを止めようとしたけれど、エミルさんは、シルクさんをちらっと睨んだ。黙るシルクさん。
そのままエミルさんは、ヨネルさんを見た。全く動じていない、ヨネルさん。
「……好きにしろ」
素っ気なくヨネルさんが言った。
満足そうに頷くエミルさん。
こうして、俺たちは強制的に、決闘をすることになったのだった。
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